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2012-08-22up
時々お散歩日記(鈴木耕)
102マスメディアとネットの調査の
驚くべき違い
お久しぶりです。
個人的な事情により、しばらく連載を休んでしまいました。すみませんでした。
このところ、まとまった文章を書けるような心境ではなかった。ある出来事があって、その後10日間ほどは後始末に追われ、やっと落ち着いたら、やる気が失せていた。
数少ないこのコラムの読者の方から、「サボりすぎです」「もう辞めてしまったんですか」「頑張って再開してください」…というメールを何通かいただいた。ああ、こんな拙い文章でも楽しみにしていてくれる人がいるんだな、と思った。少し、元気が出た。
いつまでもぐずぐず考えていても仕方ない。考えても、僕にできることは限られている。
そう思って、まずはツイッターを再開した。日記代わりの僕のツイッターだったが、しばらく空白になっていた。少しずつ空白を埋め始めよう。そして、何回か休んでしまった金曜日の「官邸前デモ」にも参加を再開した。行ってみると、大きなうねりは縮小するどころか、ますますその勢いを増していた。
変わらないのは、うねりに気づけない政治家たちとマスメディア。いや、本当は気づいているけれど、気づかぬ振りをするのが精一杯の人たち。彼らが棲息するのは国会周辺。そんな国会内の動きを報道する大手報道機関各社の記者たちが使用しているのが「国会記者会館」。その会館の前庭への出入り口に、いつの間にか「関係者以外の立入りを禁止します」という仰々しい立て看板が出されていた。
この記者会館は、官邸前集会が開かれている場所にいちばん近い距離にある建物。会館の前庭には、少し前までは、わりと自由に出入りできた。これまでの金曜日集会で、この場所で「騒ぎ」があったという事実はない。マスメディアの記者たちが乗り回す黒塗りのハイヤーが通れば、集まった人たちが自主的に交通整理をして車を通していた。トラブルなどまったくなかった。そこが、突然封鎖された。
国会記者会館は、衆議院に所属しているという。衆議院が無償で「国会記者会」へ貸与している施設なのだ。衆議院の費用は、当然のことながら国民の税金で賄われている。ということは、この「国会記者会館」も、我々の税金で維持されている、ということになる。
その場所から「国民」が排除されたのだ。それも、何のトラブルも起こさず、広い前庭のほんの一部を使っていただけなのに「立入り禁止」にされてしまったのだ。
この間のデモや原発をめぐるさまざまな報道を、市民の視線で行っている独立メディアはたくさんあるが、その中でも「Our Planet (アワープラネット)TV」(白石草代表理事)は、一貫して脱原発の姿勢を貫き、報道の質も高いと評価されている。
そのアワープラネットが、国会記者会館に「会館の屋上使用の許可」を申請した。官邸前抗議集会は、警察の警備によって歩道だけに押し込められており、全体像を取材撮影することはきわめて難しい。ところが隣接する記者会館の屋上からはそうとう遠くまで見渡すことができ、取材拠点としては絶好の場所なのだ。
そこでアワープラネットは、会館屋上からの映像取材を申請したわけだ。7月29日の「国会包囲デモ」取材のためだった。しかし、国会記者会はこれを拒否。そこで、屋上使用を求める仮処分を申し立てたが、東京地裁(福島政幸裁判長)は、申し立てを却下した。そして、そのような出来事をマスメディアはほとんど報道しなかった。自分たちに都合の悪い事実には目をつぶる。
以下、その時の事情を「Our Planet TV」のHP(7月27日)から抜粋する。
(略)Our Planet TVは、毎週金曜日に官邸前で行われている「反原発抗議行動」の様子を撮影するため国会記者会館屋上への立ち入りを求めてきたが、管理にあたっている国会記者会より、記者クラブに所属していないとの理由で拒否されていた。このため、Our Planet TVは、「取材の自由・報道の自由は、一部の記者クラブに加盟している一部のメディアの特権ではない」と主張。屋上の使用を求めていた。
これに対し、国会記者会は「国会記者会館は、衆議院から国会記者会に対し、国会関係取材のための新聞、通信、報道等の事務室として使用することを認められているものであり、公開する場所ではない」として申請を拒否し、さらに使用権限は「国会記者会館の自由裁量である」としていた。また、国側は、国会記者会館の使用は、行政処分であるため、民事の仮処分申し立てにはそぐわないと回答していた。
地裁の判断は、今回のように屋上に入って取材するという行為は法的に守られるべき権利(被保全権利)とはいえないというもの。国会記者会と衆議院の間で、どのような契約が結ばれ、国会記者会が公的な施設である国会記者会館を「自由裁量」で使用する権限を委託されているのかについては、一切の証拠文書も提出されなかった。(略)
この地裁の却下を受けて、アワープラネット側は、即時抗告した。当然の成り行きだ。
「記者クラブ」というマスメディア連合軍が専有してきた記者会館。その権益擁護のために、彼らは独立メディアを排除した。一連の原発報道で、「マスゴミ」などというひどい言葉さえ生まれたほど多くの批判を浴びているマスメディアなのに、まるで反省がない。
今回の国会記者会館屋上の使用拒否は、マスメディア側が、さらに多くの独立メディアを敵に回そうとする愚かな行為だとしか、僕には思えない。金曜日夕刻の数時間、屋上を取材場所として開放することがなぜできないのだろうか。既得権益にしがみつくことの不様さ。どれほど批判されれば目が覚めるのか。
まさに、マスメディアの旧態依然たる姿勢が暴露された問題である。それにしても、この事態をマスメディアはほとんど取り上げない。報道の自由や権利を言うのなら、自らが訴えられているこの問題を、なぜ画面や紙面で報道しないのか。「臭いものに蓋をすべきではない」と彼らは言い続けてきたが、自らが発する悪臭には気づかないらしい。
マスメディアが旧態依然なのは、毎月1度は大手報道各社が行う「世論調査」に典型的に表れている。何度か書いたことだが、このところの「世論調査」の結果の乖離が、扱うメディアによってますますひどいことになってきてしまった。
たとえば、「次期選挙でどの党へ投票するか」という設問に対し、国民の生活が第一(長ったらしい党名だ)へ、と答えたのは、フジテレビ「報道2001」の調査では1.6%、ところがダイヤモンドオンラインのネット調査ではなんと41.98%が投票すると答えている事実がある。どちらも、ごく最近の調査結果だが、この凄まじいばかりの"違い"をどう理解すればいいのだろう。
僕は別に、国民の生活が第一(もう少し短い党名にしてくれ。書くのに時間がかかって仕方ない!)の支持者ではないが、ここまでメチャクチャな結果が出ると、大手メディアがこの党になんか含むところがあるのではないか、と疑いたくもなる。これほどの違いを、単にマスメディアとネットメディアの属性の違いだと片付けてしまうわけには、もういかなくなっているのだ。
僕はこの「世論調査」には落とし穴があると、ずっと言い続けてきた。固定電話(いわゆるイエデン)と携帯電話の問題である。
東京新聞の投書欄(8月18日付)に、藤原さんという方の、こんな投書が載っていた。
さまざまな報道機関が実施している世論調査の方法に常々疑問を感じています。コンピューターで無作為に抽出した番号の固定電話に出た人を対象としていることです。
携帯電話が飛躍的に普及している今日、大多数の若者は未婚、既婚を問わずに固定電話を備えていません。一方、高齢世帯も投資話などの電話勧誘やおれおれ詐欺等を警戒して、番号表示機能を備え、見知らぬ番号からの電話には出ない傾向があります。
現状の調査方法では若者と高齢者を除く層が対象になる確率が高く、有権者全体の傾向とは違った結果を読者や視聴者に提供していることになります。
手軽で安易な今の方法を見直し、公平で適正な調査方法に改善することを望みます。
僕がこれまで主張してきたことと、ほぼ同一である。
かつて知人の新聞記者にこの点について訊ねたことがある。彼は「科学的手法を取り入れ、誤差の範囲も確認、年代や性別がきちんと平準化されるまで電話での調査を繰り返すから、現在のところ問題はないと思う」と答えてくれた。それは、その通りだと思う。
しかし、その「科学的手法」は現代という時代によって、すでに乗り越えられてしまっているのではないか。現行の世論調査手法は、あくまで「固定電話」を対象に編み出されたものだったから、携帯電話のすさまじい普及には、まったくといっていいほど対応できていない。
実は、この記者も「携帯電話への対応は、現在、社内で検討中であると聞いている」と話していた。
携帯電話の契約数は、2012年7月現在、実に1億2600万件に達している(電気通信事業者協会HP)。それに対し、固定電話は2011年にはすでに4000万件を割り込んでいる(総務省発表)。しかも、固定電話は会社や商店などでの業務使用のものが多く、家庭使用の固定電話の総数はもっと少ないと見るのが妥当だ。とすれば、現在の「電話による世論調査」は、実際に使用されている電話のうちのたった24%(1億6600万分の4000万)以下しか対象にしていないことになる。
この数字だけを見ても、現在の「世論調査」が、いかにいびつなものかが分かるだろう。
マスメディアが「世論」というものを見誤っている原因がここにあると、僕は思う。そして、「マスコミの世論調査の数字こそが世論」と思い込んでいる旧い政治家たちが、ほんとうの「世論」を読み取れない原因もまたここに存在する。僕の推論は間違っているだろうか?
新聞やテレビが毎月1度流す「支持率」に一喜一憂している政治家たちが、国会前へ押しかける膨大な人々の声を聞き取れないのは、そのためではないか。
とりあえず、こんな「世論調査」に風穴を開ける方法は、完全とは言えないがひとつだけある。それは、3種類の「世論調査」を並列に扱って報道することだ。
(1)旧来の固定電話での調査
(2)ネットを利用した調査
(3)面接による調査
ネットでの調査はかなりバイアスがかかる、という批判はある。だが、それを言うなら固定電話だって同じことだ。家にいて固定電話で応答する層など、そうとうにバイアスがかかっているはずだ。面接調査は、他の方法と比べて人件費がかかることから、そう度々は行えないだろう。
だから最低限、(1)と(2)を並列で報道すればいい。マスメディアも、いまやネット時代に対応した部門を抱えている。その部門で、電話調査と同時にネット調査も行い、結果を同時に同じ大きさで報じればいい。そのくらいのことをやらなければ、現状の「世論調査」に対する信頼度は、急速に失われていくだろう。それは同時に、マスメディアへの信頼失墜をもたらすに違いない。
しかし、あんなにしょっちゅう世論調査を行わなければならない理由が、僕にはよく分からない。
いまだに「社会の木鐸」とか「世論のリーダー」などというお題目を信じているとしたら、マスメディアの「時代を見る目」が完全に「時代遅れ」になっている証拠だとしか思えない。
鈴木耕さんプロフィール
すずき こう1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。
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