マガジン9

憲法と社会問題を考えるオピニオンウェブマガジン。

「マガジン9」トップページへ時々お散歩日記:バックナンバーへ

2012-11-14up

時々お散歩日記(鈴木耕)

113

デモ報道と朝日新聞の姿勢

 11月11日、「3・11」からちょうど1年8ヵ月目の日。僕は、国会議事堂前にいた。
 かなりの雨、秋の深まりを思わせる寒さ。はあーっと吐いた息が白いのは、この秋、東京都心では初めてだった。
 そんな悪条件の中、国会周辺には10万人ともいわれる人の群れ。さらに今回は、日比谷公園を都が使用を拒否したこともあって、どこへ集まればいいのか分からず、右往左往してしまった人たちも多かったというオマケつきだった。それでも、あれだけの人数が国会前~首相官邸付近へ押し寄せたのだ。
 脱原発、反原発への人々の意志は衰えてなどいない。

 この「国会包囲大抗議集会」について、主催者は参加者数を約10万人と発表した。ところがマスメディアの報道によると「警視庁関係者の話では、参加者数は約7千人」ということだった。10万人と7千人…。
 主催者と警察が公表するデモ参加者数の極端なほどの乖離は、これまでもずいぶん指摘されてきたことだけれど、ここまでかけ離れてしまうと、もう開いた口が塞がらない。権力側としては、政府に反抗する人々の数をできるだけ少なく公表するというのが"刷り込み"になっているのだろうが、それにしても…。
 あの場に居合わせた人なら100%が「少なくとも数万人規模」というのは実感できたはずだ。警備に当たった現場警察官だって、本音では「7千人ってのはいくらなんでも…」と苦笑しているに違いない。
 しかし、ここまでは権力側と反抗者の違い、ということで分からなくもない。問題なのは、マスメディアだ。
 僕はデモに参加していたので、11日当日夜のTVニュースを見ていない。日曜日ということもあって、あまりニュース番組もなかったが、ほとんどが無視するか、小さな扱いに留まっていたようだ。デモ翌日の12日は新聞の休刊日だった。だから、新聞は12日の夕刊でデモを伝えた。
 その中で、僕は朝日新聞に激怒したのだ! 朝日新聞12日夕刊、記事はそこそこ大きかったが、問題はその中身だ。

脱原発 雨の中7000人
日比谷公園使えず デモ行進は中止

(略)午後3時、「原発ぜったいNO」などと書いたプラカードを手にした大勢の人たちが国会正門前や官邸前、経産省前に集まった。警視庁は参加者数を発表していないが、警察関係者によると約7千人という。抗議行動は午後7時まで続いた。(略)

 見出しにデカデカと「7000人」。だが主催者発表の「10万人」という数字は、どこを探しても見当たらない。つまり、朝日新聞は「参加者数は7千人」と決めつけている、もしくは認めているということだ。
 この記事を読めば、誰だって、参加者数は7千人だと思うだろう。ことに、参加しなかった人には、この数は絶対だ。「提言 原発ゼロ社会」というリッパな主張をしている"朝日新聞"である。いまだに原発容認を掲げる読売や産経の記事とは受け取られ方が違う。
 前述したように、主催者は10万人と発表しているのだし、僕のように実際の現場にいた人間は、少なくとも数万人に及ぶ人間が参加していたことは実感として知っている。
 ネットでは、市民グループ「正しい報道ヘリの会」が飛ばした、この日たった1機のヘリコプターが空撮した映像が流れていたのだから、朝日新聞の記者サンだって、それを見ればどれだけの人数が集まっていたかぐらいは即座に分かったはずだ。だが、朝日新聞は「7000人」としか報じなかったのだ。
 この記事に関する限り、朝日新聞は、完全に"権力側"に肩入れしたことになる。権力側の発表(情報)にのみ頼るマスメディアなど、堕落以外の何ものでもない。サイテーだ。

副都知事殿の高飛車発言

 こんなマスメディア以外にも、人々の想いを踏みにじろうとする勢力は確実に存在する。そのひとつの現れが「東京都による日比谷公園使用拒否」だった。それは、石原慎太郎が去ったあと、彼に代わっていまや絶大な権力を握った猪瀬直樹副知事の意志であったようだ。それを示すのが、以下の猪瀬副知事のツイート(11月7日)だ。

 亀井静香氏から1ヵ月ほど前に電話があり、日比谷公園を反原発デモの出発地として許可しろと言うから、あなたはお巡りさん出身だから知っているでしょ、学生運動が盛んな時代、明治公園に集まり青山通りから国会付近へ行き日比谷公園は流れ解散の「一時使用」でしょ、と記憶を確かめてやりました。①
 ②日比谷公園でなく日比谷野外音楽堂はメーデーなどでいろいろ利用されている。亀井さん、野音を取れば?と勧めたら、もう埋まっているのだよと言うから、それは単に不手際でしょと返して、明治公園から日比谷公園までデモする根性なくてなにが反原発だ、日比谷から国会なんてやる気があるの? です。

 この人の"上から目線"の高飛車な物言いは、元上司の慎太郎譲りだとしても、このツイートの傲慢さはどうだろう。大先輩の亀井氏に「記憶を確かめてやりました」だの「それは単に不手際でしょ」とか、まるで部下を叱りつけるような言い草だ。
 (それにしても、亀井静香氏がデモの場所の許可取りをしていたなんて、知らなかった。ホント?)
 しかも「根性なくてなにが反原発だ」とは恐れ入る。さらにもうひとつのツイートでは、自分の学生時代(猪瀬氏は、信州大学全共闘議長だったそうだ)のデモの経験をひけらかしつつ、「日比谷は花壇と噴水から流れ解散の場。集会の自由はあたりまえ、やる側の根性とセット」などと書いている。
 ま、アンタの根性は凄いのだろうが、この反原発行動には、お年寄りから家族連れ、赤ちゃんを抱えた若い夫婦やお母さんたちだって大勢参加しているんだよ。あのころのデモとは違うんだ。車椅子の人たちだって、やむにやまれぬ心情でたくさん駆けつけている。そういう人たちへも、猪瀬氏は「明治公園から日比谷まで歩くような根性がないなら、反原発デモなんかするな」と言うつもりか。そんな神経で、よくも「集会の自由はあたりまえ」などと言えるもんだ。
 この猪瀬氏を、慎太郎は自分の"後継"に指名した。慎太郎といえば、障害者施設を訪れた際に「ああいう人ってのは人格あるのかね」というトンデモ発言をした人物だから、元部下の猪瀬氏もその"薫陶"をお受けになったに違いない。弱者への気配りなど、まるでない。
 週刊誌報道では、「都知事選は猪瀬圧勝」というのが主流らしい。こんな人物を都知事にしてはならないと、僕は強く思う。
 猪瀬氏の高飛車風は、肝心の東京都議たちにもまことに不評で、普通なら支持に回るはずの自民党都議団にも拒否感が強い。それでも、勝てる候補は彼しかいない、ということで、自民党本部は強引に猪瀬氏を推す方針を決めたらしい。
 それに対し、民主党は舛添要一氏に立候補を要請する方向だという。
 もう、何がなんだか分からない。
 舛添氏といえば、自民党安倍晋三内閣で厚生労働相を務めた人物。その後、自民党に見切りをつけ脱党、「新党改革」の党首となったが、現在ではほとんど存在感をなくしている。民主党にとっては"かつての敵"なのだ。そんな人物を推そうというのだから、民主党もろくな人材がいないことを告白しているようなものだ。
 民主党が年金問題等をめぐって、強く舛添氏を批判した言葉は、みんなウソだったわけだ。それほどに、このところの政治家たちの言葉は軽い。

 都知事候補としては、前日本弁護士会会長の宇都宮健児氏が名乗りを上げている。反原発、反貧困をメインスローガンに掲げていて、社民、国民の生活が第一、新党きづな、新党日本、新党大地(まあ、新党の多いこと)などが推薦する方向。いつもは独自候補を立てる共産党も、今回は宇都宮氏を推すらしい。 やっと、まともな政策を掲げる人が出てきたと思う。少なくとも、上から目線の威丈高な人物ではない。

「中道」をめぐる笑えない喜劇

 政治家たちの言葉が軽すぎる。最近の「中道」をめぐるやりとりは、もはや"吉本興業政治家部門"とでもいうしかない笑えない喜劇。
 まず、支持率どん底の民主党が苦肉の策、次期選挙でのスローガンは「中道路線」でいく、と打ち出した。安倍晋三自民党や橋下維新、さらには石原新(旧)党などが、雪崩を打って右派路線へ突っ走り始めたことへの対応策だ。それに、安倍総裁が噛みついた。産経新聞(11月8日配信)によれば、こうだ。

 自民党の安倍晋三総裁は7日、都内で講演し、政府・民主党の「中道」路線について「自分の信念も哲学もない人たちを中道の政治家という。堕落した精神、ひたすら大衆に迎合しようとする醜い姿がそこにある。つまり自分たちの考え方がないということだ」と非難した。(略)

 堕落、迎合、醜態…。悪口もここまで来ればいっそリッパだ。けれど、そんなこと言っていいの? という疑問が湧く。なにしろ、自民党とは大の仲良し公明党は、結党時から「中道」を標榜してきた党なのだ。
 その公明党も、「中道」を民主党に奪われまいと反撃に出た。(朝日新聞11月9日付)

 公明党の井上義久幹事長は9日の記者会見で「中道主義をうたった唯一の政党は公明党だ。民主党は選挙対策の意味合いが強くご都合主義だ」と批判した。自民党の安倍晋三総裁と民主党の仙谷由人副代表の「中道論争」に、党綱領で中道主義を掲げる公明党が名乗りを上げた。

 ま、どっちもどっち。スローガンの奪い合いという意味しかない、低レベルの口ゲンカ。そこで先ほどの疑問に立ち返る。
 では公明党は、長年連れ添った自民党の安倍総裁の、口を極めた中道への罵詈雑言をいったいどう思っているのか? 
 「中道の政治家は、信念も哲学も政策もない、堕落した醜い姿」とまで言われているのだ。立党の精神ともいうべき「綱領」の中道主義に、ここまで悪口を言われたら、「とても一緒になんかやっていけない、選挙協力などもってのほかだあーっ!」とちゃぶ台返しでもするのかと思いきや、なんだかふにゃふにゃ(東京新聞11月10日付)。もしかして、そんな公明党の態度を「中道」と呼ぶんだろうか?

 (略)(公明党の井上幹事長は)一方、自民党の安倍晋三総裁が七日の講演で民主党の「中道路線」を「新年も哲学も政策もない人が中道だ」と批判したことには「安倍氏が言っていることが正しいかどうかは今の段階ででは判断できない」と述べるにとどめた。

 いったいなんなんだろうね、コレ。こういうのを「ご都合主義」って言うんじゃないの。「今の段階では判断できない」って言うけど、いつになったらキッパリと判断するの。繰り返すけれど、判断しないことを「中道」だなんて、まさか言い出すんじゃないだろうね。

 その場その場で、よく考えもせずにテキトーなことを言う。だから後になって収拾がつかなくなり、訂正だの謝罪だのに追い込まれる。こんな政治家たちを我々は見すぎた。
 原発事故収束を宣言した野田宣言、TPPでグチャグチャの民主党、再稼働容認の橋下発言、政策そっちのけで合同せよとの石原構想、オスプレイは日米同盟のためという森本防衛相、あっという間の撤回・謝罪の真紀子文科相…。まともな人がどこにいる?
 そんな中、「太陽の党」。なんだか悪い冗談を聞かされているようだ。燃え尽きる寸前の人たちの、最後の灯か。

 今度の都知事選では、まともな人物を当選させたい…。そして衆院選では、僕は「原発」を最大の選択基準にする。

googleサイト内検索
カスタム検索
鈴木耕さんプロフィール

すずき こう1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

「時々お散歩日記」最新10title

バックナンバー一覧へ→