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2013-02-20up

時々お散歩日記(鈴木耕)

126

原発という暗い海の中で
このごろ起きていること

 このところこのコラムも、安倍晋三内閣の危ない動きについてかなり触れてきたので、原発問題への言及が少なくなっていた。「原発問題はまだまだ終わっていないよ」とか「原発事故は収束していないのに」などというご指摘をいただいた。
 むろん、僕にとって原発問題は、今も最大の関心事だ。
 それにしても、新聞もテレビも週刊誌などの雑誌でも、原発問題についての報道やニュースがめっきり減っている。だが丁寧に読みあさっていけば、さまざまな事象が見えてくる。
 一方では、自民党を先頭に、またも、政界・財界(電力会社)・官僚・学者・マスメディアが一体となったあの悪名高き「原子力ムラ」が、着々と復活しつつある。彼らによって、国民は原発事故を忘れさせられようとしている。だが、事故は終わってなどいない。そして、我々は忘れてもいない。
 朝日新聞(2月18日付)の世論調査によれば、原発をやめると答えた人は、すぐにやめる13%、2030年より前にやめる24%、2030年代にやめる22%、その後にやめる12%と、やめるが圧倒的で、やめない18%を大きく引き離した。僕は、現在の世論調査の手法に若干の疑問を持っているけれど、この朝日の世論調査に頼らなくても、脱原発が国民の大多数の願いであることは間違いないだろう。
 しかし、自民党は安倍首相を先頭に、茂木経産相らが原発再稼働へまっしぐら。まるで「福島原発事故」などなかったかのようだ。
 あの惨禍を風化させてはならない。
 ここしばらくの「原発関連」の出来事を列挙しておこう。断じて忘れないために…。

  • 1月30日、安倍首相が衆院本会議の所信表明演説で「野田政権のエネルギー政策をゼロベースで見直す」と述べた。つまり、野田政権がかろうじて掲げてきた「2030年代の脱原発」というまどろっこしい脱原発方針すら否定、原発容認へ大きく舵を切った。
  • 同30日、茂木敏充経産相は、電気事業連合会の八木誠会長(関西電力社長)ら各電力会社幹部と会談。これは、枝野幸男前経産相にずっと面会を断られてきた電事連にとっては念願の会談となった。非公開で行われたが、むろん電事連側が「原発再稼働」と「発送電分離の先送り」を求めたのは間違いない。
  • 同31日、経産省の有識者委員会は「5年後の2018年から発送電分離を行うよう」求める報告書をまとめた。現在の電力会社独占体制ではなく、他の販路での「各家庭向けの電力自由化」は、3年後の2016年から段階的に認めるよう求めている。しかしこれらの改革案は、今国会での電気事業法改正案そのものには盛り込まれず、改正本案の付則(添え書きのようなもの)として書き込まれる予定。つまり、電力業界の反発で法改正が遅れ、手抜きされる可能性も高いのだ。電事連は「まだ判断できない」と抵抗の姿勢を崩していない。
  • 同31日、原子力規制委員会は原発安全基準の骨子案をまとめた。「特定安全施設(第2制御室など)の設置義務付け」などを定めたもので、設置の猶予期間は3~5年としている。だが、規制委の更田(ふけた)豊志委員は「猶予をつけないその他の対策で安全性は十分確保できる」と微妙な言い回し。その上で「安全対策を一気に行うよう義務付ければ、運転再開までに3、4年かかる。段階的に対策を進めるほうがリスクは減る」と、先送りとも取れる発言も。
  • 2月2日、日本原子力発電(日本原電)の敦賀原発(福井県)直下の活断層を巡る問題で、原子力規制庁の名雪哲夫審議官(規制委員会事務局No.3の幹部)が、専門家会議報告書を公表前に日本原電の役員に手渡していたことが判明。規制委は2月1日付で名雪審議官を更迭、出身母体の文科省へ異動させた。
  • 上記の問題はさらにウソが発覚。最初は「5回しか面接していない」と答えていた名雪審議官だが、計8回以上だったことが分かった。それについて原電側は「失念していた」ととぼけた。どうにも弁明できなくなれば「失念していた」と言って逃げるのが、最近の原発関係の人たちの間の流行らしい。
  • 規制庁には「ノーリターン・ルール」が新しく定められていた。原子力の規制を厳しく行い癒着を防ぐため、経産省や文科省等から出向してきた官僚は、元の省庁へは絶対に戻らない(ノーリターン)というルールだ。だが、この名雪審議官は出身の文科省へあっさりと戻った。ルールが簡単に破られたというデタラメな異動だ。元の古巣へ戻りたいならば、こういう違反をやればいい、ということになる。
  • 福井県敦賀市の高速増殖炉「もんじゅ」(日本原子力研究開発機構)の点検が先送りされ、さらにずさんなものであったことが発覚していた問題で、規制委は原子炉等規正法の保安規定違反に当たるとして、2月中にも「もんじゅ」に立ち入り検査をすることを決めたもよう。
  • 同4日、原子力損害賠償支援機構は東電の再建計画(総合特別事業計画)の見直しを示唆。東電は「2013年度の黒字化」を目指しているが、それは原発再稼働が前提の計画。とてもそれは無理との判断。
  • 東電は原発事故被害者への賠償金支払いのために、国へ7千億円の追加資金援助を要請していたが、茂木経産相はこれを認めた。追加は3回目で、計3兆2431億円にのぼる。これは、政府と電力各社で作った「原子力損害賠償支援機構」が5兆円を上限に立替え、東電が黒字達成後に返済するという仕組み。だが東電は「賠償金は10兆円を超える可能性がある」としていて、今後の支援がどこまで膨らむかは未定。むろん、これが返らなければ国民の負担。
  • 東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)の安全性を検討する新潟県技術委員会の委員のうち、数人の委員が原発メーカーや電力業界から多額の金銭を受け取っていたことが判明。だが県の須貝幸子原子力安全対策課長は「実態を知っている委員のほうが問題点を指摘できる場合もある」という、ほとんど意味不明の釈明。
  • 同5日、日本原電は敦賀原発直下の断層に関し「新たなデータでは、耐震設計上、考慮すべき活断層ではない」と、規制委の報告書に真っ向から反論。
  • 国の経済政策の大方針を決める「経済財政諮問会議」のメンバー(民間人は4名)に、原発メーカーの東芝・佐々木則夫社長や東電社外取締役の三菱ケミカルHDの小林喜光社長が入っていることに疑問の声が挙がっている。
  • 同7日の朝日新聞のスクープ。福島原発事故・国会事故調査委員会の現地調査に際し、東電側は「1号機内部は真っ暗で電源もなく、立ち入り調査は不可能」と言っていたが、実は電源もあり明かりも十分だったことが判明、東電側・玉井敏光企画部長(当時)の虚偽説明だった。
  • さらに上記の東電の説明自体がウソだった。事故調から問われたのではなく、東電の玉井部長からの説明で、立ち入らないよう"意図的に"妨害していたことが判明。ウソにウソを重ねていた。「非常用復水機が、津波ではなく地震によって壊れていたのでないか」と主張する田中三彦委員には、特にこの場所を見せたくなかったらしい。地震で壊れたとなると、これまでの東電の「津波での崩壊説」が虚偽であったことがバレてしまい、他のすべての原発についても、地震対策に膨大な費用が必要となることを恐れたものと言われている。
  • なお、この問題に関し、東電広瀬直己社長は、同12日に衆院予算委員会に参考人招致。「決して意図して虚偽説明したのではない」と釈明。では、意図せずウソをつく、というのが東電の体質か?
  • 関西電力と九州電力では、元社長や役員たちが就任する「顧問」や「相談役」の報酬、専用車、専用室、秘書給与などを電気料金に上乗せしていた。関電は秋山・元社長ら顧問14人に対し平均約1千万円、九電は鎌田・元社長ら3人の相談役・顧問に対し、平均3千万円を支払っていた。むろん、これらは消費者の電気代である。
  • 同6日、東電はようやく米国からシェールガスを輸入すると発表。米国内ではシェールガスの増産によって、液化天然ガス(LNG)の価格は、従来の5~6分の1にまで下落しており、日本の電力会社もようやくその買い付けに前向きになった。現状のLNG長期契約と比較して、約3割安くなるという。
  • 原発事故で避難するなどの被害を受けたとして、東京・千葉・福島の被災者が、事故2年目の3月11日に、国と東電を相手取って損害賠償を求める集団訴訟を各地裁へ起こす。福島から東京、千葉へ避難してきた住民と、福島県内で避難した住民たち。
  • 同6日、米カリフォルニア州サンオノフレ原発は、蒸気発生器の配管故障で停止中だが、設計した三菱重工や電力会社が設置前から設計の問題を把握しながら安全上の改良をしていなかった、という内部文書を米上院議員が入手。徹底調査を米原子力規制委員会に求めた。
  • 同7日、日本原子力研究開発機構は主管する「もんじゅ」の非常用ディーゼル発電機などの重要な5機器の点検が終えていないにもかかわらず、点検終了と虚偽報告していたことが判明。「もんじゅ」の所長代理は「点検したと思い込んでいた」と釈明。これが釈明になるのだろうか?
  • 同8日、関西電力は美浜原発(福井県)の断層調査で「活断層と原発敷地内の破砕帯をつなぐ構造は見つからなかった」として、安全上の問題はないとする中間報告を規制委へ提出。
  • アメリカでは、原発閉鎖が相次ぐ。シェールガスの増産に伴い、液化天然ガス(LNG)価格が下落。それを使った火力発電が急増。原発はコスト的にも割に合わなくなったと、大手電力会社が判断したもの。フロリダ州、ウィスコンシン州、ニュージャージー州などで原発の閉鎖・廃炉が進行中。
  • 同9日、茂木経産相はサウジアラビアを訪れ、原発関連の人材育成などで、原発事業に協力する意向を表明、「原子力協力文書」をまとめる。
  • 同13日、福島県県民健康管理調査の検討会が開催。18歳以下(原発事故発生当時)の2人が新たに甲状腺がんと確定された。昨年判明した1人とあわせ、計3人となった。ほかに7人ががんの疑い。10人のうち、男3人、女7人、平均年齢は15歳。福島県立医大の鈴木真一教授は「甲状腺がんは最短で4~5年で発症というのがチェルノブイリの調査で分かっている。今回は、もともとあったがんが見つかったもの」として、福島原発事故との関連を否定。その一方で「ただ、そうとは断定できない。きっちり検討していかなければならない」とも述べた。検討委員会の山下俊一座長は「数だけ見ると心配かもしれないが、10代、20代で見つかる可能性のものが前倒しで見つかった」という、言い逃れとしか思えない見解。この調査は3万8千人が対象。うち186人が、2次検査が必要と判断された。2次検査で細胞検査が必要とされた76人のうち、10人にがんの疑い、うち3人が甲状腺がんと確定。
  • 上記の結果についての補足。子ども(14歳未満)の甲状腺がんの発症率は、10万人あたり0.05~0.1人(国立がんセンター1999年統計)とされている。つまり、100万人あたり1人未満なのだ。それが、福島県調査では3万8千人に3~10人という値。これが、山下教授らが言うように「見つかるはずのものが前倒しで見つかっただけ」と言えるのか。山下教授の見解の恐ろしさ。その山下教授は福島県立医大副学長の職を離れ、放射線障害のデータをどっさり抱えて元の長崎大学へ戻る。
  • 同14日、原子力規制委員会の田中委員長ら5人の委員の人事が、衆院で事後承認された。自民党では2名の議員が「規制委は原発再稼働に厳しすぎる」として採決を欠席。高木毅議員は福井3区で父の元敦賀市長が原発誘致の旗振り役、細田健一議員は悪名高き安全・保安院の元職員。自民党内の分かりやすい人々。
  • その規制委だが、どうもおかしい。1月28日の敦賀原発活断層評価会議で、専門家チームがまとめた報告書は全員一致で「2号機直下の断層は活断層」と指摘した。これにより、敦賀原発は廃炉への方向だったのだが、なぜか席上、島崎邦彦委員長代理は「評価書を別の専門家にも見てもらう」として結論を先送り。委員からは「無駄な作業でずるずる結論が先延ばしされるのではないか」との疑問の声。どこかからか"圧力"がかかったのではないか、との疑惑も。
  • 同15日、米ワシントン州のハンフォード核施設で、放射性廃棄物貯蔵地下タンクから汚染水が漏出と発表。長期的には地下水汚染の可能性も指摘されている。施設地下には汚染水を含んだ約170万トンの放射性物質が貯蔵され、過去にも漏出事故があったという。
  • 「脱原発法」が、近いうちに参院で再提出される。昨年9月に「遅くとも2020年~25年までのできる限り早い時期に脱原発の実現」を骨子として衆院に提出されたが、解散総選挙のため廃案となった。今回は「新増設禁止」「運転開始40年で例外なく廃炉」「もんじゅの即時廃止」などを盛り込み、生活、みどりの風、社民などが中心で、民主、みんなにも賛同者を呼びかけるという。
  • 同18日、日本原電は丸紅と組んで、カザフスタンと原発導入に関する覚書を結んだと発表。2020年代の新規建設を計画。
  • 同18日、規制委の専門家評価会合で、東北電力東通原発(青森県)の敷地内の断層について「活断層である可能性が高い」とする報告書案を決めた。東北電力が十分な反論資料を示せなければ再稼働は大幅に遅れる。東北電力は「地層が水を吸って膨張する『膨潤』であり、活断層ではない」と主張したが、調査団に「根拠が乏しい。諸外国にもそんな例はない」と一蹴された。それでも東北電力は「再調査で活断層ではないことを証明する」としている。
  • 日本原電は敦賀市に、2013年度に約7億円を寄付することで、敦賀市と合意した。原電が保有する敦賀原発が規制委の調査によって「原子炉建屋直下の断層は活断層である可能性が高い」と判断され、廃炉の公算が高くなったあとでの決定。なんとしてでも敦賀原発を再稼働する決意らしい。この金は当然、各電力会社が原電へ支払う基本料金の中から支払われる。これは、我々消費者が払う電気代に含まれている。つまり、原電の敦賀市への寄付は一般消費者の電気代なのだ。

 まだまだたくさんの「原発に関わる話」があるが、これぐらいにしておこう。原発というのは、どこをほじくってみても、政治のどす黒い流れと、金の汚臭、それに虚偽と隠蔽の渦の中だ。わけの分からない妖怪どもが顔を覗かせる、不気味な世界だ。 原発に関わる人間を、個人という範疇で語れないところが恐ろしい。ひとりひとりは普通の人格であっても、いったん原発という暗い海に投げ込まれれば、いつの間にかヌラリと無表情の同じ仮面を被った正体不明の人格に変容する。そこに"個"はない。同じ肉付き仮面の原発集団が、どろどろと動いているだけだ。

 ここに挙げた中で、僕が特に切なく感じてしまうのは、福島県の子どもたちから見つかりつつある疾病のことだ。
 「本来見つからないはずのものが、厳格な検査によって前倒しで見つかっただけで、心配するには及ばない」などと平気で口走る"医学者"とは、いったいどんな人物なのだろうか。

 僕は、原発ウオッチをやめない。

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鈴木耕さんプロフィール

すずき こう1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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