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翻訳家の藤岡啓介さんが、おなじみの映画を独自の視点で解説。
第2回は、トム・ハンクス主演の『フォレスト・ガンプ』 (1994・米 監督ロバート・ゼメキス)です。 実はひとひねりもふたひねりもあるこの映画。 トム・ハンクスの言葉にも注目です。
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藤岡啓介(ふじおか けいすけ)翻訳家。1934年生まれ
長年、雑誌・書籍・辞書の翻訳、編集者として活躍中。 著書に『翻訳は文化である』(丸善ライブラリー)、
訳書に『ボスのスケッチ短編小説篇 上下』ディケンズ著(岩波文庫)など多数。 |
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フォレスト・ガンプ一期一会
スペシャル・コレクターズ・エディション
発売元:パラマウント ホームエンタテインメント ジャパン
税込価格:4,179円 発売・レンタル中
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そうか、こんな場面がたしかにあった、だが、どうして忘れてしまっていたのだろう――初めに観たときから何年かたったとき、思い出したようにCATVでおやっという映画をやってくれる。この映画もそうした機会に二度目をみて、それから今度はビデオ屋さんから借りてきた。トム・ハンクスの『プライベート・ライアン』を見損なっていたので、いっしょに借りてきたのだが。(ビデオを見て初めて「プライベート」というカタカナ語が「private=二等兵」の意味だと知ったのだから、ぼくの英語も怪しいものだ)。まっ、それはさておき、メグ・ライアンと共演のロマンチック・コメディーものも含めて、トム・ハンクスは余計な映画に出ていない。この人、何か主義をもってるな、とかねがね思っていた。
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見直すと、この『フォレスト・ガンプ』いよいよ只者でないことがよくわかった。冒頭、白い羽がひらひらと舞って、バスを待つガンプの足元に落ちてくる。これはしっかり覚えていた。夢だ、夢を語っている。「人生なんて、チョコレートの箱のようなものさ、フォレストや、箱は開いて見なけりゃ何が入っているか分かんないんだよ」という母親の言葉も覚えがある。でも、プレスリーが出てきてジョン・レノンも「出演」していたなんて。ガンプがピンポンの全米代表になって毛沢東の中国に行き、TVの凱旋番組で「中国人は何も持っていないし、教会にもいっていない」と報告したとき、司会のキャベットは仰天、脇にいたジョン・レノンは“It’s easy to try!(そんなこと何でもないさ)”と意味深な台詞をいっている。これって、レノンの歌詞にある言葉だ。ガンプがアメフトの代表選手に選ばれたとき、ケネディー大統領と握手する段になったが、ドクター・ペッパーを15本も飲んでいたので我慢できない。「気分はどうかね」と問われて「おしっこがしたいです」と答えていた。これは皮肉なんだろうな。なにしろIQ(知能指数)が75、おまけに生まれつきの身障者だという設定のガンプが、あるとき突然自分が韋駄天だったことを知って、それからは、後に「ガンピズム」という言葉が生まれたように、「無垢なるものは美しい」といわれるように人生を突っ走っていく。
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映画には何十もの出会いのエピソードが出てきて、それぞれでガンプがガンプらしい働きをしている。一つひとつを取り上げたら少なくともA4で20頁にはなるだろう。だから邦題では苦し紛れに「一期一会」と補ったんだろうが――それぞれに自分らしくわが道を走るガンプの姿がある。ワシントンDCのベトナム戦争反対の大集会で軍服姿のガンプが演説するところがある。だがアンプの配線が抜かれていて演説の内容は分からない。市民トム・ハンクスが後日それを補った。「場合によっちゃ、だれだってベトナムに行くさ。ママのところに帰ってくるときはどちらかの脚を落としてくるかも知れない。家に帰ってこない者もいるだろうが、そいつは悪いことだ。ぼくにいえることはそれだけだ」。
こうした言葉を伝えられるトム・ハンクスはすごいと思うよ。
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ところで、原題はForrest Gump。普通Forrestは苗字なんだが、あえて名の方にしたようだ。南北戦争の英雄で悪名高いKKKを創設したネーサン・ベッドフォード・フォレストの名をつけたのはママだった。これもひとひねりしたんだろうな。Gumpは「うすのろ」。フォレスト・ガンプには「森に住まう愚か者」の響きがある。痴愚神※だ。あれやこれやずいぶんとひねりがきいた映画だけど、そんなことはどうでもいい、ガンプのように走りたいな。政治家どもが右も左も有名人ガンプを利用するけど、ことごとく面目失墜だ。バカといわれても委細構わず、人類に、地球に害を及ぼさず、愛と約束を守り、夢を育んで突っ走る、これが戦争をしない魂(たましい)じゃないか。ぼくら魂の問題を忘れているよ。
※編集部注:オランダの人文主義者、エラスムスは『痴愚神礼賛』(1509)で「愚者」と「智者」を対比させて痛烈な体制批判を行った。逆説的な発想でルネッサンス精神を謳いあげた名著。愚者であることの偉大さが、この『フォレスト・ガンプ』でも示されている。
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“戦争をしない魂”を子供や孫たちに伝えていって欲しいと、 藤岡さんからのメッセージです。 次回の映画コラムもお楽しみに!
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