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2010-12-22up
B級記者どん・わんたろうが「ちょっと吼えてみました」
【第30回】
貧乏人は泡沫候補にさえなれないのか~供託金違憲訴訟を考える
7月の参院選での1票の格差に対する判決が、各地で言い渡されている。東京高裁が違憲と判断するなど、裁判所にも社会にも、5倍に上る格差のひどさがようやく認知されてきた感がある。しかし、選挙の不平等はこれだけではない。貧乏人(というか庶民)の立候補を阻む制度が存在するのだ。
「供託金」という言葉、一度は耳にしたことがあるだろう。立候補しようとしたら、選挙の種類ごとに定められた金額を法務局に預けなければならない。「売名行為の立候補者が乱立するのを防ぐため」と説明されてきた。
たとえば、衆院選の小選挙区や参院選の選挙区は300万円、参院選の比例区だと600万円である。市議や区議でも30万円。政党の支援を受けない庶民が、容易に調達できる金額ではない。しかも、一定の得票に満たなければ国庫に没収されてしまう。戻ってくるとしても選挙の終了後だから、選挙運動の費用は別途必要だ。志が大きくたって、これじゃあ簡単に立候補できない。
「供託金制度は憲法違反」と主張し、訴訟を起こしている臼田敦伸さんの講演を聞いた。臼田さんは、供託金を納めずに夏の参院選に立候補の届け出をしようとしたが認められなかったため、選挙の無効を求めている。12月27日に東京高裁で判決が言い渡される予定だ。
「供託金制度の目的は、おしなべて金を持たないマイノリティー(少数意見)の排除にほかならない」「被選挙権が十分に保障されない結果、有権者にとっても入れたい人に入れられないことになり、選挙権が貶められる」。あまり考えたことのなかった視点に、虚を突かれる。
「大勢の人が立候補したとしても、それだけで選挙の公正さを阻害することにはならない。選挙自体が泡沫候補を(落選という形で)排除するシステムなのに、なぜ行政が選別するのか」との問題提起も、もっともである。売名行為を防ぐという大義名分に対しては、「名前の連呼、街頭演説と、そもそも選挙自体が売名行為以外の何物でもない。立候補する前に売名かどうかなんて分からないのだし、売名を排除したら現職しか残らなくなる」とバッサリ批判した。
供託金制度の導入は、1925年の男子普通選挙法とセットだった。社会主義政党を締め出そうという狙いは、同じ年に成立した治安維持法と同じだ。その制度が生き続け、いまだに少数意見の抑圧に活躍している。恐ろしいことである。
少し古いデータだが、海外では韓国の約150万円が最も高く、イギリスは約10万円、フランスは95年に供託金を廃止したそうだ(04年7月・毎日新聞)。
供託金の代案として、臼田さんは立候補しようとする人に一定数の有権者の推薦署名を求めることを挙げていた。「より制限的でない方法を採用すべき」と訴える。
あらかじめ立候補者を絞るという考え方の背景には、選挙の公費負担があるのだろう。立候補者が増えれば、ポスター掲示場や政見放送、選挙公報、新聞広告、選挙はがきなどの量が増え、それに費やされる公金もアップするからだ。
でも逆に、そうした手段が今の時代の選挙に本当に必要なのかどうか、考える機会にすればいい。だって、上に挙げた5つ、じっくり見ている有権者がどれだけいるのか。いっそのこと、やめちゃったって、ほとんど困らない気がする。新聞社の場合、大きな選挙がある月は公費広告のおかげで収入が安定するらしいから、結局、関係する企業だけが恩恵を受ける仕組みなのだ。
で、インターネットによる選挙運動を大幅に自由化する。候補者が増えて分厚くなる選挙公報を新聞に折り込むのはやめ、ネットで見られるようにする。ネットを扱わない人のために、公営施設でも閲覧できるようにすれば十分だろう。
もう一つ見過ごせないのは、政府と結託して供託金の制度維持や高額化を推し進めてきたのはマスコミだということだ。報道各社は、国会議員や首長、都道府県議レベルの立候補予定者全員について、顔写真を集め、本人が申告する経歴をつぶさに確認したうえで、記事にしてきた。候補者が増えれば、手間が大幅に増大する。供託金のハードルを上げ、立候補者が減ってくれた方が都合が良いのだ。情けない話だが。
ただ、個人情報保護を理由に立候補予定者の経歴確認に応じない企業や学校が増えており、来春の統一地方選挙から、本人が調査票に記入した内容をそのまま記事にすることを検討している報道機関もあるようだ。マスコミの責務として如何なものかとは思うが、こと供託金制度の廃止に向けては、大きな障壁が一つ消えることになる。
ところで、臼田さんの訴訟は、弁護士が付かない本人訴訟である。提訴を決めた時点で、関心を示す弁護士がいなかったからだという。憲法が定める参政権を保障するうえで、極めて重要なこの問題。1票の格差の是正に熱く取り組む弁護士軍団の皆さんにも、その知力や行動力、そして財力と共に、ぜひともコミットしていただきたいところだ。
選挙の供託金制度の存在については、
知らない人も少なくないでしょう。
しかし、被選挙権の平等の権利についても、
主権者である私たちの権利だということを、
自覚する必要があります。
どん・わんたろうさんプロフィール
どん・わんたろう約20年間、現場一筋で幅広いジャンルを地道に取材し、「B級記者」を自認する。
派手なスクープや社内の出世には縁がないが、どんな原稿にも、きっちり気持ちを込めるのを身上にしている。関心のあるテーマは、憲法を中心に、基地問題や地方自治、冤罪など。
「犬になること」にあこがれ、ペンネームは仲良しだった犬の名にちなむ。「しごと」募集中。
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