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2012-11-21up

時々お散歩日記(鈴木耕)

114

「小泉狂騒」の愚を再び犯すマスメディア、
「棄民」―国家に見棄てられる被災者たち

 総選挙モードで、世の中(といってもマスメディアだけだが)騒々しい。だが、これだけは認識しておいたほうがいい。今回の選挙は「憲法違反」である、ということを。

 最高裁は「現在の選挙制度は違憲状態にある」と警告を発している。国政選挙における1票の格差が許容範囲を超えていて、本来1人1票であるべき選挙権が、選挙区によって数倍にまで広がってしまっている。つまり、僕の1票は某県の有権者の0.5票分の価値しかない、というような状況が続いている。
 このままの状態で選挙が行われれば、それは「違憲選挙」であると、国家の最高司法機関が認定しているのだ。だから、総選挙を行うとすれば、まず、選挙区割りの是正だけではなく、選挙制度そのものを見直してからでなければならなかったはずだ。
 確かに国会で「0増5減」という選挙区の小手先の改定は決めた。解散のための、民自公馴れ合いの産物だったが、この「0増5減」の区割りの実現さえ、少なくとも3~4ヵ月先のことである。つまり、今回の選挙は「違憲状態」のままに行われることが決まってしまったのだ。
 にっちもさっちも行かなくなった野田の解散は、実に「憲法違反解散」だった。1票の格差是正を訴える弁護士グループは「選挙無効」の訴えを準備している。このままの状態で選挙が行われれば、実際に裁判所が「選挙のやり直し」を命じる可能性さえある、という。
 ことは、民主主義の根幹に関わる選挙制度の問題なのだが、残念ながらそれに触れるマスメディアはほとんどない。

 特にテレビは、ひたすら「第3極」がどーしたの、維新の動向がこーしたのと、石原&橋下の野合政党を大きく取り上げるだけ。他の政党に割く時間は、ほんの付け足しだ。むろん「維新の後押しをしているわけではない」とテレビ局は言い訳するけれど、取り上げる回数が異常に多いのだから、結果的には維新の応援をしていることに変わりはない。
 まさに、あの「小泉狂騒」の再来。「熱狂報道を反省する」とブーム選挙の直後には語っていたテレビ関係者もいたけれど、そんな反省などとっくの昔に忘れたらしい。
 僕にはテレビ関係者で素晴らしい見識を持った知人友人が数人いるけれど、テレビという魔物はそんな個人の見識を奪ってしまう。結果として、テレビは政治の場面においては最悪の煽情機関と堕している。悲しいけれど事実だ。
 今回のアメリカ大統領選が「史上最悪の泥仕合」と呼ばれたように、テレビが果たした役割はあちらの国でも(金まみれのCM誹謗合戦という意味でも)最低だった。
 日本ではさすがに、相手候補の誹謗CMは自粛しているが、陰で電通や博報堂などの広告代理店が暗躍、テレビ番組(情報番組だけではない)に介入している、という噂は常に流れている。
 たとえば『電通と原発報道』(本間龍、亜紀書房、1500円+税)や『原発とメディア』(上丸洋一、朝日新聞出版、2000円+税)などを読めば、広告代理店とマスメディアの爛れた関係がよく分かって不気味だ。僕らは知らず知らずのうちに、ある勢力によってある方向へ洗脳されている。これは陰謀論でも何でもない事実なのだ。
 少なくともテレビ報道に関して、公正さを義務付けるなんらかの措置は必要ではないかと、僕のような「報道・表現の自由」論者でも考えざるをえない、昨今のマスメディア「第3極報道」なのである。

 「第3極」はともかくとして、他の政党は「原発」に関してどのように考えているのか。僕は「時々お散歩日記No.111」で、かなり詳しく触れたつもりだ。ぜひそれを読み返してほしい。しかし、そのコラム執筆時からでも、状況は揺れ動いている。少し付け足そう。
 原発そのものに反対している4人の女性参院議員で結成した「みどりの風」に、新たに民主党を脱党した山崎誠衆院議員と同じく福田衣里子衆院議員が加わり、さらに数人の加入者が見込まれている。「みどりの風」は、主に地方議員たちでつくる「緑の党」や「グリーンアクティブ」との連携も視野に入れていることから、脱原発派の有力な受け皿になりそうだ。さらに「国民の生活が第一」との連携も考えているとの情報もあるが、これはまだ流動的だ。
 一方「新党きづな」と合流した「国民の生活が第一」は、社民、新党大地、新党日本などとともに「国民連合=日本版オリーブの木」を構築しようとしているといわれるが、これも未知数。
 亀井静香氏と山田正彦氏が新たな政党を結成したが、まだどうなるかよく分からない。亀井氏らと「みどりの風」は、合流へむけての会談も行ったが、これは残念ながらまとまらなかった。
 このように、とにかく小政党分立状態で混沌。まさに、誰がどこの党にいるのか、その党がどういう主張をしているのか、考えると頭が痛くなる。言及したくもないが、「維新の会」の、政策そっちのけの野合にはあきれるばかり。そういえば、
 <わしは今 どこの党かと 秘書に聞き>
 という川柳があったな。

 こんな状況に東京都知事選が絡むから、話はややこしくなる。11月20日現在で、とりあえず立候補を表明しているのは、宇都宮けんじ氏(前日本弁護士連合会会長)、松沢しげふみ氏(前神奈川県知事)、笹川尭氏(元衆院議員)、ドクター中松氏ら。
 石原慎太郎前都知事が"後継指名"した猪瀬直樹副知事は、後出しジャンケンの有利さを狙ってか、執筆時点ではいまだ立候補表明をしていない。しかし、どこかの国ではあるまいに、"後継指名"とは恐れ入る。やはり、独裁の系譜はいずこも同じということか。
 きちんと脱原発を明確にしているのが、宇都宮氏。すでに、社民党と共産党が推すことを決めているし、生活も支持の方向という。そして「宇都宮さん支持・勝手連」が、都内各地に続々と立ち上がりつつある。マスメディアでは"猪瀬優勢"が伝えられているが、宇都宮氏が有力な対抗馬になりつつある。

 マスメディアが選挙狂騒報道に血道をあげているその陰で、棄て去られようとしている人たちがいる。
 「ホームレスの仕事をつくり自立を応援する」という目的で発行されている雑誌『ビッグイシュー日本版』(202号、12.11.1発行)に、次のような記事が掲載されていた。
 (注・これはホームレスの販売者が主に大都市の街角に立って直接販売している雑誌で、定価300円のうち160円が販売者の収入になる。もし、街角で見かけたら、ぜひ購入してほしい)。

まだ残っていた避難所。1年7ヶ月経て、
今も「ホームタウンレス」、「ホームレス」の日々
―福島県双葉町、埼玉県内の避難所

 (略)東日本大震災と原発事故の発生で、福島県の被災自治体では唯一、県外の埼玉県に避難した双葉町。さいたまスーパーアリーナを経て、昨年3月末に加須市の旧・騎西高校校舎に役場機能(町役場埼玉支所、町災害対策本部)と避難所を移動、現在に至っている。
 発災からすでに1年7ヶ月が過ぎたが、ここが福島県だけでなく、被災地3県でも最後に残る避難所である。避難者は当初1460人ほどだったが、今も、181人(10月15日現在)が残る。平均年齢は70歳、年金生活を送る高齢者が中心。みなし仮設(仮設住宅や借り上げ住宅)への移行も進まず、いまだ避難所閉鎖の見通しは立っていない。
 避難所生活を送る高齢者は原発事故の放射能の影響で、いまだに故郷や自宅に帰れない「ホームタウンレス」であり「ホームレス」と言える。そして、子や孫世代とは別々に暮さざるを得ない「ファミリーレス」という厳しい状態に置かれている。(略)

 これが、いまだに傷の癒えない人たちの実態である。全国で、たった1ヵ所残った避難所。多くが年金に頼る、平均年齢70歳の高齢者たちが、ひっそりと暮している。
 少ないが、集団のメリットもあるという。「共同生活で掃除も一緒。社会福祉協議会のデイサービスを楽しみにしている方もいる。ここでは孤独死などは起きていない。高齢者にとって、先の生活が見えないなか、ひとつの選択肢としての避難所生活なのかもしれない」と、双葉町の大住宗重秘書広報課長は記事の中で語っている。だが、その大住さんも国に対しては、次のように厳しく批判する。

 「(略)放射能の影響がわからないなかで、慎重に対処すべきとの立場から県外への避難を決意したが、国は、住民の意思に関係なく避難指示を出しておきながら、『戻るかどうかの判断は町がしろ』という。ここに避難している住民はみな毎日、『帰れるなら帰りたい』と考えていると思う。『いつ、何年経ったら帰れるんだい。はっきり言ってくれ』と住民に聞かれるが、我々も答えられない」

 国は、自治体へ下駄を預けてしまったのだ。最も辛く厳しい状況に置かれている人々への処遇を、町へ丸投げしてしまった。
 いつ故郷へ、自分の家へ帰れるのか分からない不安。もしくは、もはや故郷も自宅も永遠に失ってしまった、という諦めと絶望…。
 そういう状況へ国民を追いやって、「あとの面倒は町がみろ」という国家。これを「棄民」という。すなわち、国家が民を見棄てることだ。
 かつて、大日本帝国は、満州国という"幻影国家"を中国東北部に強引に造り上げたが、敗戦とともに旧日本軍は、満州国に移民した日本人たちを見殺しにする形で放置した。日本陸軍最強と謳われた"関東軍"は、移民たちを見棄てて我先にと逃げ出したのだ。
 現在の日本政府と電力会社のやり口を見ていると、その"棄民"という言葉を思い出さざるを得ない。

 現在でも、福島県の避難者数は約16万人、そのうち県外への避難者数は約6万人。しかも1年以内に故郷へ戻ろうと決めている人は、その中の2割にも満たないという。戻りたくとも戻れない。
 国や電力会社は「懸命に除染作業を行っています」を繰り返す。だが除染効果には疑問が多い。とりあえず除染したものの、数ヵ月後に再度、放射線量を計測したところ、結局もとの高線量に戻っていた、との報告も上がってきている(東京新聞11月20日付けに詳しい)。
 しかも、この除染作業を請け負ったのが、日本原子力研究開発機構(あの「もんじゅ」の運営主体)だという、ベタベタの原子力ムラのたらい回しというオマケまで付いていた。
 要するに、国も東電も、避難者よりも自らの利益権益擁護を優先しているととられても仕方ない。被害者への賠償は、東電側の厳しい査定があって、なかなか進まない。ありもしない領収書や避難先での行動記録の提出を求められ、その結果として賠償額を減額されたりで、被災者のストレスは高まる一方だ。

 政治家たちは、そんな被災者の厳しい状況などすっかり忘れた顔で、「強い国をつくります」だの「国土強靭化法案を押し進めます」、「周辺諸国には毅然とした外交で臨みます」などと吠えまわる。そのくせ、沖縄でまた起きた米兵犯罪には口をつぐむ。
 はっきりと脱原発を表明し、アメリカと沖縄米軍基地問題で"毅然と対処"し、TPP反対の態度を堅持する候補者を、僕は目を皿にして選ぶしかないと思っている。

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鈴木耕さんプロフィール

すずき こう1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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