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2012-06-06up
マガ9レビュー
本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。
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黒人コミュニティ、
「被差別と憎悪と依存」の現在
シカゴの黒人ファミリーと生きて
(高山マミ/亜紀書房)
アメリカの黒人をイメージしてみよと言われたら、どんな人や様を思い浮かべるだろう? マイケル・ジャクソンのムーンウォークやカール・ルイスの疾走、あるいはマルチン・ルーサー・キングの演説か? 傑出したミュージシャンやアスリート、公民権運動に身を捧げた偉人よりも、スピード違反で拘束された黒人男性が白人警察官複数から殴る蹴るの暴行を受けたことに端を発したロス暴動、映画で見るような銃とドラッグが横行するスラム街かもしれない。
本書はこれらのイメージとは離れた、黒人社会の中間層に属する男性と結婚した日本人フォトグラファーによる彼らの日常の点描である。白人による黒人差別といった単純な構図ではない。著者のペンはむしろ黒人社会が抱える問題に焦点を当てる。
自分たちのコミュニティから一歩出れば、誰も自分たちを守ってくれないという意識から、旅行をまったくしない黒人は少なくないという。そうした思いが被害者意識に高じると、世の中の悪いことは「すべて白人のせい」と転化していく。家族のなかでドラッグのディーラーになってしまった青年がいても、「ファミリー」はそれを咎めることなく、何事もないかのように受け入れる。若くしてシングルマザーとなった女性が、子供を自分の母親や叔母に託して、遊びほうけることも珍しくない。それでもファミリーはいつも温かい。だから自立できない。
彼らにとってのサクセスストーリーは、音楽やスポーツの分野で名を上げることだ。一方、人の何倍も勉強して学問を身につけ出世していく者に対しては、どちらかというと冷淡である。白人社会におもねるように映るからだろうか。
閉じた世界で安住する黒人社会に対する著者の目は、それが長い差別の歴史の上に築かれたものであることを認識しつつも、厳しい。向上心をもって奮闘する黒人少女について記した次の一文がそれを表している。
「白人地域の白人学校に通った彼女の子どもたちは、多かれ少なかれ人種差別にあっている。そんなことで自信喪失することなく、自信を持って黒人として生きていくには、教養を身につけることしかない。勉強することしかない。自分が賢くなるしかないのである」
黒人社会を取り巻く環境がよくなってほしいと願ってやまないゆえの言葉だろう。
バランスのとれた視線、軽いフットワーク、人間の懐にすっと入っていける屈託のなさ――そういった著者の資質が、アメリカ黒人の皮膚感覚までをも伝える、優れた本書を生んだといえる。
(芳地隆之)
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