雨宮処凛がゆく!

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問題のポスター。ブラックジョークにしか見えない・・・。

 2月10日、11日と福島に行ってきた。「反貧困フェスタ2012 in ふくしま」に参加するためだ。フェスタ本番は11日。前日の夜に入り、まずは「交流会」という名の宴会に参加。東京からは湯浅誠氏、河添誠氏などおなじみのメンツが登場、そして東京組を迎え撃つのは「反貧困ネットワーク福島」の面々。楽しい飲み会となったのだが、時に「これって何かの悪い冗談?」「っていうか映画?」としか思えないような会話があちこちで交わされたのだった。

 福島の人がごく当たり前のように「うちの近くって8マイクロなんだよね」と語り、レンタルDVD店のTSUTAYAではガイガーカウンターが無料で貸し出されていることが話題となる。そうしてもっとも驚いたのは、お店のトイレに貼られていたポスター。生ビールのジョッキの写真のポスターには、以下のような言葉が書かれていた。

 「ビールって!? スゴイらしいよ。大学の先生が言ってるんだ! 放射線を防護する働きがあるんだって!!」

 そしてポスターの左側には、小さな字で何かの「実験結果」だというもっともらしい文章が。

 「放射線により生じた血液細胞一個あたりの染色体異常の数は、飲酒後の方が飲酒前より明らかに少ない。さらに、同様の実験を『生理食塩水』『エタノール』『ノンアルコールビール』で行った結果、ノンアルコールビールは、放射線防護の効果は認められず、エタノール単独よりもビールの方が放射線防護効果が高い事が実証されました」

 ただただ驚いていると、福島では大抵の居酒屋にこのポスターが貼られていると聞いてもっと驚いた。

 世の中には「除染」などの様々な「放射能ビジネス」があるわけだが、こんなふうに「放射能防護に効果あり!」と謳うという手口もあるのだ。そしてこういったポスターがある光景が、既に当たり前のものとなっている福島。

 前日からこうしてカルチャーショックの洗礼を受け、迎えたフェスタ当日。会場の福島大学に向かうために乗ったタクシーで、私は更なる衝撃を受けることになる。

 まずは行き先を伝えた途端、運転手さんは「福島大学って言ったら、あの辺は0.5から0.8くらいだね」と放射線量を予測(実際、ホントに0.8だった)。福島のタクシー運転手は、道だけでなく、各地の放射線量も把握しているようである。

 また、話題が原発の賠償問題になると、 それまで穏やかだった運転手さんの口ぶりは突然荒くなり、「避難してきている人」のバッシングを始めたのには驚いた。なんでも警戒区域からの避難者には東電から月に一人当たり10万円ほどが出ているらしく、4人家族であれば40万円。そんな避難者が「働かずにパチンコばっか行ってる」「酒ばっかり飲んでる」というのだ。「そんなの見てると、真面目に働くのが馬鹿らしくなってくる」。運転手さんはそう言うと、「今までだって散々恩恵受けてきたのに、今もまだ恩恵受けてるっていう、その根性が気に食わない」と吐き捨てるように言った。

 皮肉なことに、福島では東電の賠償金を手にした避難者でパチンコ屋は繁盛し、タクシーのお客さんも増えているという。

 昨年11月、私は福島県の郡山市を訪れた。その時に、「これから福島は内部分裂していくのではないか」という不安の声を聞いたことは、この連載の211回でも触れた。東電からの補償がある警戒区域からの避難者と、なんの補償もないまま自らの判断で避難している人、住宅ローンを組んで家を建てたばかりの人と、賃貸物件暮らしだった人。補償には様々なグラデーションがあり、それによって人々はいがみ合い、妬み合い、バラバラになってしまうのではないか・・・。
 今回の福島行きで痛感したのは、悲しいけれど、その「内部分裂」が既に始まっているということだ。反貧困フェスタでも、「避難者バッシングにどう抗えばいいのか」という悩みを幾度か耳にした。

 ここまで読んで、「でも月に一人当たり10万円貰えるなんていい身分じゃん」と思った人もいるかもしれない。しかし、生まれ育った故郷が危険な「立ち入り禁止区域」となり、今までの生活が根こそぎ破壊され、何ひとつ持ち出すこともできず、情報がない中置いてきてしまったペットや家畜がどうなっているのかもわからずに悶々とする・・・そんな思いをしてもいいから月10万円が欲しいという人はどれだけいるだろうか。「働かない」という批判もあるが、地元に戻れるのか、戻れないのか、戻れるとしたらいつなのか、そんなことさえわからない中でただただ「働け」と言われても、人によっては前の職場との繋がりが生きていたりするわけだし、様々な事情があるのだと思う。

 もし、自分だったら。そう思うと、どこに向かって歩き出していいのか、そこからさっぱりわからない。そうして私は、絶対に何かにすがると思う。時に自暴自棄になり、刹那的になり、一時辛い現実を忘れさせてくれるものにハマると思う。

 「パチンコ」や「お酒」は、常にバッシングの対象となる。しかし、注意したいのは、ギャンブルもアルコールも、依存症の問題と深く結びついていることだ。一方で、仮設住宅ではやはりアルコール依存が増えているという話も聞く。

 震災から時間が経つにつれ、「被災者」に注がれる視線は今後もきっとどんどん変化していくはずだ。

 しかし、憎むべきは、「お金をもらって楽してるように見える誰か」では決してない。ここまで福島に分断を持ち込み、人間関係をズタズタにする「原発」というシステムをこそ、私は憎む。問題の本質を決して見誤ってはいけないと、改めて感じた福島行きだったのだ。

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「反貧困フェスタ」には、前福島県知事の佐藤栄佐久さんも登場!

 

  

※コメントは承認制です。
第220回 福島で見た「分断」の巻」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    すでに多くのものを失った人たちをさらに傷つける、
    あまりに悲しすぎる「分断」。
    もし、自分だったら。
    その想像力を持つことを、決して忘れてはならないと改めて思います。

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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