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2011-11-02up
マガ9レビュー
本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。
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日本を滅ぼす〈世間の良識〉
(森巣博/講談社現代新書)著者は、いまの日本では「利潤の私益化、費用の社会化」がまかり通っているという。たとえば国鉄や郵政の民営化は、国民の財産であった鉄道や郵便事業のうちの黒字部門を民間企業に売却し、赤字部分は国民の税金(公的資金)で補てんするというものであった。
これは東京電力にも当てはまる。同社は独占企業体として高い電気料金を徴収する(利潤の私益化)一方で、福島第1原発事故で生じた補償は国に要請=すなわち私たちの税金で賄え(費用の社会化)と言っているわけだ。
こうした構造にメスを入れるのはマスメディアの役割である。ところが肝心の彼らの仕事ぶりをみると、ジャーナリズムではなく、お上の広報機関に成り下がってしまっている。福島原発事故の当初、心配ない、安全、大丈夫という政府や学者の言葉を無批判に垂れ流し、数えきれない人々を被ばくさせながら、反省の弁も自己検証もない。
民主主義が機能するためには、権力を監視し、国民の知る権利を守るメディアの存在が不可欠である。ところが政府の官房機密費が新聞社の政治部記者や評論家らにばらまかれていたという。ばらまいた当人である野中広務元官房長官が暴露したのだが、これについてマスメディアは見事に沈黙を守った。そんな彼らの「小沢一郎の政治とカネ」報道に接していると、空しくなってくる。
本書ではそうした話に事欠かない。
政権交代の可能性が高くなった2009年夏の衆議院選挙前の酒井法子を巡る常軌を逸した報道ぶりと、政界など重要人物が絡み、さらなる追及が必要だと思われた押尾学報道の唐突な収束。この2つのクスリに関する事件において、前者で拘束中の「のりピー」の一挙手一投足まで報じたマスメディアは、後者では警察からのリーク打ち切りと同時に取材を止めてしまったのであった。
著者はこの他、ギリシャどころではない日本の財政危機、朝青龍の品格騒動、北方領土問題なども取り上げ、「世間の良識」のでたらめを切って捨てる。しかし、本書は、小気味のよいツッコミに読者が溜飲を下げる類のものではない。実も蓋もないエロい比喩や、おちゃらけた表現の底にあるのは、政府や官僚、メディアに舐められている国民への厳しい叱咤である。
そこまでいいようにされて、あんたら、まだ大人しく黙って従っているのかい?
著者は私たち読者を試しているのではないか。そう考えたら、身が引き締まった。
(芳地隆之)
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