話は『ライフ・イズ・ビューティフル』にもどろう。だじゃれは盛んだが、言葉の妙を楽しむ言語活動は薄れてきている。ベニーニのイタリア語LA
VITTA E BELLA(人生は美しい)にはLa vitta e bella, nonostateという発想があったはずだ。「人生は美しい、されど……」。この映画が語っているのは、題名には書かれていない「されど」だろう。
物語の最後はアメリカ軍の戦車が街に入ってきて、父親が命をかけてかばい続けた息子のジョズエを兵士が抱えている。ジョズエは父親が処刑されたことを知らない。観客もその場面を見ない。ただ銃声を聞くだけだ。父親がご褒美に約束してくれた本物の戦車に乗って、子供は家に帰れると喜んでいる。だから「暖かさが残る」というのだろうが……
。
されど、なぜに、かくも愚かなことを、今もなお! これがベニーニが喜劇に託した痛切な叫びじゃないか! この映画は二度三度観ていい映画だ。物語の始まり、おかしな男が自転車に乗って街に入ってくる、美女を見初める。プリンセスへ想いが届かない。レストランのウエーターになってがんばる。プリンセスが花嫁になるところを白馬に乗ってきて宴席からかっさらう。予測がつかぬ喜劇的展開で、面白い、されど……。
|