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2012-07-18up
時々お散歩日記(鈴木耕)
101「侮辱」された者の怒りを
もう20年ほども昔、『101回目のプロポーズ』というテレビドラマがあったけれど、この「お散歩日記」もとうとう101回目になってしまったなあ。こんなに長く続けるつもりじゃなかったのだが、原発をめぐっては、いくら書いても新しい事実や出来事が起きて、このコラム、やめるキッカケがなかなかつかめない。
7月16日、僕はカミさんと一緒に、代々木公園の「さようなら原発10万人大集会」に参加した。鎌田慧さんや落合恵子さんらが、文字通り必死になって頑張り、裏方のスタッフのみなさんが何カ月もかけて準備したその苦労が、この日、報われた。
主催者発表で17万人の参加者数。「もっと多い」と言う人も多かったけれど…。カミさん曰く「この集会の主催者って、ほんとうに真面目ねえ。20万人超え、くらい言えばいいのに」
それはともかく、もの凄い人の波、そして熱気。太陽までもが人々の熱に呼応したようにジリジリと強い。でも、かなり風が爽やかだったし湿度も低かったようで、それほどの厳しさは感じなかった。
呼びかけ人の言葉。
大江健三郎さんの「原発事故がなお続く中で、関西電力大飯原発を再稼働させ、さらに再稼働を広げていこうとしている政府に、私らは今、侮辱されていると感じる」に、僕は強い共感を覚えた。
そうなのだ。我々は野田政府によって「侮辱」されている。毎週金曜日の官邸付近の巨大な集会や、この日の17万人もの人々の声に、一切耳を傾けようとしない野田(怒りの「呼び捨て宣言」実行中)は、まさに国民を「侮辱」しているのだ。
「10万人を集めるためならなんだってやりますよ」と言っていた鎌田さん、「マガ9」の事務所にわざわざ出向いてのインタビューにも応じてくれた。それほど懸命だった。前日の僕へのメールでは「とりあえず、明日が終わったら温泉にでも行きたい気分です」と書かれていた。
ほんとうにご苦労さま! 次の闘いに備えて、ぜひ英気を養いに温泉へでも。
我々を「侮辱」しているのは、残念ながら野田だけではない。たとえばNHK。広瀬隆さんによれば「何も(N)報道しない(H)公共放送(K)」だそうだけれど、ほんとうに僕は驚いた。
実はこの日、僕ら夫婦は市民デモの最前列付近に加わったので、意外に早く千駄ヶ谷駅に辿り着いた。延々と出発に時間のかかったたくさんの参加者のみなさんには申し訳ないけれど、午後5時過ぎには自宅に帰ることができた。そこで、ニュースを観た。民放のニュースでは、少しだけれどこの集会とデモを伝えていた。なんと、6時過ぎになっても、まだデモ行進が続いている。それほどの参加者数だったのだ、とそのニュースを見ながら僕は嬉しく驚いた。
ところが6時のNHKニュース。この巨大な集会とデモには、一切、まったく、全然、ちらりとも、触れなかった。「子どもたちが流しソーメンを楽しみました」というニュース(?)が、かなりの時間を取って流されていた。「流しソーメンと一緒にNHKも流されちまえ!」と、僕は思った。カミさん、口をあんぐり開けたまま。いやはや。
この国の首都のど真ん中で、ある出来事をめぐって17万人もの人間が炎天下にもかかわらず集まり、抗議の声を上げたという事実が、子どもたちの流しソーメンにも劣るニュース価値しかなかったと、NHKは判断したらしい。こうなると、もうそのリッパ!な「報道姿勢」に感動すらおぼえる。
NHKは、この集会会場のすぐそばに巨大なビルを構えている。会場からの声が、直接届くほどの近さだ。だが、届かなかったらしい。野田が抗議の声に「大きな音だね」と口走ったことに匹敵する鈍感さというしかない。それぞれの番組では、原発や放射能被害について、かなり素晴らしい特集を作るNHKだが、ことニュースに関してはひどすぎる。多分、ニュース班のディレクターや責任者たちの感性によるのだろうが、それにしてもこの報道ぶりはどうしようもない。
僕以外でも、このNHK6時のニュースに呆れた人は多かったらしい。NHKには、抗議の電話がかなりかかったという。それに配慮したのかどうか分からないが、7時のニュースでは、短いけれど大集会に触れたという(腹を立てた僕は、観ていない)。
そのほかにも我々を「侮辱」する事件(!)が繰り返される。
いや、もしかしたら、政府はわざと我々を怒らせて「反原発世論」の高まりを応援してくれているのかもしれない。そうとでも考えなければ、まったく理解できない事件(!)だ。
7月15日、仙台で行われた「意見聴取会」なる催し。政府が「発電量に占める将来の原発比率について、広く国民から直接意見を聞く」という趣旨で始めたものだが、これが大紛糾。
この政府設定の原発比率が「0%、15%、20~25%」という3つの選択肢しかないということ自体、15%に誘導しようという政府と原発マフィアの陰謀(この場合だけは、僕も陰謀論を肯定する)だとしか思えない(なぜ5%がないのか)が、それについてはここでは触れない。
15日の仙台での聴取会に、東北電力の岡信慎一執行役員と、東北電力のOBで東北エネルギー懇談会という原発推進組織の関口哲雄専務理事が意見陳述人に選ばれて出席、当然のごとく20~25%推進論を陳述、会場から批判の声が続出して混乱したのだ。
それが1回だけなら、細野原発担当相が言うように「抽選で選ぶので仕方ない」という弁解もかろうじて通るかもしれない。だが、16日に名古屋で行われた「聴取会」でも同じ事件(!)が起きたのだ。
この会で例によって20~25%論をとうとうと述べたのが中部電力原子力部の課長級岡本道明氏。しかもこの人の発言が、脱原発論者へのあからさまな挑発としか受け取れないような言い回し。
「35%、45%案があればそれを選択していた」と、原発どんどん造れ論を披露。さらに「放射能の直接的な影響で亡くなった人は、ひとりもいない」と、事故直後にどこかで聞いたような発言。しかも「その状況は5年後10年後も変わらない」「疫学的データでも証明されている事実」とまで踏み込んだ。
おいおい、そんな「疫学的データ」があるのかよ。チェルノブイリ事故で、今も放射線によるとみられる「晩発性障害」がたくさん起きている、という報告はたくさんあるではないか。そう問い詰めれば「現在起きているガンや内臓疾患と、原発事故との因果関係は証明できない」と、どこかの学者の言い分を持ち出して開き直るだろうけれど。
「疫学的データ」からは「証明できない」のであって「そういう事実がない」ということとは根本的に違う。それをわざと混同して「疫学的データで証明された」という。このレトリック、例の「東大話法」とそっくりだ。
さらにこの名古屋の聴取会ではもう一人、日本原子力研究開発機構(あの「もんじゅ」の運営体)の職員も20~25%推奨の意見を述べていた。こうなると、ただの偶然とは言い切れなくなる。今までたった3回しかおこなわれていない「聴取会」のうちの2回で、原発関係者がそれぞれ2人ずつ選ばれた。普通の言葉でいえば、こういう事実を「やらせ」と呼ぶのである。
様々な意見があるのは分かる。だが、直接の利害関係者が意見を述べるのは、明らかに「国民の様々な方々から直接意見を聞く場を設ける」という政府の趣旨からは逸脱している。自分で原発を造り運営している人間が「原発は正しい」と発言するのは当たり前だろう。彼らは記者会見やその他、いろいろな場で自分たちの立場を正当化してきたし、意見陳述の機会を持っている。意見を言う場をほとんど持たない一般国民と同一視するのは、明らかに間違っている。
そのくらい、政府だって分かるはずだ。
それなのに、わざわざ批判されるのを承知の上で、こんな人間たちを選ぶ。これは「国民の怒りをかき立てて、反原発の世論を盛り上げるための深慮遠謀」と皮肉を言われても仕方ない。いや、もしかして、これを企画した広告代理店の担当者の中に「反原発」の考えの方がいて、こうやって「反原発」の世論喚起を狙っていたのかもしれない(んなバカな)。
この「意見聴取会」自体が、そうとうおかしい。まず、「0%、15%、20~25%」各案の賛成者を、それぞれ3人ずつ選んで、各人に10分間だけ意見を述べてもらう。全部で90分、それに対する質疑応答も政府からの回答もなにもなし。かっきり1時間半で、はい、おしまい。
それに、実は0%案に賛成する人がどの会でも70%ほどを占めていた。だが、意見陳述できる人数はたったの3人だけ。他の意見は10%、20%くらいの人しかいなくても、3人が意見を述べられる。どう考えても割合がおかしいではないか。
問題はまだある。100人ほどの会場設定で、うち半分くらいはなぜか「関係者席」だ。一般の人の傍聴はかなり制限されてしまう。こんな会を全国で11回開いて、「はい、これで国民の声を聞きました」と言ったところで、「アリバイ作りだ」と非難されるのは当然ではないか。
そんなことにも気づかないのだとしたら、政府が丸投げした広告代理店というのもひどいもんだ。この費用として、いったいいくらが広告代理店に支払われているのだろうか?
我々は「侮辱」されている。
だが、どんなに侮辱されたところで、諦めない。
ここまで来たのだ。もっともっと、大きなうねりを作り出して、政府、野田に迫っていく。侮辱された者の怒りがどういうものか、思い知らされるときがすぐそこまで来ているということに、野田はまだ気づいていないようだが…。
*
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鈴木耕さんプロフィール
すずき こう1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。
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