090930up
もりなが・たくろう経済アナリスト/1957年生まれ。東京都出身。東京大学経済学部卒業。日本専売公社、経済企画庁などを経て、現在、独協大学経済学部教授。著書に『年収300万円時代を生き抜く経済学』(光文社)、『年収120万円時代』)(あ・うん)、『年収崩壊』(角川SSC新書)など多数。最新刊『こんなニッポンに誰がした』(大月書店)では、金融資本主義の終焉を予測し新しい社会のグランドデザインを提案している。テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。
9月28日に自民党は谷垣禎一氏を新しい総裁に選出した。谷垣氏は候補者のなかでは最もリベラル派で、小泉内閣の採った格差拡大政策についても行き過ぎを指摘し、国民の立場から世の中をみることの出来る人物的にも優れた人材だ。ただ、谷垣総裁の誕生は、自民党にとって凋落への第一歩になったのではないかと私は見ている。
実は、私が心配していたのは、河野太郎氏が自民党総裁選に勝利することだった。河野氏は、メディアが不利を伝えるなかで、「旧来型の自民党を壊す」と宣言し、「構造改革が中途半端であったことが不況の原因」として構造改革推進を訴えた。それは、8年前の自民党総裁選で小泉純一郎総裁が誕生したときとそっくりだった。当時は、橋本龍太郎氏の勝利が確実とメディアは報じていた。ところが、「自民党をぶっ壊す」と声高に叫び、構造改革を訴えた小泉氏に、まず地方票から支持が広がり、最終的には地滑り的な勝利となった。だから、今回も同じことが起きて、再び構造改革・タカ派に自民党が戻ってしまうのではないかと懸念したのだ。
河野氏の戦略は、自民党が政権に復帰することを考えても、「有効」な戦略だった。社団法人日本経済研究センターが9月9日に発表した世論調査が興味深い結果を示している。この調査でみると、前回の郵政選挙で民主党に投票し、今回の選挙も民主党に投票した人のうち、格差容認派は12.5%しかいなかった。一方、前回も今回も自民党に投票した人のうち31.1%が格差容認派だった。つまり、民主党支持者は平等主義、自民党支持者は競争主義という色分けになっている。ところが、前回自民党に投票し、今回民主党に鞍替えした人のうち28.6%が格差容認派だった。自民党支持者の考え方に近いのだ。つまり、今回の民主党の大勝は、自民党の基本政策に反対して票が民主党に流れたのではなく、自民党の相次ぐ不祥事やふがいなさに、「一度民主党にやらせてみよう」という有権者が大量発生したことが原因だったのだ。
だから、今後万が一、民主党に向けられた国民の高い期待が裏切られたとき、その不満の受け皿になるのは、実は弱肉強食の構造改革論なのだ。つまり、民主党に振れた振り子が、反対側に振れたときには、かつての小泉政権のときよりも、さらに極端な弱肉強食かつタカ派の政策が採られる可能性が非常に高いのだ。
それでは、谷垣新総裁の誕生で、構造改革路線の復活が封じられたのかと言えば、私はそうは思わない。おそらく河野太郎氏は、今後自民党を離れて、第三極を作っていく可能性が高いだろう。そうなると少し時間はかかるかもしれないが、もっと極端な弱肉強食・タカ派の政治集団が出来上がるだろう。その上で、自民党からの脱藩者が続出すれば、民主党に対抗する勢力は、自民党ではなく、新しく生まれる第三極になる。その第三極に政権が移れば、日本の平和は大きく揺さぶられる可能性が高い。十分な注意が必要だろう。
「歴史的大敗」の総選挙から早くも1か月。
動き出す谷垣新体制のもと、自民党はどこへ行くのか?
「コラムリコラム」でも、今後の自民党とその周辺の動きについて書いていますので、
あわせてお読みください。
ご意見募集