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2011-08-03up

癒しの島・沖縄の深層

オカドメノート No.106

原発でも基地問題でも続く「大本営報道」

 広島、長崎の原爆投下から66年目の夏。今年は東日本大震災により、福島第一原発事故が勃発。チェルノブイリの原発事故に匹敵するレベル7以上の大事故で、まもなく5か月が経つというのに収拾のメドは全くたっていない。いや、そればかりか、放射線汚染の拡大は徐々に判明するという悪い事態が進行している。核の平和利用として米国や日本政府の後押しでスタートした原子力発電が、日本政府にとっては大失敗だったことは、もはや明白である。脱原発路線で最後の勝負をかける菅総理がこの平和式典でどんな歴史的演説を展開するか興味を持っていたが、ペーパーを読み上げるだけで説得力のある内容はなく、がっかり。

 世間から非難を浴びる菅総理に対して、脱原発路線の一点において、筆者は支持してきたが、やはり過大評価だったかもしれない。やはり菅総理にリーダーシップも覇気もない以上、仙谷グループと自民党の菅おろしの勢いを突破することは無理かも知れない。という事は、原子力の平和利用という名の原発推進の危機と恐怖はこれからも続くという事になる。仙谷グループが推すポスト・菅といわれる前原、野田、岡田、枝野らには脱原発路線は不可能だからだ。「原発利益共同体」の抵抗勢力のパワーは世論の動向とはまったく関係なく、メディアを味方に付けたヤラセや力ずくで権力を駆使した既得権益の防御に出てくるからだ。沖縄の米軍基地もそのクチだが、一般的な意味での正義が通用しない社会にはいささかうんざりだ。

 話は変わるが、沖縄タイムスに米国特約記者の平安名純代という記者がいる。以前は琉球新報の特約記者だったが、諸般の事情でライバル紙に移動したわけである。そんなことはどうでもいいが、この平安名記者の記事を愛読する沖縄県民は少なくない。地元ではそれなりの知名度と人気のある特派記者である。その理由は、彼女の記事は出身地である沖縄県民の視点から米国首脳部の中枢部に取材で切り込み、それを記事化して米国から配信してくれるからだ。米国には日本の新聞社や通信社、テレビ局の支局がワシントンやニューヨーク、ロサンゼルスにある。そこから日本の本社に記事を送ったり、解説をまじえたライブ映像を送ったりするが、その視点も内容も驚くほどにパターン化されている。おそらく、米国・ホワイトハウスや霞が関(特に外務省)や官邸の意向にそった内容しか報道しないからだろう。特に、防衛・外交問題に関しては米国政府のスポークマンの役回りしか果たしていない。そう断言しても反論できる特派員はいないはずだ。

 例えば、沖縄の米軍基地問題だ。今、もっとも話題になっている普天間移設にしても、日本の菅政権も外務・防衛省も辺野古新基地建設一辺倒である。むろん、米国の国務省、防衛省も足並みをそろえている。ところが、米国上院議会では、グアム移転も辺野古新基地建設は不可能と見る議員が多数を占めている。特に、これまでのゲーツ国防長官は辺野古新基地一辺倒だったが、CIA長官から国防長官に就任したパネッタ氏は、辺野古新基地建設は無理だと公言している。レビン上院軍事委員長もグアムと辺野古の実現性は悲観的という立場をとってきた。結局、米国の上院議会においては米軍のグアム移転費用は全額削除された。計画自体が「杜撰で曖昧」と判断されたのである。

 いうまでもなく、米国はリーマンショック以降の不況に加えて、イラク、アフガン戦争で軍事費が膨大にふくれあがり、国家財政は赤字で危機状態にある。米国債のトリプルAからの格下げが決まったことでも明らかだろう。米国がグアム移転や辺野古新基地の建設費用を供出すること自体が経済的な合理性を持たないのである。つまり、日本の北沢防衛大臣に代表される辺野古新基地建設派は圧倒的に不利な状況に追い込まれているにもかかわらず、日本のメディアはそのことに対し突込み批判もしないのだ。おそらく、原発と米軍基地は国策だから、霞が関や官邸と歩調を合わせることがメディアの社会的責務だと勘違いしているのではないか。一応、民主主義も言論の自由もあるのに、まさに不思議の国、ニッポンである。

 前置きが長くなったが、平安名記者は、日本の大本営報道みたいな沖縄基地問題に常に風穴をあける報道を続けてきた。その功績は絶大である。現に、平安名記者がこれまでも指摘してきたように、米国上院ではグアム移転費用が全面削除されたことが象徴的である。いわゆる日米安保マフィアと呼ばれる親日家といわれる連中の「日米安保の重要性」や「沖縄海兵隊の抑止力」という決まり文句は、米国議会の中では主流のオピニオンではなかったのだ。平安名記者は米国の政治家やシンクタンク、学者などに独自の人脈をもっているため、常に沖縄問題においても異論が存在することを沖縄に向けて紹介し、発信してきた。

 最近の配信では、「在日米軍基地攻撃を想定 米豪合同演習で初」という記事があった。驚きの内容だ。この7月に、米豪両軍はオーストラリアにおける大規模合同演習において、在日米軍基地が攻撃を受けた場合を想定した訓練を初めて実施したのだという。おそらく、中国、北朝鮮、イスラム過激派あたりを仮想敵にしているのだろうが、在沖海兵隊を含めて米軍側は1万4000人、豪側は8500人が参加したという。むろん、米軍基地がある日本だけではなく、グアムや韓国の米軍基地が襲撃された場合も想定した訓練だったはずだ。こんな事実すらも報道しない日本の大手メディアはまさに体制御用メディアと断じるしかない。原発の大本営報道とまったく同じ構図ではないか。

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政府に都合の悪いことは報道しない、質問しない。
それは果たして「メディア」といえるのか。
岡留さんが名前を挙げている平安名純代記者の記事では、
8月7日付沖縄タイムスに掲載された
こんなニュースも気になります。 「在日米軍 減員の可能性」

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岡留安則さんプロフィール

おかどめ やすのり1972年法政大学卒業後、『マスコミ評論』を創刊し編集長となる。1979年3月、月刊誌『噂の真相』を編集発行人として立ち上げて、スキャンダリズム雑誌として独自の地平を切り開いてメディア界で話題を呼ぶ。数々のスクープを世に問うが、2004年3月の25周年記念を機会に黒字のままに異例の休刊。その後、沖縄に居を移しフリーとなる。主な著書に『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)、『武器としてのスキャンダル』(ちくま文庫)ほか多数。 HP「ポスト・噂の真相」

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