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2011-11-23up

雨宮処凛がゆく!

第211回

世界一マヌケなウォール街連帯アクションと、3・11後初めての福島。の巻

 11月17日は「WE ARE THE 99%」を合い言葉に、若者たちがウォール街近くのズコッティパーク占拠を始めてから2ヶ月の日。この日、世界に対して連帯アクションが呼びかけられていたのだが、その2日前の15日、ニューヨーク市警は公園に寝泊まりしていた人たちを強制排除。数百人が逮捕される事態となった。

 日本を含む全世界に拡大した「OCCUPY WALL STREET」への弾圧。そんな事実を知って、黙っていられるわけがない! と、高円寺界隈で「言うこと聞かない系」の人たちが立ち上がったのは16日。2ヶ月を記念する11月17日、「OCCUPY WALL STREET」の人たちに、「連帯」のエールを送ろうということになったのだった。

 ということで、ここは実際にウォール街に行き、ズコッティパークでテント生活をしていた松本哉さんに聞くのが一番いいだろうということで、その場にいた松本さんに聞いた。「どんなことやったら、占拠してる人たちが喜んでくれて勇気づけられるだろ?」

 ちなみにこっちのイメージとしては、東京でなんかやり、その写真や動画をニューヨークに送るという構想だ。

 「神輿」とか「餅つき」とかいろいろワケのわからない案が出たものの、その時に松本さんが閃いたのは「バーガーキング大作戦」だ。

 報道されているのでご存知の方も多いと思うが、多くの人が格差に反対してテント生活を続けるウォール街近くのズコッティパークにはトイレがない。松本さんによると、そんなズコッティパークの一番近くにあるのが「バーガーキング」。で、占拠してる人たちは基本的に貧乏人なので、何も買わずにバーガーキングのトイレを申し訳ないと思いつつ、使っているのだという。また、「公園は寒い」という理由でコーヒー一杯で1日粘る人、パソコンを使う時に利用する人など、地理的な理由から勝手に「OCCUPY」の最前線基地になっちゃってるらしいのだ。

 そんなバーガーキングの風物詩的光景となっているのが「トイレの行列」。朝など、明らかに占拠中の人ばかり(しばらくお風呂に入ってなさそうだったり、テントとか持ってたり)が行列を作っているのだという。

 ということで、日本からの連帯アクションとして、「バーガーキングのトイレに行列を作り、それを写真に撮って送ろう!」という作戦をすることに。きっとズコッティパークの人たちが見たら「あ! こいつらわかってる!!」と思ってくれるに違いない。それがどのような励ましになるかは未知数だが、とりあえず「バカだなー」と笑ってくれるのではないだろうか。

 そうして11月17日、私たちはバーガーキング某店に何気なく客として入店。こんなマヌケ作戦に十数人の人が集まり、トイレに行列を作る。さりげなく「WE ARE THE 99%」というプラカードを持ってたり、「OCCUPIED WALL STREET JOURNAL」(ウォールストリートジャーナルのパクリ新聞。支援者かなんかが発行してるらしい)を読んでたり、ズコッティパークにあるオブジェがさりげなく置いてあったりと、やたら構図にこだわりながら撮影! いい大人がこんなことに時間と労力をかける暇があったらもっと別のことやった方がいいのでは? という突っ込みは一切受け付けないのでよろしく☆

 ということで、これがその写真!

これがその写真!

同じく。

とりあえずバーガーキングにも行列を作ってみる。

 さて、そんなことをしてる間にもノートパソコンではウォール街のデモが中継されているのでみんなで食い入るように見つめる。それにしても、インターネットは確実に「世界連帯」を近くした。こっちがバーガーキング大作戦をしている午後9時、ニューヨークは午前7時。もう少し作戦まで時間があったら、お互い中継してアピール交換、なんてこともできたのだ。実際やったら、向こうでは逮捕者出まくってる中「何やってんだこいつら」と怒られたかもしれないけど。

 ということで、バーガーキングを出たあとは、寒空の下、高円寺駅前でテントを張って撮影したり、はたまたテント神輿を担いで動画を撮影したりと「世界連帯」のために決死の作戦が続けられる。

駅前広場でテントに入って世帯連帯をアピールする図。

同じく。

 で、後日、ニューヨークからは「すごいウケた」という返事が来たのだという。なんという歴史的勝利! あ、「で、結局なんのためにテント神輿?」などという疑問は一切受け付けませんので再びよろしく☆

 さて、そんなマヌケ作戦をした翌日は、厚生労働省で記者会見。ご存知のとおり、政府の行政刷新会議が20日から「提言型政策仕分け」を始めたわけだが、ここに「年金や生活保護の見直し」というものが含まれていたため、急遽、政府関連の審議会・検討会の民間委員有志で「提言」を出したのだ。こちらでご覧頂けるのでぜひ読んでほしいのだが、私は厚生労働省・ナショナルミニマム研究会の委員。まさに生活保護にかかわる問題を取り上げるこの研究会は中間報告を出しただけでまだ継続中。私は論外だが、委員にはそうそうたる社会保障の専門家たちが名を並べる。そこをすっ飛ばしていきなりそんな専門家でもない人たちに仕分けられるなんてどういうこと? なんでもかんでも「無駄」「とにかく予算を削ればいい」って感じで最後のセーフティネットに手をつけることは「命の仕分け」になっちゃうんじゃないの? という危惧を伝えたのだった。この問題、どう転んでいくか注目していてほしい。

厚生労働省の記者会見のあと。

 さてさて、その翌日は震災以降、初めて福島・郡山市へ。学校の先生たちの集まりでお話させて頂くために行ったのだが、やはり福島の先生たちはあの日以降、もうとてもじゃないけど書き尽くせないほど大変な経験をされていたのだった。

 まず驚いたのは、3月11日に震災が起き、学校が避難所となった瞬間から、先生や学校の事務職の人たちが避難所の運営に回ったということ。しかし、当たり前だがみんな初めての経験だ。そんな中、多くの先生たちが泊まり込みで働いた。そうして避難所を継続しながら学校が始まる、という前代未聞の状況がしばらく続いていたというのだから、なんというか、凄まじい。

 先生という立場ならではの驚くべき話も聞いた。現在、学校の除染などが問題となっているわけだが、地域の人たちがマスクもせずに除染している、という信じがたい話を時々耳にする。で、そんな「無防備除染」を実際に経験したという先生に会った。なんでも突然「市から借りてる高圧洗浄機を明日までに返さなきゃいけないから」という理由で急遽除染を命じられ、半袖でマスクもなく、除染作業に駆り出されたのだという・・・。もちろん、安全に関する指導など何もない。

 そんな福島の人と話していて驚いたのは、「線量」の高さについての認識だ。「うちの辺りは線量が低い」というのでどれくらいかと思ったら「0.1とか0.2マイクロ」という答え。東京の場合、私の周りではそれは「高い」と認識されている。正直にそれを伝えると、「比較対象が違うから、もうそれで低いと思っちゃうんですよ」という答え。

 原発近くに家があり、戻れない人、原発近くの学校で教えていたものの、学校ごと移転し、生徒数は大幅に減った先生にも会った。

 「福島はこれから内部分裂するのではないか」という不安の声も聞いた。津波で家が流された人はなんの補償もない一方で、原発事故で避難している人たちには東電からお金が入ってくる。建てたばかりの家の住宅ローンなどがある人は東電からお金を貰ったところで苦しいままだが、ある意味、「それまで持ち家などがなかった人たち」は結構な額のお金を手にしているという現実がある。地震、津波、原発事故と様々な被害に遭った人たちへの、補償の細かなグラデーション。どうしても芽生える、「あの人は得をしている」という妬みや怒り。

 帰りのタクシーに乗って、その日聞いた様々なことについて考えていると、運転手さんが「地震で道がなくなったので迂回しますね」と当たり前のように言った。思わず「地震で?」と聞き返すと、「まだ直してないんです」という答え。地震からの復旧すらまだ思うように進んでいない福島で、私がもっとも印象に残っているのは「もう東京では、原発事故のことなんか忘れられてるんじゃないかって不安なんです」という言葉だ。

 当たり前だが、福島第一原発は、福島の電気ではなく東京の電気を作っていた。その恩恵にあずかっていた私たちが原発事故を過去のものにしないことは、ひとつの義務だと思うのだ。

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思わず笑ってしまった「世界一マヌケ」な連帯アクション! 
このなんともいえない素敵さは、「いい大人」がやるからこそ、のはず。
そしてまた、福島の人たちへの「連帯」の思いを示すこと、
原発事故を「過去のものにしない」ことも、
雨宮さんが言うように「大人」として当たり前の義務だと思うのです。

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雨宮処凛さんプロフィール

あまみや・かりん1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮処凛のどぶさらい日記」

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