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2010-12-01up
本書は、サブタイトルに「小川未明、浜田広介、坪田譲治に沿って」とあるように、日本の児童文学を代表する3人の作家の軌跡に焦点を合わせている。彼らをはじめ、児童文学作家たちが戦時下、いかに戦争に加担するような作品を書いていったのか。著者は膨大な作品群を読み込み、それらをわかりやすく整理して、私たちに提示してくれる。
軍国児童書の増加は、満洲事変から盧溝橋事件へと日中間の戦線が拡大していく時代と軌を一にしていた。たとえば日中戦争が勃発した年に発行された『少年に語る肉弾決戦記』(樋口紅陽著)では、将兵が必ず「天皇陛下万歳!」を叫びながら戦死する。そのため、当時の子供たちは戦争ごっこで恰好よく死にたがり、部隊を早々に全滅させたという笑えない話もある。
戦前には反戦平和への願いを込めた作品を書き、日本社会主義同盟の発起人にも名を連ねた小川未明は、日中戦争開始後に、「どこで働いても、お国のため、人のためになるなら自身の身もわすれつくす、それが日本精神というものだ」(『世の中を見る目』)、「非常時国家のために、立派に少年工の働きをしようと決心していたのです」(『糸瓜の水』)といった表現を使うようになる。
ただし、それらは決して激烈な文言ではない。やや控えめで、それがゆえに子供たちの気持ちの奥にまで染み透っていく言葉だったのではないか。浜田広介の『コドモトイヌ』は、子供たちと犬が火の山から火の種をとって、寒さを防ぐ術のない村へ運ぶという短編だが、これは当時の「戮力共進」(心を乱さずに全員の力を結集して事に当たること)というスローガンと共鳴していた。坪田譲治は『七人の子供』という作品で、出世した兄が弟宛に出した「お前方が戦争をする必要はまだありません。それはお兄さんたちの役目です。お前方は、体を強くして、学校で勉強し、正しい、立派な人になって下さい」といった手紙を子供たちが朗読するシーンを切々と描いている。
本書によって一連の戦時下の児童書の存在を知ったいま、はたしてこれらは特別な時代に書かれたものだったのかと思う。現代の私たちも、一見ソフトな表現のなかに権力者の意図を巧みに忍ばせたプロパガンダに囲まれていないだろうか。
著者は児童文学の先達を現時点から弾劾しようとはしない。というのも、「もし自分が、その当時、プロの児童文学作家であったとしたら、このような作品にいっさい筆を染めなかったろうか?」(「おわりに」)と絶えず自問しながら、本書を書き続けていたからである。だから私たち読者も「自分たちがあの時代に生きていれば、それら戦時下の児童文学に感銘を受けていたかもしれない」との思いでページを繰りたい。そうした読み方ができてこそ、本書のテーマが生きてくる。
(芳地隆之)
この本の出版を記念して、
12月4日(土)に、第4回「マガ9学校」
講師:山中恒さん(児童文学作家)× 石坂啓さん(漫画家)「子どもの本と戦争~児童書における戦争プロパガンダ~」を開催します。
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