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2010-09-01up
マガ9レビュー
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エレニの旅
2004年フランス・ギリシャ・イタリア/テオ・アンゲロプロス監督主人公、エレニはロシア革命で混乱するウクライナのオデッサで両親を亡くし、国外に脱出しようとするギリシャ人一家に連れられて、ギリシャ、テッサロニキ近くの難民村にたどり着いた。やがて、彼女は兄妹のように育てられたアレクシスを愛して双子を身ごもるが、子供たちはある裕福な夫婦の養子に出され、エレニはやがて、妻を亡くした養父スピロサから求婚される。スピロサとの結婚を嫌い、アレクシスとともに村を出ていくエレニ。彼女にとっての苦難はそこから始まった。
時の流れを自由に行き来するかのようなカメラの長回し、始まりも終わりもない、永遠に繰り返されるかのような音楽、ときに対話ともモノローグともつかぬ登場人物たちのセリフ、そして演劇を思わせるような様式美――テオ・アンゲロプロスならではの語り口は、この映画でも健在である。
第2次世界大戦時、ドイツに占領されたギリシャでは、共産党を中心とした民族解放戦線がレジスタンスを展開するも、当初、解放戦線を支援していた英国がギリシャの共産化を恐れて、ギリシャの非共産主義勢力に肩入れするなど、国内情勢は複雑な様相を呈していた。そうしたなか、音楽で身を立てたいアレクセイは「必ず家族を呼び寄せる」と言い残してアメリカへ渡るが、太平洋戦争に志願。一緒に暮らし始めた双子の息子たちは、対立する陣営に分かれて戦うことになる。
革命や戦争によって、生まれ故郷や育った町を追われ、家族を奪われる一人の女性の悲劇を、アンゲロプロスは静謐な世界のなかに描いていく。
アテネで生まれたアンゲロプロスが7才の誕生日を迎えた1942年4月27日、ギリシャはドイツ軍に占領された。街の通りは常に戦場だった。独裁者が入れ替わり立ち替わり、ギリシャの首都を占領しては、敗れて去っていく。そうした光景を目にしてきた彼の少年時代と、彼の映画の主人公の多くが故郷喪失者であることとは、無関係ではないだろう。「エレニの旅」はアンゲロプロスの20世紀3部作の第1話だという。次作でエレニはどのような運命を迎えるのか。
アンゲロプロスの映画を見ると、無性にヨーロッパ、とりわけバルカン半島へ旅したくなる。時空を超える主人公のように、自分もまた歴史のなかに迷い込めるような気がするからかもしれない。
(芳地隆之)
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