テポドンの上に乗っかる爆薬は、1トン未満です。核弾頭は付いていない(10年後はわかりませんが)ことが、認められています。1トン未満の通常弾頭が東京のド真ん中に落ちれば、もちろん大損害を与えますが、東京空襲のときのB29は1機に4トン半、それが350機ぐらい来ました。単純な比較はできませんが、仮に50のテポドンが東京に一斉に来たとしても、爆薬の威力から見ると東京空襲の何十分の一。一方航空自衛隊の攻撃機F2は最大8トン、つまりテポドンの8倍の爆薬を積むことができて、平壌まで行って帰ってくることができるんです。F2は現在49機保有されています。
金日成、金正日親子はこの50年にわたって、あの小さな国で世界最大の国アメリカを相手にしてきました。パワーポリティクスの見地に立てば、凡庸な指導者ではありません。あの冷静で合理的な人たちが、自分たちよりも大きな攻撃力を持つ日本に対し、簡単にテポドンを撃つ理由はないはすです。
仮にテポドンが飛んで来ても、迎撃能力はありません。アメリカにもありません。イージス防衛艦に積んでいるスタンダードミサイル(PAC3)にしても、地上発射型にしても、いまのところ航空機を撃破するためのミサイルであって、ミサイルを撃破するためのミサイルではありませんから。PAC3は航空機向けを少し進化させたものですが、ミサイルのような音速6倍ぐらいのスピードで飛んでくる小さな目標を破壊する能力はない。
弾道ミサイル防衛(BMD)は、まだ海のものとも山のものともつかないような、まだ実験室の技術といえます。迎撃するということ自体が空想といっていいような領域です。しかもいま完成したとしても、配備が完了するのは10年以上先の話になるわけで、脅威が今あるとすれば何の役にも立たない。
仮に迎撃ミサイルが計画通りの能力を発揮するとしても、相手はすぐに対抗手段を持つことができます。たとえば、弾頭におとり弾頭をつけて大気圏に入った途端に3つに分離するというような対抗手段をとるならば、こちらは迎撃ミサイルの数を3倍にしなきゃいけない。ロシアが最近実験に成功しましたが、大気圏内に入ってから軌道を変えるミサイルがあって、これをやられるといまの迎撃ミサイルは意味がなくなる。兵器と対抗兵器というのは、永遠のいたちごっこの関係。そして、底なしの金食い虫なのです。
しかしアメリカの軍産複合体、日本の軍事産業にとっては、それが防衛政策上有効かどうかというよりも、そういった先端技術、ハイテクの技術研究を国の経費で行なえる利益がある。自社が設備投資すれば何千億円かかるようなものを研究することができ、それを民生品にも転用できる。インターネットもカーナビも、もともと冷戦期における軍事技術から来たもので、アメリカがいま唯一といっていい技術分野で突出した輸出品です。だからBMDが必要とされる政治状況をつくって、予算を取っていけばいいわけです。
今、北朝鮮の脅威というものが、極限のシナリオで描かれているわけですが、そこに誘導し、憲法改定や軍拡につなげたい勢力がある。最悪のシナリオをベースに議論を始めたら、相手の思う壺ですよ。北朝鮮という国のGNP、人口、軍事力、日本との間に海を挟んでいるという地理的なことを考えても、テポドン以外に脅威はほとんどないし、それを「世界最大の軍事大国」アメリカと「世界第2の経済大国」日本が組まなければやられる、というのはどぎついメーキャップですね。
先にテポドンを撃つ理由がないと言いましたが、もう一度強調すれば、唯一の可能性は、アメリカが北朝鮮を先制攻撃した場合です。1950年の朝鮮戦争のように、日本の米軍基地が出撃地になるとき、日本は交戦国の側に立つわけですからね。その時には、覚悟しなければならない。あなたは、それを選びますか?
↑アタマに戻る |