男性も女性も「みんなが生きやすい社会」を
編集部
さて、「おばちゃん党」の出発点になった「政治の場がオッサンばかり」ですが、たしかに日本の国会における女性議員比率は、世界でも最低水準(*)だと指摘されていますね。なぜここまで低いのでしょうか? クオータ(割当)制(*)を取り入れていないなど、制度面の問題もあると思いますが、それ以外にも何か原因がありそうです。
*日本の国会における女性議員比率は、世界でも最低水準 …IPU(列国議会同盟)の調査によるもの。朝日新聞記事など参照。
*クオータ制…ここでは、政治の場における男女格差を是正するための暫定措置として、議員・閣僚、政党候補者などの一定の数を女性に振り分けるシステムの こと。ヨーロッパなどで広く導入されているほか、アジアでは韓国が2004年国政選挙から導入、それまでは日本以下だった国会における女性議員数を大きく伸ばした。
谷口
女性議員に対しては、男性議員に対してはあり得ない、特有の嫌がらせがあると聞きます。昔の彼氏の話とかも、すぐ引っ張り出されてスキャンダルにされるでしょう。別に何か悪いことをして付き合ってたとかでもないのに。知り合いの女性議員に聞くと、匿名での中傷もものすごく多いそうです。
つまり女性は、家族に対するものも含めそういうプライベート面でのバッシングを引き受けて初めて議員になれるということ。あまりにもハードルが高いんです。女性議員のなり手がなかなかないのも当然じゃないでしょうか。
編集部
一方で最近は、長引く不況もあって、自民党をはじめ構成員がほとんど男性の政党からも「女性の労働力をもっと活用すべき」みたいな声が聞かれるようになっています。
谷口
でも本来、景気がよかろうが悪かろうが女性を活用するのは当然の話。景気がいいときはパートにも出ずに家でじっとしていてほしくて、景気が悪くなってきたら今度は安い賃金でたくさん働いてほしい、というオッサンの本音が見え隠れしてる気がします。
編集部
安くて便利に使える労働力、という感覚から抜け切れていない…。
谷口
そう思います。女性を「100均化」してるというか。女性へのリスペクトがなさすぎですね。
唐突ですが、家でトイレ入っててトイレットペーパーが切れても、そのまま補充しない人っていてますよね。実はうちの夫がそうだったんですけど(笑)、そういう人ってたぶん、会社でコピー機使ってて紙がなくなってもほったらかしやと思うんですよ。あるいは、自分が毎日家で使ってるトイレットペーパーの種類も知らない人が、会社で在庫管理の仕事ができるとはどう考えたって思えませんよね。そんな日常的な観察もできてないのに、仕事で「お客様をしっかりと観察しなさい」とかなんで言えるんや! と。
そう考えると、家事――家の中をマネジメントするって、ありとあらゆる職種をこなせないとやれないことなんです。それを担っている多くの女性――というかおばちゃんを軽んじて見ること自体がおかしいと思いますね。
編集部
でもそういう、女性の役割を副次的なもの、二次的なものに押しとどめている状況って、決して男性にとっても幸せなものではないと思うんですが…。裏返せば「男は働いて家族を養わなきゃいけない」みたいな縛りがあるわけで、それはそれでシンドイ思いをしているのではないかと。実際、働き盛り世代(30才〜69才)の男性自殺者は、女性の2倍以上の人数にのぼっています。一概には言えない問題がそこにあるのでしょうが。
谷口
結局、女性が生きづらい社会というのは、社会全体が行き詰まっているということでもあるんですよね。だから、本来的には「女性」というカテゴリにこだわるのでもなく、私らがみんな楽しく毎日、仲良く暮らしていける社会にどうしたらしていけるのかを考えたい。「おばちゃん」というネーミングはそこを包括できるものでもあるのかな、と。「党員」は今のところ女性のみですが、おばちゃんマインドを持った男性には、「オッサン」ではなく「おっちゃん」として党の「サポーター」になってもらっているんですよ(おっちゃんサポーターサイト)。
編集部
「オッサン」と「おっちゃん」は違う、と(笑)。おばちゃん党が、そうして女性だけでなく男性も含めた、社会の硬直的な感覚を変えていくきっかけにもなっていくといいですね。ちなみに、今後のFacebook以外の活動の予定はあるんでしょうか?
谷口
Facebookに参加していない人、インターネットにつなげない人をどう巻き込んでいくかは、今後の課題の一つです。それもあって、まずは8月に東北の、東日本大震災の被災地に行きたいと思ってます。題して「おばちゃんに乾杯」(笑)。特別にイベントとかは考えていなくて、ただとにかく東北のおばちゃんたちと「井戸端会議」をしたい。人にしゃべったら楽になること、部外者相手やから話しやすいことって、あるでしょう?
あとは3年後に大阪で「全世界おばちゃんサミット」を開こうと思っていて。そのときはヒラリー・クリントンにもぜひ来てもらおう、という話を仲間としています。もともと、おばちゃん党を立ち上げたときも、海外メディアからの取材がかなり多かったんですよ。そうやって世界的な認知度を高めて、いつか英語の辞書に、「MOTTAINAI」と同じように「OBACHAN」を載せたい、と言っているところです(笑)。
(構成/仲藤里美 写真/シャノン・ヒギンス)
とにかくパワフルで、話を聞いているとこらちまで元気になってくる谷口さん。
5月11日(土)のマガ9学校では、
ゲストの雨宮処凛さん、想田和弘さんとともに、
「オッサン政治」にさらに切れよく「物申して」いただきます。
そしてインタビュー後編は、ご専門である憲法について。
いまの改憲論議のおかしさについて、鋭くツッコみまくっていただきました。
こちらもご期待ください。