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「マガ9学校」第6回:概要と参加者の声

2011-03-02up

「マガ9学校 第6回」

2011年2月11日(金・祝)13:00〜18:00
@カタログハウス本社地下2階セミナーホール

平和と軍事のシミュレーション ~あなたが決める尖閣問題~

トークセッションの概要(伊勢崎賢治×鈴木邦男×マエキタミヤコ)

◆まずは「人的交流」を!

 まず、日本人の環境活動家が尖閣諸島で拘束される——というシミュレーションの設定を振り返って、伊勢崎さんが「日本人が『日本の領土』内で拘束される。これはもう、日本側にとっては『ここまでやられたら許せない』というティッピング・ポイント(臨界点)と言えるかも」とコメント。「過去の戦争も、こんな感じで起こったんじゃないでしょうか。その臨界点に達したときにどういう対処をするのか、を考えることが大事。もちろん、そういう『臨界点に達する』こと自体を阻止はしたいわけですが、そうした状況は簡単につくれちゃうんですよね」と、ちょっとドキッとするような指摘もありました。

 ちなみに、この伊勢崎さんの指摘を裏付ける形になっていたのが、この日伊勢崎ゼミ生たちがシミュレーション用に準備していた、架空の事件についてのニュース報道の映像。本物のテレビ番組の映像を加工し、同じ大学の学生たちや通りすがりの人たち(!)の協力を得て撮影したという「街頭インタビュー」映像も加えて作成されたその映像は、会場から「どうやって作ったの?」との声があがるほどの完成度の高さ。はからずも「捏造によって世論を煽るのは意外に簡単」という事実を示すことになっていたのです。

 一方、そうして「煽られない」ために重要なこととして、鈴木さんが強調したのは人的交流の必要性。「日本に来てる中国人観光客は、『領土問題と私たちは別。政治と買い物は別』と堂々と言ってる。そういう人たちにどんどん日本に来てもらうべきです」と述べるとともに、かつて鈴木さん自身が、「極右」といわれるロシアの政治家と親しくなり、北方領土返還をめぐるジョークを交わし合うようになったエピソードを披露しました。

 「政治家同士ももっと親しくなって、そんなふうにジョークを言い合ったりできるようにならないと。でも、そのためには今の日本みたいに、クリーンで女性問題もないけど政治力もない、そんな首相が半年くらいで次々替わっているのでは無理ですね。クリーンじゃなくても、ちょっとくらいダーティでもいいじゃないですか。ちゃんと力のある政治家に、例えば4年間はやらせようという気でないとダメですよ」。鈴木さんの言葉に、思わず頷く参加者の姿も見られました。

◆いいプロパガンダ、悪いプロパガンダ

 続いて、トークのテーマは「プロパガンダ」へ。伊勢崎さんは「プロパガンダというと負のイメージだけど、政治的な主張にはどうしても誇張が入るし、その意味ではそのすべてがプロパガンダともいえる。とすれば、いいプロパガンダと悪いプロパガンダをどうやって区別するのか、果たしてそんなことが可能なのか」と疑問を提示。さらには、多くの人が「平和が大事だ」と信じることで、それを乱そうとする存在に対して感情的になり、逆に容易に戦争が起こせる状態になってしまう可能性に触れ、「その意味では、『平和』というメッセージだって一つのプロパガンダになり得ます」とも指摘しました。

 一方、広告のプロであるマエキタさんからは、「広告の『既成概念』を突破したい」という発言が。「広告」が大企業向けの広告をつくる代理店に独占されていた時代と異なり、今はどんどん豊かな才能が外へと流出しており、社会的なテーマでクリエイティブなことをやろうとする人材も急増している「市民広告」の時代。しかしその中で、ときに見られる「広告というもの自体が『悪』だという既成概念」が壁になる場合も多いといいます。「よりよい社会をつくっていくためには、それをいかに突破するかを考えなくてはならないと思います」。

 さらにもう一つ、マエキタさんが言及したのは、情報を「知らせない」というプロパガンダの存在。「情報を流さず、人民を無知に保つというプロパガンダです。知らせなければ余計なことは起こらないから、人々を静かにさせておくために知らせない。私はそれが一番悪質なプロパガンダだと思う。対抗するには、みんなが『知ろう』とすること、伝えていくことが大事」。今、現実に起こっているさまざまな問題にも当てはまる指摘でした。

◆領土と主権——ソフトボーダーとは

 次に議論のテーマとなったのは「領土と主権」。「そもそも、なぜ我々はこんなに『領土』というものにこだわるのか?」という伊勢崎さんの問いかけに、鈴木さんが「学校でも国家の三条件は主権と領土と人民と習うし、領土は絶対に変えちゃいけないもの、という思い込みがあるのでは」と応じます。

 「でも、例えば新左翼の活動家だった太田龍はかつて、アメリカは土着の先住民族から土地を奪ってできた国だから、ヨーロッパ諸国は土地を返して出て行くべきだ、なんてことを言いました。かつての右翼の大物の中にも、同じようなことを言っていた人がいます。今すぐそんなことが可能かどうかは別にして、そういう発想がある、かつてあったということはどんどん言っていくべきでしょう」。

 そして、ここで伊勢崎さんが提示したのが、「ソフトボーダー」という概念。国と国とを隔てる国境線を、明確な、つまりは「ハード」なものにせず、周辺住民の行き来は自由、周囲の天然資源などは共同開発するといった形で、やや曖昧な、「ソフト」なままにしておくことで対立を回避しよう、という考え方です。伊勢崎さんはかつて、独立を果たそうとしていた東ティモールに国連から派遣された際に、旧宗主国インドネシアとの国境線を「ソフトボーダー」化しようと奔走したといいます。

 「しかし、それは実現しなかった。独立後の東ティモールのリーダーたちが、自分たちの求心力を高めるために、インドネシアに対する恐怖を煽ったからです。結果として国境には双方の軍隊が置かれ、『ハードボーダー』化してしまった。やはり、領土の問題というのは国内政治やナショナリズムと密着にかかわってくる。だからこそ今、どこの国とも戦争をしていない日本という国が、領土についての論争のある隣人との間での『ソフトボーダー』を世界に先駆けて実現して、広めていけないかなという思いがあるんです」。

 「主権」に関しての議論では、「人間1人ひとりが幸せであるために国家があるんであって、国家のために人がいるんじゃない。それを忘れて『強大な国家』という幻想に熱狂している人が多い」と現在の状況を批判した鈴木さんに対し、「でも、東ティモール独立のときの、圧政から主権を勝ち取ったんだという『熱狂』は感動的だった」と反論する伊勢崎さん、第二次世界大戦中、大政翼賛会に協力しなかった数少ない文化人だったフランス文学者・渡辺一夫の「文学で人を熱狂させてはならない」という言葉を引き、「『熱狂』の中で犠牲になる人だっているはず。みんながみんな熱狂してしまうのは危険」と指摘したマエキタさんと、壇上の3人の意見もさまざま。「こうしたワークショップは、何かの『答え』が出るというものではない。そして、想定した状況に近いことが起こったときに、より賢い行動を取れるようにすることがシミュレーションの目的です。そのためにも、今後もこういう催しを重ねていきたいと思います」。伊勢崎さんは、そう最後を締めくくってくれました。

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