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2011-08-24up

癒しの島・沖縄の深層

オカドメノート No.107

「沖縄はゆすりの名人」と言ったケビン・メア氏の反論

 未曾有の東日本大震災で批判の矛先から逃れられたかに見えたのが、外国人献金問題で矢面に立たされつつあった菅総理と米国国務省の日本部長だったケビン・メア氏。しかし、驚異の粘り腰を見せた菅総理も今や退任は時間の問題となり、ケビン・メア氏も日本部長を更迭された。ワルは生き延びるかに見えたが、そううまくはいかなかった。
 菅総理の後継候補をめぐっては、候補者乱立で、いずれも「帯に短し、たすきに長し」状態で、現段階では誰が後継候補になっても決め手に欠けることだけは間違いない。メディアお得意の世論調査(世論操作?)によれば、前原誠司前外相が最有力なのだという。
 筆者に言わせれば、口だけはカッコよく達者だが、すぐに自説を豹変させる優柔不断ぶりは政治家としては信頼できない。八ッ場ダム中止撤回、泡瀬干潟埋め立てしかり。特に沖縄においては、米国と日本の官僚の走狗として辺野古新基地建設のために、アメとムチを駆使した卑劣な暗躍ぶりに県民は怒りを感じていることを報告しておきたい。
 せっかく、政権交代を実現させた民主党だが、仙谷官房副長官の反小沢路線に乗せられた現執行部のマニフェスト撤回によって、民主党が有権者に支持され、生き残ることはきわめて困難な状況になっている。仮に、前原総理になれば、自民党以上に親米・官僚依存を強めるだろうし、消費税は増税され、脱原発も民主党公約も財界の意向で雲散霧消だろう。

 もう一人のケビン・メア氏は、文春新書で『決断できない日本』を出版した。その新刊本のパブリシティを兼ねて『週刊文春』(8月25日号)で、〈沖縄はゆすりの名人 ケビン・メア激白! 「私は共同通信にハメられた」〉と逆襲に転じていた。しかし、激白の内容を読んでも、説得力はない。ケビン・メア氏は日本部長に就任する前には沖縄総領事もつとめ、夫人が日本人であることもあって日本語も達者だ。かなりの親日家であることは確かだが、その知識は沖縄を蔑視して基地を押し付ける日本の官僚たちに擦り込まれた情報が中心だ。メア氏の沖縄差別発言が発覚した時も、地元紙の記者たちの間でも「さもありなん」という声が大勢だった。

 とりあえず、『週刊文春』に掲載されたメア氏の反論を紹介しておきたい。「私はそのような発言は全くしていません。実際には『沖縄の地元政治家や一部業者が、日本がコンセンサス社会であることを利用して、日本政府とうまく交渉し、たくさんの補助金をもらっている』などと補助金システムの弊害を説明したに過ぎないのです。ただ、レコーダーがない中で行った講義ですから、誰も正確な記録をもっていません。どこまでいっても、『言った、言わない』の水掛け論になってしまうでしょう。(略)。私は上司から一切の反論を禁止されました」、「私の首切りで事態を鎮静化させることになったようでした」。

 首切りで事をおさめるのは日本だけではなく、米国もそうだというのは面白い。更に、メア氏の言い分を紹介しておこう。「共同通信の記事が出た後に調べると、私の『発言録』をつくったというアメリカン大学の学生たちは、反基地グループに関わっていたことがわかった。彼らは昨年12月の東京、沖縄訪問の様子をかなり詳しくブログに書いていました。それを見て私は驚きました。彼らは辺野古のキャンプ・シュワブ基地のフェンスの『NO BASES』(基地反対)と横断幕を掲げ、写真に撮ってブログに載せていた。さらに、ブログからは驚くべきことが分かりました。なんと、彼らは昨年12月の研修旅行時に、共同通信で問題の記事を取材・執筆した石山永一郎記者の自宅に泊めてもらっているのです。夕食をごちそうになったことまでブログにアップしていました」

 さすが、CIAと繋がっているのではないかとの噂もあったメア氏の情報収集力といいたいところだが、メア氏の講義を国務省内で聞いたアメリカン大学の学生たち14人は、自分たちのブログで公開しているのだから、調べれば誰でもわかることだ。しかも、学生たちが反基地であっても自由の国・米国なのだからそれもありだろう。「ハメられた」とメア氏が騒ぐのは、自分の脇の甘さを吐露しているようなものだ。このアメリカン大学の学生たちは沖縄の米軍基地視察を前提にメア氏から沖縄行きを前提にしてレクチャーを受けたのだから、知ったかぶりとサービス精神(?)で、沖縄差別を披露したのもメア氏本人の責任である。まして、学生たちが共同通信の求めに応じて発言録をまとめ、引率したアメリカン大学の准教授もその内容を全面的に認めているのだから、何ら問題はあるまい。例え、共同通信の記者がアメリカン大学の学生たちを自宅に泊めてもてなしたとしても、記者としては熱心かつ立派な親善行為であり、沖縄を差別する前にメア氏本人もむしろ見習うべきことではないか。沖縄の人々を自宅に招くような思いやりのある総領事だったら、沖縄のことももう少し理解が深まったのではないか。

 ちなみに、メア氏は共同通信の石山記者が沖縄国際大学で講演した「米軍の抑止力は架空の議論であり、常に幻想だ」との発言にも触れて、記者としての反基地の姿勢に疑問を投げかけている。この講演は現在でもネット上で動画が配信されており、石山氏は記者としての自分の姿勢を公的に発信しているだけのことではないか。メア氏は防衛・外務官僚との付き合いが多かったため、地元紙の記者の本音など聞いたことはなく、ほぼ例外なく不条理な米軍基地の存在に疑問を抱いていることなど知る由もないのだろう。石山氏はマニラ支局長も務めたことがあり、かつてのクラーク空軍基地やスービック海軍基地の跡地利用についても取材しており、米軍撤退後の雇用や経済効果は10倍以上に膨らんでいることを知っているだけに、沖縄の広大な米軍基地が沖縄経済を分断・阻害している事実を熟知している上での発言なのだ。

 あ、ここまで書いてきて、肝心のメア氏の『決断できない日本』の内容に触れていないことに気が付いた。さぞかし、日本を見下して、辺野古に新基地を作るべしと強硬に主張しているメア氏のことだから、日本の政治家や官僚のいい加減さにも触れているはずだろうから、ぜひ読ませてもらおう。特に、震災後は、米国と日本政府の調整役を命じられているのだから、日本政府のダメさぶりもよく知っているはずだ。毒舌と辛口の人物だから、秘密の暴露もあるはずだ。
 最後にメア氏にいっておきたい。沖縄県民が悪いのではない。在日米軍基地の75%を沖縄に押し付けて平然としている霞ヶ関官僚=米国政府こそが諸悪の根源なのだ。

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記事の冒頭にもありますが、
岡留さんが前々回のコラムで「食わせ物」と評していた前原氏が、
民主党代表選に出馬表明、最有力と報道されています。
いまだ辺野古への普天間基地移転に固執し、
菅首相の掲げた「脱原発」を激しく批判していた前原氏。
沖縄は、日本はどうなってしまうのか? と、
強い危機感を抱かずにいられません。

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岡留安則さんプロフィール

おかどめ やすのり1972年法政大学卒業後、『マスコミ評論』を創刊し編集長となる。1979年3月、月刊誌『噂の真相』を編集発行人として立ち上げて、スキャンダリズム雑誌として独自の地平を切り開いてメディア界で話題を呼ぶ。数々のスクープを世に問うが、2004年3月の25周年記念を機会に黒字のままに異例の休刊。その後、沖縄に居を移しフリーとなる。主な著書に『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)、『武器としてのスキャンダル』(ちくま文庫)ほか多数。 HP「ポスト・噂の真相」

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