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2010-10-06up
松本哉ののびのび大作戦
第33回:恐怖! 実録・強制送還!!
てえへんだ、てえへんだ! 大変なことが起こった!!
つい数日前、韓国に行こうと思ったんだが、なんと入国審査に引っ掛かり、捕獲されて牢屋に入れられた揚句、日本に強制送還!! おいおいおい、せっかくビビンパ食べようと思ったのに!!!!
ってことで、本来は新しいお店の話をしようと思ってたんだが、それはちょっと次回にして、今回はせっかくだから強制送還報告!! う~ん、こりゃ滅多にないよ!
さて、まず今回は何のために韓国へ行こうと思ったかというと、ソウル市主催の「Seoul Youth Creativity Summit」というイベントでの講演を頼まれ、Haja Centerというところから招待された。講演内容も「若い連中が商店街で店を開いたり、新しい遊び方を作ったり、自分らのコミュニティを作ったりして、オルタナティブな生き方ができるんじゃないか?」って感じのことで、とてもマトモ。この時点で、まあまず追い払われるとは思わないでしょ?
で、どうせ行くならもっといろんなイベントをやらかしてしまおうということで、以前、韓国で知り合った連中ともイベントをやろうっていう話になり、遊びまくりのツアーのはずであったが…。
ところが、そうは問屋が卸してくれなかった!!!!!!!!! ってことで、以下、衝撃のドキュメンタリー!!
これが取調室。2時間以上はいたかな。とても退屈な部屋。
9月30日、早速ソウル近郊の仁川国際空港に到着! 飛行機を降り、入国審査へ。で、パスポートを出すとモニターを見た審査官が「おおっ、これは!」という顔をする! で、「どこに滞在するのか?」などの質問をされた後、「ちょっと別室へ」という。なんだ面倒くせえなと思ってついて行くと、その別室ではなんだか不審そうな人々が尋問を受けている。おや? 取調室だな、これは。
で、この取調室に入ると「何の目的で来ましたか?」と尋ねるので、「講演会イベントに呼ばれて来た」というと、「それは路上でやるんですか?」という。おいおい! その切り返し、まさか素性がばれてるのか? しかし、ソウル市に招待された講演会を路上でやるわけねえだろ、何考えてんだ、おい!
そしてまた、どこに泊まるとか、誰が受け入れるんだとか、いろいろと聞いてくる。こっちもだんだんバカバカしくなってきて「もう時間がないから早くしてくれよ!」とか、「何の問題があるの?」とかいろいろ文句を言うが「いや~、少し問題があります」とか「もう少しかかります」とか、なんだかはっきりしない。最初は胸に星が2個ついた入国審査官が対応していたが、「どれどれ」って感じで、星3個オヤジが様子を見に来る。さらには4つ星おばちゃんまでがノッシノッシと金正日風の態度で「まだやってんのか」とばかりに視察に来る。かれこれ2時間! おいおい、早くしてくれよ、まったく!! こっちは早くビールが飲みたいんだよ!!
ちなみに、隣で尋問を受けていたインド人は「ハウマッチ? ハウマッチ?」を連呼。いいねー、インドの金持ち! 金で何とかしようとしている! しばらくすると、そのまま職員と一緒にどこかへ出て行った。あ、汚ねえアイツ! ずるい! が、果たしてうまくいったのか!? これは気になる!
で、さんざん待たされた挙句に、突如日本語を喋る職員が登場して「アナタハ入国デキマセン」「イツマデ入レナイカワカリマセン」「スグニ日本ニカエリマス」と、立て続けに言い出した。いやいやいや、困る困る! 急にそんなこと言われてもダメだよ。こっちだって飲みに行く約束があるんだから! それに、これまでも年3回ペースで韓国に来てるのに、そりゃないでしょ。どうなってるんだコラ!
理由もわからず、そんなこと言われても困るよ。「いやそれおかしいでしょ。理由はあるの?」と言うと、「アナタハ韓国ノブラックリストデス」。こらーーーー!!!!!! そんなハッキリ言うな! もっと遠まわしに言え!!! こんちくしょう! このあいだ、TSUTAYAのクレジットカード作ろうとして審査に落ちた時だって、オッサン汗かきながら「え~っと、お客様の場合は、現時点ではカードをお渡ししにくい状態になっていると思われまして、審査が継続してしまう可能性が…」とかなんとか言ってたぞ。ちょっとは見習えバカ! いや、待てよ、でも白黒はっきりしてて気持ちいいとも言えるな…。
まあ、いくらハッキリしていて気持ちがいいとはいえ、どうも癪に障るので「それおかしいでしょ。最後は4月に入国してるのに、その後なにかダメになったっての? 俺なんにもしてないよ」と文句を言うが「ダメデス。4月以降ニ、ブラックリストデス」だって。このやろ~、言わせておけばムチャな事ばかり抜かしやがって~。「なんかないの? どうにか今日入国する方法は!」→入管「ナシデス」(くそっ!)。もういい、いい。わかったわかった。煮るなり焼くなり勝手にしてくれ、お前らなんかキライだ。もう高円寺に帰って毎日洗濯機の掃除するからいいよ! バーカ、バーカ!
写真で見ると結構きれいなところ。待合所みたい。
で、牢屋へ。ここは100人ぐらいは入りそうな待合所のようなところだが、壁に鉄格子が付いているのが普通の待合所と違うところ。30人ほどの送還者がウロウロしている。男女比は半々ぐらいで、ほとんどがなぜか中国人とインド人(さっきのハウマッチ男もいた。惜しかったね!)。仁川空港って結構新しいはずなんだけど、この部屋はなんだかやたらうす汚い。ただのベンチが並んでいて、板張りのスペースもあるが布団はない。う~ん、これで寝ろって言うのか。こりゃ、東京拘置所より環境は悪いね。まあ、いいところは所持品持ち込みは酒以外は自由だから、この文章もいま牢屋の中でパソコンで書いている。公衆電話もあるので電話も可能。
さて、まずは荷物を預けて「明日ノ夕方5時過ギノ飛行機デカエリマス」と告げられる。けっ、好きで帰るんじゃねえよ、この。
何も悪いことしてないし、捕まってもいないはずなんだが、完全に犯罪者の扱い(ひどい!)。しばらくするとどうやらメシの時間。看守がゴミみたいなパンを大量に持ってきてテーブルの上にゴロゴロ転がし始めた。うわ、なんだかまずそうだな! 腹も減ってなかったので、まあ後でいいやとほうっておいたら「ジャパニーズ!!!」と叫ぶ。わかったよ、食やあいいんだろ食やあ! よく見たらどうでもいいハンバーガーとコーラ。まったく、外人にはこれでも食わしとけとばかりの、ロクでもないメニュー。やい、バカにしてやがるな!? あのテーブルへの転がし方といい、どうせこんなものクソまずいんだろ? と食べてみたら、これが意外とうまかった。チクショー!
取調室にはなかなかいい落書きを発見!
捕まってる人は、インド系と中国系がほとんどで、次いで中東系やタイ人が多い。そういえば、アフガニスタン人なんていうレアな人もいた。この人なんかアルカイダ扱いされたんだろうな…。で、みんな何もすることがないから、ひたすら公衆電話から電話してたり、その辺でくだらない話をしてたりする。若い女の子なんかは結構落ち込んで半泣きの人もいたが、オッサンなんかはいい味を出していた。まず、中国人のオッサンは我が家のようにくつろいでいて、ケロッとしてなぜかニコニコしながらウロついていたり、突然「アイヤー、携帯のバッテリーが切れたアルヨ」などと言って、テレビのコンセントをいじって電気を盗み始めたりした。
インド人のオッサンなんかは、牢屋の中だってのにひたすら女の子に声をかけまくってナンパをしまくっていた(ただ、成功率は0%)。うーん、たくましい!
さて、閉じ込められても何もすることがないので、とりあえず、至急招待してくれたHaja Centerや韓国の友達、あるいは日本などにも電話しまくる! で、「なんとか入国できないかなー」などと方々へ工作を開始!! が、それも察知されたのか、急にまた呼ばれて「明日ノ朝5時ニカエリマス」だって。ややこしいことになる前に、意地でも帰そうとしてやがるな!
夜11時ごろになると、就寝時刻らしく布団が配られた。が、これが航空会社の使い古しのペラペラの毛布。ベンチか板の上で吹けば飛ぶような軽さの毛布のみって、ほとんど野宿だね、これは。
これまでが空港の牢屋で書いたもの。ここからは、後日談。
いよいよ日本へ強制送還!
さて翌朝、目が覚めてみると朝6時半。ありゃ、寝過ごしたか!! しまった。まったく、起こしてくれればいいのに。飛行機の時間がかかれたホワイトボードを見てみると、日本行きは10:00になっていた。あれ、これまた変更になったのか、寝過ごしたから変えられたのかどっちか。ま、どっちでもいいか。
7時が起床時間らしく、看守のオッサンが「はい起きて起きてー」と手をたたきながら起こして回る。で、毛布をたたんで返して、朝メシの時間。いやー、きのうのゴミみたいなハンバーガーだけだったからおなかがすいた!! 早く、メシを食わせろ。 で、やっと出てきたと思ったら、また昨日とまったく同じパターンで、ハンバーガーとコーラをテーブルに並べ始めた。おい、まったく同じメニューかよ! しかも朝からコーラなんか飲みたくねえぞ。あんまり食う気がしないので、ま、後でもいいやと思っていたら、今度は親切な看守が「ほら、ご飯ご飯」。わかったわかった、食うよ食うよ!!
入管職員の兄ちゃんと記念写真!
で、10時の飛行機を待っていると、若い看守が「今朝のニュースに出てたよ!」と話しかけてきた。どうやら、テレビや新聞などで大きく報じられたみたいで、なんだかだいぶ有名人になってしまったみたいだ。で、『貧乏人の逆襲』の韓国版を看守の人にあげたら、看守たちも「おお、なんだなんだ、これか!」みたいに見始めるし、その若い兄ちゃんなんかは記念撮影してくれとか、高円寺に行ったら店に遊びに行っていいかとか言い出す。おお、なんだかノリがいいね!
さて、そのまま日本に送り返され、成田で野に放たれたあとは、自由の身に。
韓国の報道によると、ソウルで行われるG20(サミット)警備のため、入境のハードルを上げている模様。なんだよそれ、おれ関係ねえじゃねえか。G20なんて意識外だったのに!!
しかし、強制送還って本当に妙なもんだね。日本だったら自由にウロウロできるのに、韓国ではダメってこと? こっちからしたら、街を歩いて、友達とイベントをやって、飲みに行ったりするだけだから、日本も韓国もヘッタクレもないのにねー。国境なんていう、しょうもないものは一刻も早くなくなってほしいね、まったく!
送還された夜、店に戻ったら飲み会に! 『これはキムチです』という紙を持って、韓国で待ってた人たちに無事をアピール!
*
ツイッターから飛び込んできた「強制送還」ニュースに、
「マガ9」編集スタッフもびっくり。
日本でも韓国でも、松本さんの「のびのび」っぷりに違いはない、のですが、
「国境」はそうは考えてくれなかったようで…。
韓国でもますます有名人になっちゃった松本さん、
なんともレアな「強制送還」レポート、ありがとうございました!
松本哉さんプロフィール
まつもと・はじめ「素人の乱」5号店店主。1974年東京生まれ。1994年に法政大学入学後、「法政の貧乏くささを守る会」を結成し、学費値上げやキャンパス再開発への反対運動として、キャンパスの一角にコタツを出しての「鍋集会」などのパフォーマンスを展開。2005年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」をオープン。「おれの自転車を返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろデモ」などの運動を展開してきた。2007年には杉並区議選に出馬した。著書に『貧乏人の逆襲!タダで生きる方法』(筑摩書房)、『貧乏人大反乱』(アスペクト)、編著に『素人の乱』(河出書房新社)。「素人の乱」公式ホームページ
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