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自他共に認める日本一の愛国者、鈴木邦男さんの連載コラム。
改憲、護憲、右翼、左翼の枠を飛び越えて展開する「愛国問答」。隔週連載です。
すずき くにお 1943年福島県に生まれる。1967年、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、サンケイ新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。1972年に「一水会」を結成。1999年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)、『公安警察の手口』(ちくま新書)、『言論の覚悟』(創出版)、『失敗の愛国心』(理論社)など多数。近著に『右翼は言論の敵か』(ちくま新書)がある。 HP「鈴木邦男をぶっとばせ」
「マズイですよ、鈴木さん。路上で接吻しちゃ!」と、後輩に言われた。「ウルセー! 俺に意見するな!」と、その後輩を殴った。「こんなとこを週刊誌に撮られたらどうするんですか。それに公安(警察)も張り付いてるし」と、後輩はまだ言う。「兵隊のくせに、ガタガタ言うな!」と蹴飛ばした。
何とも酷い親分だ。20年前の僕だ。「やめて下さいよ、会長!」と他の後輩にも言われた。その時、僕は一水会の会長だった。非合法闘争もした。何度も捕まった。後輩も、どんどん捕まる。毎日のようにガサ入れ(家宅捜索)がある。命がけの運動だと思ったし、追いつめられ、絶望的にもなった。精神的にも荒廃していた。だから夜は酒に逃げていた。毎晩飲み、暴れていた。後輩には八つ当たりしていた。スナックのおネエちゃんと路上でキスだってした。それがどうした。犯罪じゃない。公安だって手が出せない。それに俺は独身だ。
そう思っていた。週刊誌が撮ったら、ただじゃおかん。リンチだ。テロだ。殴り込みだと思っていた。気持ちが、ささくれ立っていた。
今となっては、そんな自分が懐かしい。今じゃ、豹変した。非合法闘争は全てやめた。清算し、言論による合法活動だけだ。酒も飲まないし、女性とのラブ・アフェアーもない。スナックにも行かないから、女の子に、「ねえ!」と唇を突き出されて、キスをねだられることもない。
数年前、民主党の議員が女性キャスターと路上でキスをして週刊誌に盗撮された。でも、唇を突き出して「ねえ」と言われたら、誰だって応えるだろう。無視したら、そこまで覚悟を決めた女性に対し失礼だと思う。恥をかかせる。だから危険を承知で、応える。もし応えなかったら、男じゃない。卑怯者になってしまう。だから、あの議員は偉かった。少々叩かれたが、男らしさが認められ、今はバリバリと活躍している。あの時、逃げなかったからだ。それに若い男女の路上キスだ。絵になる。いいじゃないか。
ところが、僕より年上の67歳の中井洽さん(国家公安委員長)も路上キスをした。偉い。表彰ものだ。それも、相手は30才以上も年下の美人ホステスだという。元気がある。僕らじゃもう、そんな元気はないのに。『週刊新潮』(4月1日号)に写真が出ていた。女性が路上で、「ねえ」と唇を突き出してキスをねだる。よし、と応えてあげる。勇気がある。偉い。国家公安委員長だけのことはある。
中井さんは、「路上でキスはしてない。私らの年代でそんな事は恥ずかしくて出来ない。あれは写真のテクニックだ」と弁明していた。それで見直したら、確かに唇を合わせている写真ではない。女性は後ろ向きだし、ただ頬を寄せただけかもしれない。「それに俺は独身だ」とも言っていた。
中井さんの方が正論だと思うが、会見でもぶっきら棒だし愛想がない。「悪い事をしてない。何が問題だ」と記者に喰ってかかる。会見が下手なのだ。記者の対応が出来ないのだ。
11年前に奥さんが亡くなり中井さんは独身だ。6年前からこの女性とは付き合っていた。だから記者会見では、いっそのこと、この「純愛」について照れずに説明すればよかった。67才で路上キスするほどの勇気のある愛だ。この愛に支えられて仕事もやってこれた。いい機会だから、入籍し、結婚式も早急にやりたい。皆さんも来て下さい、と言えばいい。テレビ局だって、披露宴を大々的に中継するだろう。愛する奥さんとの死別。その奥さんを思い一生独身でいようと思った。でも運命の女性に出会い、悩み、苦しむ。でも、一人の女性を幸福に出来なくて、国を守れるか。そう思って、再婚する。女性への愛は、国への愛に通じる。愛する人を守ってこその愛国心だ。
結婚式ではそう言ったらいい。これで民主党人気も回復だ。「愛の人」中井さんを総理に! という声もあがる。「路上キス」のもう一人の議員も大臣で入る。「路上キス」コンビだ(じゃ、私も)。
大臣になりたい人は皆、路上キスをするようになる。そして出生率も上がるし、少子化問題も解決する(そんなに簡単にはいかないか)。
結婚式の新郎挨拶ではついでに言ってやったらいい。「マスコミはこれでいいのか!」と。「独身男女のほのぼのとした交際を卑劣にも尾行し、張り込み、盗み撮りをして週刊誌にデカデカと載せる。それも、大スキャンダルのようにして載せ、煽動する。人間として恥ずかしくないのか! こんな卑劣なことをやって“社会正義の為”だとでも言うのか。そこまでして週刊誌を売りたいのか。そこまでして民主党を叩きたいのか!」と。
救国の大演説だよ。他の新聞記者や週刊誌記者に聞くと「6年前から知っていた」と言う。別に問題ではない。でも、いつか「絶好の機会」にこのネタを使ってやろうと狙っていた週刊誌があったのだ。つまり、「民主つぶし」の一環としてぶつけたのだろう。
それに、分からないのは警察の対応だ。大臣には24時間、SPが付く。ところが、中井さんは夜、SPを帰し、彼女と二人きりでデートを楽しんだという。それが怪しからんという。でも、怪しからんのは警察だ。国家公安委員長の命を守るのがSPの仕事だ。もし、テロリストが狙うとしたら、昼よりも夜を狙う。SPを帰したプライベートな時間こそ「狙い時」だ。実際、盗み撮りされている。これがテロリストだったら、確実に中井さんは殺されていた。
この点が不可解だ。「帰っていいよ」と言われて、「はい分かりました」と帰る。しかし、このあとが一番危ないとSPは思うだろうし、秘かに護衛を続ける。望遠カメラを構えた怪しい人間を発見したら、「そんな卑劣なことはやめろ」と注意してやる。あるいは、追いはらう。それによって国家公安委員長を護る。
又、中井さんにも「盗撮しようとした人間がいたので気をつけて下さい」と進言する。その位、やってもいいだろう。しかし、SPは<全て>を知っていたのに、中井さんには言わず、警察の上にだけは報告していた。「これは使える」と上は判断し、盗撮を取り締まらず、やるに任せていた。「民主党憎し」からだ。検察も同じだ。自民党は自分たちの言いなりになったのに、民主は違う。目ざわりだ。と思ってるのだ。検察も警察も…。そう教えてくれた記者もいた。これでは警察の中立性はない。「政治警察」になってしまう。「だから、これは警察がやらせたんです」と断言する記者もいた。
だったら、中井さんもかわいそうだ。警察、マスコミ、世論の包囲網から抜け出すためにも、結婚宣言をし、愛を貫いたらいい。今からでも遅くない。やってほしい。
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