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畠山理仁●はたけやま みちよし/1973年愛知県生まれ。早稲田大学在学中の1993年より週刊誌を中心に取材活動開始。1998年、フリーランスライターとして独立。興味テーマは政治家と選挙。米国大統領選、ロシア大統領選、台湾総統選など世界の選挙も取材。大手メディアが取り上げない独立系候補の活動を紹介した『日本インディーズ候補列伝』(大川豊著・扶桑社刊)では取材・構成を担当した。 昨年9月18日、記者クラブ加盟社以外にも開放された外務大臣記者会見で、フリーの記者として日本で初めて質問。今年1月22日には、東京地検からの事情聴取直後に開かれた小沢一郎・民主党幹事長の記者会見を、iPhoneを使ってゲリラ的にインターネットで生中継し注目される。twitterでは、 @hatakezo で日々発信中。
4月9日、13時36分。原口一博総務大臣は、突然、ツイッター上で次のようにつぶやいた。
「本日3時からのユーストリーム会見のテストを行うことにしています。情報発信の新しいあり方について議論しています。様々な可能性に挑戦したいと考えています。」
同日15時。原口大臣は予告通り大臣室のカメラの前に一人で座り、視聴者に向かって語りかけた。たった一人の「会見」が始まったのだ。
1972年6月、当時の佐藤栄作首相は退陣表明会見で「テレビカメラはどこかね? 僕は国民に直接話したい。偏向的な新聞は大嫌いだ」と語って新聞記者を会見場から閉め出し、テレビカメラに向かって一人で「会見」をした。
それから約38年。ついに現役大臣が新聞記者どころかテレビカメラも入れず、「自らの手で会見を生中継する」という画期的な試みを始めたのだ。冒頭の発言は、こうした試みについて私が質問したことに対する大臣の答えだった。
残念ながら第一回目のユーストリーム会見は中継のみで今は見ることができない。ただ、原口大臣自身はこの「会見」の定例化に意欲的で、16日に行われた二回目は、現在も録画されたものが視聴可能だ。動画の長さは36分36秒。語呂合わせをすれば「見ろ見ろ(36:36)」。次回以降の中継はこちらのページで行われる予定だ。
この「会見」が38年前の一方的な会見と大きく違うのは、大臣自らが放送中に寄せられた視聴者のコメントを読み上げたこと。二回目の「会見」では「アンパンマンみたい」(26分45秒頃〜)という視聴者からのコメントに、原口大臣は「絶句ですね(笑)。昔、アンパンマンっていうあだ名だったんで(笑)」と苦笑いするしかなかった。
今後、視聴者である国民の目が「答えにくい質問にも大臣が答えざるを得ない」ところまで厳しくなれば、広く国民に開かれた「会見」の新しいモデルが誕生するだろう。
まずはみなさんも原口大臣に直接質問を投げかけてみてはいかが?
「いや、総務省として自信を持って出したものです」
(原口一博総務大臣)
※フリーランス記者個人による動画撮影は総務省記者クラブが禁止しているため「音声のみ中継」しました。
3月30日に総務省が公表した「記者会見のオープン化の状況についての調査結果」。私はこれまで何度も原口総務相の記者会見で「実態を反映していないのではないか」と疑義を呈してきた。その度に原口大臣は次のような発言をしてきた。
「AというからAが一番いいとか、ABCDに価値はないのですよ」
「Aランクだと、A級ライセンスと言うと、さもいいみたいですけれど、まだ単にABCDを付けただけです」(いずれも3月30日の記者会見)
「とりあえずこの4段階に分けて現状を御報告したということでございまして、当然、Aの中についても濃淡があると思います」(4月2日の記者会見)
4月16日の会見でも、私はこの件について質問。それに対する原口大臣の答えは上記の通り。私がしつこく質問を続けるのは、調査結果で「B」(質問権はないがフリーランス記者らも一定の手続きを経て参加可)とされた厚生労働省の記者会見に、いまだにオブザーバー参加すらできていない実態があるからだ。私が会見を主催する厚生労働省の記者クラブ(厚生労働記者会)に記者会見への参加を申し込むと、幹事社の時事通信からはこんな回答が返ってきた。
「いままでフリーの方を入れた例はないと思うんですよね。幹事社だけでは結論を出せないので、来週総会を開いて相談させて下さい」
厚労省広報室も「これまでフリーの方が参加したという例はないと思います」と答えた。仮に「建前上の参加」が認められたとしても、実際に参加できるかどうかは別問題だ。この連載でも何度か触れてきたが、「国会記者証」を持たないフリーランスの記者は、国会内で会見が開かれると事実上入れない。そして長妻大臣は今国会会期中、ほとんどの会見を多くの会見を省内の会見室ではなく、国会内で開いている。これではとても「参加したいときに参加する」という自由なアクセスが保証されているとは言えないだろう。
これは同じ調査でAとされた財務省の場合も同様。財務省の場合、4月になって記者クラブ(財政研究会)の幹事社からは「参加しても構わない」との返事はもらえた。しかし、現在までに菅直人財務大臣が省内の会見室で会見を開いたことはわずか2回ほど(就任時、予算成立後)しかないという。
これで「A」と言われてもねえ、というのが私の感想だが、みなさんはどう思います?
【訂正の理由】
長妻大臣は今国会会期中(第174回・1/18〜)、4月21日現在までに計27回の会見のうち20回を国会内で開いています。
また、当連載開始時期(2月20日)から数えると、全17回のうち国会内開催が15回。それに対し省内開催はわずか2回でした。
そのため訂正前は「ほとんどの会見」との表現を用いていました。
しかし、昨年9月16日の大臣就任後の会見数では、全61回の会見のうち「省内会見室」で開かれたのは33回と半数を超えました。
誤解を招く表現を用いたことを素直にお詫びし、ここに訂正いたします。
この連載で何度か触れてきたように、現在、金融庁では「記者クラブ向け」の記者会見と「雑誌・フリー記者向け」の二つの会見が開かれている。これはある種、“異様”な状態だ。そのため金融庁では二つの会見を「統合」することも視野に記者会見の在り方が検討されはじめた。
上記の発言は、私が記者会見で「フリーの記者達が『このままで良い』ということであれば、大臣としてはこのままで良いということか」と質問したことに対する大臣の答えだ。そのためしばらくは二つの会見がこのまま続くことになりそうだ。
実はこれに先立つ4月13日、亀井大臣の記者会見後、金融庁広報室による「雑誌・フリー記者らへのヒアリング」が90分にわたって行われた。これは将来的な会見の統合も視野に入っている。その模様は私もUSTREAM中継した。(その1) (その2) (その3)
もともと亀井大臣の会見が二つに分かれているのは、「(記者クラブ主催の会見に)フリーの記者も入れたらどうか」という亀井大臣の提案を記者クラブ側が突っぱねたことが原因だ。
ところが亀井大臣が「これは下(記者クラブ向け会見)では質問が出なかったから初めて言うんだけど」「あんたたち(雑誌・フリー記者)だけに話すけど」と重要なことを雑誌・フリー向けの記者会見でだけ話すケースも増えてきた。「特オチ」を恐れる記者クラブ側にとっては屈辱的な状況だ。また、物理的に考えても会見が二つに分かれて開かれているのは非効率的であるし、大臣の負担も大きい。一つに統合しようというのは当然の流れだといえる。
だが、13日のヒアリングではフリーの記者たちから「統合」に否定的な意見が相次いだ。私自身は「記者会見の場で質問の機会が保証されればいい」という考えだが、記者達の間にも意見のばらつきがある。現在は亀井大臣のキャラクターでフリー向けの会見が開かれているが、大臣が替わった場合、再びフリーの記者が参加できなくなる可能性もある。これは非常に悩ましい。
記者クラブの“閉鎖性”が解消されれば問題は解決しそうにも思えるが、現状を見る限り、この問題はしばらく尾を引きそうだ。なぜなら記者クラブ側とフリー記者側が、直接、顔をあわせて交渉する場すらないからである。ある記者は雑誌・ネット・フリー記者らの状況を「二等市民」と評していた。
そこで今、「雑誌・フリー記者」の有志で、この状況に風穴を開けられないかと面白いアイデアを練っている。詳しくはまたの機会にお知らせできると思うので、どうぞそれまでお楽しみに。
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政権交代も大きかったけど、
iPhoneやUSTやらのテクノロジー&ツールの普及とフリーランスの熱意により、
ここまで大臣記者会見がオープンになったのだと感慨深く思います。
が、まだまだ固い「記者クラブ」という牙城はあります。
というわけで、近々開催されるおもしろい企画に注目!
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