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2010-11-17up

癒しの島・沖縄の深層

オカドメノート No.089

沖縄知事選で政府・民主党が仲井真氏に望みを託す理由

 民主党・菅政権は総理就任後、初の国内開催の国際舞台だったAPEC(アジア太平洋経済協力会議)において、ホスト国の議長としての存在感も精彩も発揮できなかった。オバマ大統領とは1時間の会談が実現したものの、尖閣問題で揺れる中国・胡錦濤国家主席とは直前まで会談が決まらず、実現した会談もわずか22分程度。胡錦濤主席に笑顔は見られなかった。どう見ても、日本政府がメンツを賭けて儀礼的会談にこぎつけたという印象でしかなかった。ロシアのメドベージェフ大統領との会談は40分程度だったが、北方四島返還問題に関しては完全に無視され、逆に経済支援を要請される形となった。尖閣諸島における中国漁船衝突事件の迷走ぶり同様に、菅総理に政治的リーダーシップや外交能力は著しく欠如していることも証明されたともいえる。

 さらに、APECで鮮明になったのが、菅内閣が親米・対米従属路線を打ち出したことだ。特に、菅総理はろくな論議もないままに消費税アップを宣言した「前科」があったように、今回も農業団体を中心に反対意見が強い中で、TPP(環太平洋経済連携協定)参加の方針が米国や日本の大企業・官僚の意向をくみ取る形で唐突に打ち出された。対米関係さえうまくいけば、力関係で対中、対ロ外交は自ずとうまくいくという、これまでの外務・防衛官僚路線と歩調を合わせた米国追従策だ。菅総理は鳩山総理の後任として総理に就任した直後から、辺野古新基地建設を盛り込んだ日米合意を順守するとも宣言している。今回のAPECでも、オバマ大統領との会談で「日米合意実現に向けて努力する」と言及していたが、沖縄県民の7、8割が反対している中で、辺野古新基地をどうやってつくるというのか。

 そんな対米追従路線の菅政権の下で、目下行なわれているのが沖縄県知事選だ。投票日は今月28日なので、あと10日余りの選挙戦だ。全国的ニュースでもある沖縄県知事選挙は、現職の仲井真弘多知事と宜野湾前市長・伊波洋一氏との事実上の一騎打ちだ。今回の知事選における有権者の関心は、地元メディアの世論調査によれば、基地問題と経済問題が飛び抜けているという。仲井真氏は普天間基地の県外移設、伊波氏はグアムへの全面移設を主張している。両候補とも辺野古新基地建設は無視しているために争点なき選挙戦との見方もある。しかし、仲井真氏が「県内移設反対」を明言していないところに懐疑的な見方もある。というのも、普天間問題で豹変した民主党は独自候補を立てられないばかりか、両候補に対する支持も打ち出せない自主投票とした。岡田幹事長は民主党沖縄県連や民主党議員らの応援に対しても厳しい締め付けを行なっている。自主投票といいながら、「伊波候補の応援はまかりならん」という岡田幹事長の発言に政権与党・民主党の本音が垣間見える。

 仮に伊波氏が県知事に当選したら、基地建設反対派の名護市長が誕生し、名護市議選でも反対議員が過半数を制したという、ここまでの状況の中では、辺野古新基地建設は不可能になる。しかし、仲井真氏は前回の県知事選では辺野古新基地建設に条件付きで賛成し、自民・公明の推薦を受けて当選した経緯がある。昨年の衆議院選挙において民主党が政権交代を勝ち取ったことで、沖縄の世論も大きく変わり、仲井真知事も県外移設を主張せざるを得なくなったという事情もある。しかし、いまだに、仲井真氏が「県内移設反対」を明言していないために、政府も民主党も一縷の望みを託しているのだ。辺野古の海を埋め立てて新基地をつくるには、公有水面の埋め立て認可権を持つ県知事の協力が必要なのだ。そのため、政府は陰に陽に沖縄振興策をチラつかせ、官邸による機密費投入も含めて仲井真陣営を舞台裏で支援しているのではないかと見る向きは少なくない。 

 目下のところ、地元メディアの世論調査によれば「仲井真先行 伊波猛追」という状況なのだという。仲井真陣営を支持しているのは、自民党沖縄県連、公明党本部、みんなの党だ。一方の伊波陣営は社民党、社会大衆党、共産党、連合などが支持している。つい最近、国民新党・下地幹郎幹事長が地元政党「そうぞう」とともに伊波支持を表明した。中道・保守派の一部からも支持を受けている下地氏が伊波支持に回ったことで、2、3万票は上積みされるのではないかとの見方もある。しかし、下地氏は鳩山政権誕生直後から、普天間の嘉手納基地統合案やキャンプ・シュワブ陸上案という県内移設を画策してきた議員だ。伊波陣営との主張には開きがあり、どこまで連携した選挙戦が戦えるのか疑問視する向きもある。 

 そして、最大の問題は、民主党沖縄県連の動向だ。政権交代の立役者でもある、瑞慶覧長敏(ずけらん・ちょうびん)衆議院議員と玉城デニー衆議院議員は伊波支持を打ち出している。岡田幹事長に逆らってでも、自分たちを支持してくれた有権者に対する当然の責務があるという認識だ。県連の中でも、喜納昌吉代表、新垣幹事長、上里政調会長は仲井真支持に回るものと見られている。特に、上里氏は仙谷官房長官の秘書を務めたこともあり、その人脈の縛りもある。民主党県連ではいち早く山内末子県議が民主党からの離党を表明し、伊波支持にまわっている。民主党本部の変節で、民主党沖縄県連も分裂含みの選挙戦となった。だが、民主党は、岡田幹事長の恫喝により、公然たる選挙運動はできない条件下にある。自民党は本部と県連では辺野古基地建設に関しては大きなネジレがあるが、すでに三原じゅん子議員や片山さつき議員は仲井真支持の応援で沖縄入りしている。タリバン・岡田の偏狭さよりも自民党の鷹揚さが際立つ。それが選挙の結果に影響するかもしれない。いずれにしても、普天間基地問題の命運を左右する県知事選の結果は沖縄の未来を決定づけることになるはずだ。

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「普天間問題」とは、
突き詰めれば日米安保や国の安全保障に行き着く問題であり、
その決定を左右する沖縄知事選は日本の行く末に関わる大事な選挙です。
たった1年前の「最低でも県外」の約束を忘れ、
独自候補擁立の断念、自主投票、選挙運動の禁止など、
ここでも自主性を発揮できない政府・民主党に対して、
さらに失望の声が広がっています。

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岡留安則さんプロフィール

おかどめ やすのり1972年法政大学卒業後、『マスコミ評論』を創刊し編集長となる。1979年3月、月刊誌『噂の真相』を編集発行人として立ち上げて、スキャンダリズム雑誌として独自の地平を切り開いてメディア界で話題を呼ぶ。数々のスクープを世に問うが、2004年3月の25周年記念を機会に黒字のままに異例の休刊。その後、沖縄に居を移しフリーとなる。主な著書に『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)、『武器としてのスキャンダル』(ちくま文庫)ほか多数。 HP「ポスト・噂の真相」

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