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2010-10-27up

癒しの島・沖縄の深層

オカドメノート No.088

何でも「悪いのは小沢」で片付ける大手メディア

 衆議院北海道5区補欠選挙で自民党の元官房長官などの要職をつとめた町村信孝氏が民主党新人候補に約3万票の差をつけて当選した。菅内閣の改造後初の国政選挙ということもあって、メディアも総力をあげて取材班を現地に投入。NHKも出口調査の結果を加味して早々と「町村当確」を報じた。この選挙戦は、北海道教職員組合から不正な資金提供を受けたとして議員辞職した民主党の小林千代美氏の後任を選ぶ補欠選挙。投票率も昨年夏の衆議院選挙よりも約23%低い53%程度という低調な選挙戦だった。

 町村氏はいわゆる町村派の会長をつとめたこともある自民党の重鎮。前回の衆議院選挙の小選挙区では 小林議員に敗北したものの、比例でかろうじて復活当選した。町村氏にしてみれば、政治家としての名誉をかけたリベンジ総力戦だった。菅総理は遊説にも行かず盛り上がりにかけた民主党陣営や投票率などを考慮すれば、町村勝利は当然の結果だったともいえる。問題は、その選挙戦の総括について全メディアが足並みを揃えたように、「政治とカネ」が敗因と言う分析をやっていたことだ。

 この選挙戦の敗因には小林議員の辞任劇が影響したのも確かだろう。この時期に検察審査会が「小沢氏を起訴すべき」という議決を出したことも影響しているかもしれない。しかし、なぜこのタイミングでの検察審査会の議決発表なのかという検察審査会の不透明な有り様こそ問題にすべきではないのか。しかも、今回の強制起訴でも小沢氏が有罪になる確率はかなり低いというのが司法専門家たちの一致した見方だ。大手メディアはそうした事情は十分に認識しながら、小沢を除名しろ、潰せといわんばかりの偏向報道になぜひた走るのか。小沢嫌いの急先鋒・仙谷官房長官のメディア操作に乗せられているのではないか。起訴されても有罪が確定しない限り推定無罪が大前提である。しかも、この補欠選挙の敗北には尖閣諸島における中国漁船の船長が海上保安庁の巡視船に体当たりした容疑で逮捕された事件の処理を巡る民主党政権の判断ミスや閣僚の独断を見てみぬふりをする菅総理のリーダーシップの不在ぶりは影響していないのか、といった分析も不可欠のはずだ。

 ここ沖縄の地元紙二紙も「菅政権、一層の逆風」「強まる小沢氏喚問要求」といった論調のキャンペーン記事を掲載していた。沖縄の地元紙の政治記事はいずれも共同通信の配信記事を使用しているためだ。そのため補欠選挙翌日の地元二紙は共同通信の偏向した選挙報道をそのまま掲載しつつ、沖縄タイムスには屋良朝博編集委員が米国ジョージワシントン大学マイク・モチヅキ准教授をインタビューして、普天間基地の抑止力に対して明確に疑問を呈している。もう一紙の琉球新報も与那嶺路代ワシントン特派員による「米の軍事費削減 財政難で対日強硬姿勢」という秀逸な報告を掲載している。はっきりといえば、地元紙による基地問題の本質を衝いた記事に比べ、共同通信配信の政治記事は霞ヶ関や自民党の影の応援団みたいな感情的な政局記事なのだ。そのギャップに沖縄の読者たちは戸惑っているはずである。

 先週の日曜日、沖縄マスコミ労協が主催する興味深いシンポジウムが行なわれた。まさに、この問題をテーマにしたシンポジウムだった。テーマは「普天間報道 なぜ違う〈沖縄〉と〈東京〉――現場記者徹底討論」というものだ。パネリストはTBS「報道特集」キャスター・金平茂紀氏、QABのキャスター・三上智恵氏の他、共同通信、朝日新聞、沖縄タイムス、琉球新報の現場記者も参加していた。一番フリーな立場にいる筆者が、地元紙と共同配信の政治記事のギャップを指摘し、地元紙もなるべく独自の米国発や永田町・霞ヶ関発の記事作りを心がけるべきではないかと提言した。共同通信の記事のすべてを批判しているわけではない。外信部や文化部配信記事の中には秀逸な記事があることも確かだ。ところが、政治記事になると、日米両政府の官僚目線に立った旧態依然とした保守的な政局記事が圧倒的に多いのだ。

 その事例として、共同通信編集局長からTBSの「NEWS23」のキャスターに転身した後藤謙次氏の過去を暴露した。安倍晋三総理が誕生した直後、共同通信の幹部だった後藤氏が安倍スキャンダルをもみ消したことがあったからだ。いろいろシガラミがあったのかもしれないが、現場記者が懸命に取材した事実を会社の上層部が政治判断で潰すなどメディアとしてはあってはならないことだろう。かつては自由な社風が売りだった共同通信の保守化が叫ばれて久しいが、少なくとも沖縄県民の目線からいえば共同通信配信の政治記事はかなりのピンボケ論調といわざるを得ないのが実情だ。

 さらに、筆者は前回の民主党代表選において、大手メディアは横並びで菅支持8割、小沢支持2割という世論調査の結果を大々的に報じていた事実を指摘した。民主党代表選なのに、自民党から共産党までの国民的世論調査を振りかざして世論操作するメディアの傲慢さを感じたためだ。沖縄においては辺野古新基地に反対する県民世論は8割が反対なのだから、県民を対象にした世論調査をやれば小沢支持が8割、菅支持が2割と言う逆の数字になった可能性もあるのではないかと挑発的に発言しておいた。沖縄に住んでいると、大手メディアの無神経な沖縄切り捨てや差別の論調がよく見えるのだ。

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一連の検察腐敗報道をリードした「朝日新聞」が、
一方では小沢氏に議員辞職を求めるその姿勢に
違和感を覚える人は多いことでしょう。
検察審査会の結論に多くの専門家が疑問を呈していることや、
推定無罪の原則を考えれば、
少なくとも議員辞職という結論には至らないのではないでしょうか。

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岡留安則さんプロフィール

おかどめ やすのり1972年法政大学卒業後、『マスコミ評論』を創刊し編集長となる。1979年3月、月刊誌『噂の真相』を編集発行人として立ち上げて、スキャンダリズム雑誌として独自の地平を切り開いてメディア界で話題を呼ぶ。数々のスクープを世に問うが、2004年3月の25周年記念を機会に黒字のままに異例の休刊。その後、沖縄に居を移しフリーとなる。主な著書に『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)、『武器としてのスキャンダル』(ちくま文庫)ほか多数。 HP「ポスト・噂の真相」

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