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2013-02-27up

時々お散歩日記(鈴木耕)

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ネット選挙運動解禁と、
マスメディアのRDD方式世論調査への大疑問

 この冬、ことに寒いと感じるのは僕だけじゃない。我がふるさとからも「寒い、雪がすごい」と悲鳴のような便りがきた。
 あの2年前の冬もそうとう寒かったと思う。けれど、あまり寒さの記憶がないのは、僕のすべての感覚が地震と津波、そして原発事故に向けられていたせいだ。だが、爆発で破壊された原発に、雪が舞い散っていた映像を何度も見た記憶は残っている。3月半ばだったというのに、あの時も寒かったんだなあ…。

 それでも、寒さはもうすぐ和らぐだろう。
 先週の金曜日の国会前デモ、日曜日の地元での「原発イヤだ!府中・春のデモ」に、僕は参加した。どちらもほんとうに寒かった。その寒さにもかかわらず、国会周辺の人数は、また少しずつ増え始めている。暖かくなれば、更に多くの人たちが集まるようになるだろう。
 「デモで政治が変えられるか?」と懐疑的な人も多い。だが、いったんは民主党政権を、曖昧ではあれ「脱原発」を言わざるを得ないところまで追い込み、「大きな音だね」と口走った野田首相を、ついにデモ主催者たちとの面談にまで引っ張り出したではないか。

 もうじき、3月11日がやってくる。忘れられない日だ。
 原発はいまだに放射能を漏らし続けている。事故は終わっていない。それなのに、原発再稼働を公言し始めた安倍晋三首相と自民党、それを大喜びで喝采している米倉経団連の老爺たち。
 それほどに原発を再稼働したいのなら、まず事故原発を完全廃炉、もう絶対に放射能が漏れ出すことのないように始末し、放射能汚染物質の完全処理を達成してから動かすがいい。それが、これまで原発を造りつづけてきた自民党の、そして自民党と一緒に原発万歳を謳ってきた財界老爺たちの最低限の義務ではないか。

 そんな連中に本気の怒りを見せてやれる絶好の機会がくる。
 3月9日には東京・明治公園、翌10日は日比谷公園~国会前で、また巨大なデモが予定されている。むろん、僕は両方のデモに参加するつもりでいる。他にも全国各地で一斉に「反原発行動」が催される。たくさんの情報が届いている。このコラム(124回)で紹介したけれど、更に増え続けている。

 他にもさまざまな動きが出てきた。この7月に予定されている参院選へ向けた活動もある。
 たとえば、神奈川県の「脱原発かながわ勝手連」は、参院選での脱原発勢力の結集を求め、2月20日に脱原発を目指す各政党に要請文を手渡した。民主、みんな、共産、社民、生活が第一、みどりの風の6党あてだ。ほかに、新党大地、日本未来の党、緑の党など政党要件を満たしていない団体へも要請文を手渡したという。
 また、ある大学教授や作家、評論家、学者、市民運動家、それに多くの若者たちが加わったグループが、同じような呼びかけをしようと議論を重ねている。これはかなり具体的な活動だ。ネット上での動画配信、紙媒体としての新聞発行、大きな集会、音楽イベント、討論会などなど、いろいろなことを試みようとしている。むろん、これも参院選に向けての脱原発勢力の大同団結、連帯が大きな目標だ。
 さらに、市民たちが資金や知恵を出し合って「インターネットTV局」を立ち上げる動きもある。すでに組織ができ、かなり具体的な段階に入った。遅くとも4月になれば、きちんとその姿を現すだろう。

 まだ準備中のところも多いので、詳しくは書けないが、さまざまな動きが、やがてひとつになって、巨大なうねりを創り出すかもしれない。
 最初は小さくても、たくさんの流れが集まり、大河となって海へそそぐ。そんなこともあるのだ。事実、国会周辺の抗議集会やデモは、まさにそれの具体例だった。
 個人個人の小さな積み重ねが、国家意思を揺り動かす。
 これらの動きで特徴的なのは、どれも"ネット"を大きな手段として活用しようとしていることだ。ネットが政治そのものを変える可能性の萌芽が見えてきつつある。

 自民党などは、次回選挙から「ネット上での選挙運動の解禁」を目指しているという。
 いわゆる"ネット右翼"に人気があるらしい安倍晋三氏や麻生太郎氏らが、ちょいと調子に乗ってネット解禁に前向きなのだそうだ。べつにどんな人たちに支持されようとかまわない。それによって、ネット選挙が解禁になるならば、新しい形の選挙が始まるははずだ。ただし「ネット選挙法」は、かなりしっかりと検討する必要がある。
 どんな規制が行われるか。自分たちに都合のいいように、政府自民党は規制を歪めてくるだろう。
 広告の取り扱いも問題だ。バナー広告などが自由化されれば、結局、資金が豊富な側が有利になるのは当然だろう。そこで、また財界という"カネゴン"がしゃしゃり出てくることも考えられる。そうなれば、ネット選挙そのものが金まみれになり、薄汚れてしまうかもしれない。それをどう防ぐか。
 ネット上での政治献金も問題だし、また、ネット選挙運動解禁が、候補者や政党のみに限られるのか、なども大きな争点になる。ネット選挙運動に、一般市民はどのように関わることができるのか。巧妙な"なりすまし"の問題もつきまとうだろう。
 しかし、それらを差し引いても、ネットで選挙運動が行えることは前進だと思う。自分の支持できる候補者を容易に見つけることができるようになる。その候補者と支持者が直接のやり取りをする場として、ネット機能は利用できるかもしれない。
 我々が直接参加できるツールとしてのネット選挙を、我々は自らの手で創出していかなければならない。

 さて、もうひとつ、選挙に関して言及したいことがある。それはマスメディアが頻繁に行う「世論調査」だ。
 これらの世論調査に、僕は大きな疑問を持っている。最近の例として、あるテレビ局の世論調査を見てみよう。
 これは、RDD(Random Digit Dialing)方式と呼ばれる調査方法だという。コンピュータで勝手にはじき出した(固定)電話番号に次々に電話をかけ、うまく電話に出た人へ質問を重ねる、という方法だ。しかもほとんどの場合、録音された質問で「あなたは××内閣を支持しますか。支持する方は1の番号を、支持しない方は2の番号をお押しください」などという形式だ。肉声はない。
 この例では、「RDD方式で、調査対象は1000件。うち有効回答数は54.5%」と注意書きに示されていた。つまり、1000人に電話して、答えてくれた人は545人ということだ。この545人の回答が「安倍内閣の支持率が72%に上昇」などという結果になっていたわけだ。
 (このコラムをお読みの方は、ぜひ、新聞等の世論調査の記事の末尾の注意書きを読んでほしい。そこには、必ず調査件数と有効回答数が記されている。その数の少なさにびっくりされるはずだ)。
 確かにこの方式にも、世論調査の母集団の偏りを是正する手法は取り入れられているだろう。だが、果たして545人程度の回答だけで、支持政党や内閣支持率などを大々的にニュースとして取り上げていいものだろうか。やはり、首をかしげざるを得ない。
 更に、僕は何度かこのコラムで触れたけれど、このRDD方式の世論調査の対象はいわゆるイエデン(固定電話)だけだ。携帯電話は調査対象外。若い世代では、固定電話を持っていない世帯が急激に増えている。とすれば、RDD方式の世論調査というものが、最初から大きな偏りを持っているとみるべきではないか。
 このRDD方式の世論調査が、今回の衆院選では凄まじい結果を招いたといってもいいと思う。
 マスメディアは競って選挙直前に世論調査を繰り返し、そのたびに「民主惨敗、自民圧勝」の予測を流し続けた。「もう結果は見えた。選挙に行く気がしない」と、多くの有権者が思ったのは事実だろう。でなければ、あれほど低い投票率になるはずがない。
 結果、自民党は、前回の衆院選よりも得票数を大きく減らしたにもかかわらず圧勝した。すべてが世論調査のせいとは言わないが、あの低投票率と、それに伴う自民圧勝という結果に果たしたマスメディアの世論調査の役割は、決して小さくなかったと思う。

 イタリアでは「選挙直前の世論調査結果の公表は禁止」されているという。日本でも、それが必要ではないだろうか。少なくとも、そのことに関しての議論が必要ではないか。
 だが、日本のマスメディアは、たった500人程度の世論調査を大きなニュースに仕上げられるからなのか、そんな議論をする気配などまったくない。僕は上記の理由から、マスメディアの世論調査に大きな疑問を持っているのだ。

 繰り返す。
 ①RDD方式というやり方が、携帯電話普及の時代に完全に立ち遅れているのではないか。
 ②たった500人程度の調査結果がどの程度、民意を正しく反映できているのか。
 ③投票日直前まで公表される世論調査結果が、有権者の投票行動に大きな影響(歪み)を与えているのではないか。

 この僕の疑問に、きちんとした回答をしてくれるマスメディアはないものか? ないだろうなあ…。

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鈴木耕さんプロフィール

すずき こう1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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