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「マガ」と「ジン」のコラムリコラム
第18回:民主党に、「言ったことは守らせる運動」を

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マガ いやはや、それにしても元気のいい内閣です。

ジン ほんとに、これほど出だしから話題を集める内閣も珍しい。というより、日本の政治史上初めてだね。それぞれの閣僚が、ヨーイドンで一斉に駆け出した。大臣たちにも対抗心があって、「他の大臣に遅れてはならじ」と、自分の担当省庁の問題点を洗い出すことに必死になっているようだ。各官庁の官僚たちは休日も返上で、大臣が要求する資料やいままでの経過報告書の作成に汗だくになっているという。

マガ それが当たり前のことだと思うんだけどね。これまでの自民党政権の中でぬるま湯につかって、「大臣なんてお客さん。すぐにいなくなるんだから、適当にあしらっておけばいい」と考えていた官僚たちが慌てるのも無理はない。

ジン 実際、これまでの大臣の在任期間は平均2年ほど。うるさいことを言われたって、しばらく我慢すればいなくなる。それに、ほとんどが担当分野には素人の大臣ばかり。大臣任命後の初の記者会見で、官僚たちが事前に用意したペーパーを読んで、「なにぶんにも初めての分野なので、これからじっくり勉強させてもらいます」なんて言うのが当たり前だった。だいたい、“初めての分野”に大臣を配置するってことがメチャクチャだよね。海千山千の官僚たちにバカにされるのも無理はない。それに比べ、今回はほとんどの閣僚が自前の言葉で会見に応じていた。いつまで続くか分からないけど、それだけでも大変化だよ。

マガ いままでの自民党政府の、閣僚の任命の仕方が間違っていたってことだよね。

ジン 自民党は、間違いだったなんて思っちゃいなかったと思うよ。いままでのやり方が、自民党にとっては当たり前だったんだろうからね。なにしろ、永久政権だと思い込んでいたんだ。「優秀な官僚たちがきちんとサポートしてくれるから、大臣なんて誰がやってもおんなじ。従来と同じ政治をやっていくんだから、官僚に任せておけば大臣なんて誰にでも務まる」。それが自民党政治のあり方だったわけだ。

マガ 官僚たちの掌の上で転がされていたわけだ。

ジン その証拠に、スキャンダルや何かでしょっちゅう大臣が代わったって、何事もなく行政は続いていたじゃないか。

マガ ああ、スキャンダル辞任ね。いくらでも顔が浮かんでくるな。酔っ払い会見、絆創膏大臣、愛人問題、暴言妄言、事務所費問題、政治献金疑惑、金銭トラブル…。小泉、安倍、福田、麻生と続いた内閣で、何人の大臣が途中降板したか、数え切れないほどだものなあ。

ジン 政治家としての資質や経験、識見などには関係なく、所属派閥の力関係や当選回数などで自動的に大臣になっていく。それが自民党の大臣誕生のシステムだったわけだ。「当選回数6~7回ぐらいが大臣適齢期」なんてバカなことまで言われていた。だから、スキャンダルや暴言妄言で、どんどん辞任に追い込まれていったのも、当然といえば当然だよ。資質や教養には関係なしの大臣任命なんだから。

マガ でもさ、今回も、週刊誌などが民主党議員たちのスキャンダル探しに躍起になっているようだけど、大丈夫なのかね、特に新人議員さんたちは。

ジン ああ、かなりいろいろ出てきているみたいだね。ベテランの中でも企業から秘書給与を貰っていた下条みつ議員とか、新人では自己破産していた渡辺義彦議員、それに映画で裸を披露したという議員もいたとかね。でもね、秘書給与や自己破産議員なんて論外だけど、映画出演で脱いだ人がなぜ批判されなければならないの? そんなこと、生き方や仕事に対する考え方の問題。女性だからということで批判されているとしたら、それこそ批判したメディアがとんでもない時代遅れだ。犯罪や道義的に疚しいことをしたわけじゃないのに、批判する側がおかしいよ。

マガ ま、つまらないことで足を引っ張られないように、注意は必要だろうけどね。それよりも、閣僚間の意見不一致がかなり起きているようだけど。

ジン 当然それは出てくるだろうな。菅直人国家戦略局担当相と藤井裕久財務相の、予算編成権をめぐる対立が、いちばん深刻かもしれない。なにしろ、これは国家の方向をどう決めるかに関する問題だからね。それに、亀井静香金融担当相の債務返済猶予(モラトリアム)案。これは、経済運営そのものに関わる政策だから、藤井財務相や平野官房長官も巻き込んでの、かなりシビアな議論になるだろうな。でもそれらは、鳩山首相がきちんと方向性を示せば収まるはず。鳩山首相の力量が問われることになる。

マガ しかし、民主党がこれまで主張してきた政策を変更しかねない動きも見えるじゃないか。北沢俊美防衛相は沖縄の米軍基地視察を行った9月26日に、記者会見で「宜野湾市にある普天間基地の県外移設は極めて難しい」と述べた。これは、民主党がこれまで掲げてきた「普天間基地は原則海外移設、少なくとも沖縄県外への移設」という方向性とまったく矛盾するよ。

ジン そうだね。北沢防衛相は「県外移設の努力を否定するわけではない。その点については、鳩山首相と慎重に協議する」と含みを持たせているけれど、結局、名護市の辺野古地区への移設という言外の意味が見え隠れしている。これでは、今回の選挙で「県内移設賛成」の自民党候補を全員落選させた沖縄県民の民意を踏みにじることにもなりかねない。

マガ やっぱり「アメリカと約束したことだから、覆すわけにはいかない」ということなの?

ジン そう言っている人は多いよね。つまり、“外交政策の継続性”という理屈だ。テレビ討論の中でも、例えば世耕弘成自民党参院議員などは「国家間の約束を守れないようでは、政治そのものが疑われる。普天間基地は、アメリカとの約束どおり辺野古へ移設すべきだ」と、相も変らぬ主張を繰り返していたね。でもさ、これってかなり不思議な議論だと思わないか?

マガ 不思議な議論?

ジン 旧政権がした約束を、絶対に変えていけないというのであれば、では政権交代とは一体なんだったのか。これまでの政策を変えて欲しいという国民の意志の表れが政権交代なのに、それを実現できないのであれば選挙なんて無意味だということになる。もちろん、一方的に破棄するわけにはいかないけど、民意に添った新政権の意志として、相手国に再考を促すことが、なぜいけないのか。それこそが外交というものじゃないか。

マガ なるほど。世耕議員の主張どおりであれば、例えば軍事独裁政権と交わした約束も、ずっと守り続けなければならないことになり、独裁政権が崩壊してもそれは生き続ける、という理屈になってしまうね。

ジン そこがおかしいんだ。しかも今回は、アメリカの政権だって交代したばかり。オバマ大統領は、前ブッシュ政権の政策を次々と変更している。ブッシュ共和党政権と自民党政権が交わした約束を、後生大事に守り続けるほうが、むしろヘンなんだよ。新しい政権同士、新しい関係を結ぶほうが自然だろう。

マガ 自民党政府と外務省がひたすら隠し続けてきた「核密約問題」だって、政権交代が実現したから明るみに出されようとしているわけだしね。

ジン とにかく日本政治は、「一度決めたら、何があっても変更は行わない」という悪しき官僚的思考が強すぎるんだ。その考え方が、官僚に政策を任せっぱなしにしてきた自民党議員からは、まだ抜けきっていない。世耕議員なんてその典型じゃないか。ダム行政だって、治水か利水かという当初の目的が二転三転しても、“造る”という決定だけは覆らない。それが今回の八ッ場ダムに象徴される大騒動なんだと思う。

マガ 地元住民の苦しみなんか無視して、とにかく一度決めたダム計画は何が何でも押し通す。

ジン 民主党は、そんな今までの自民党政権のあり方を批判して、政権交代を実現させた。民主党のマニフェストは、これまで自民党が行ってきた政治を転換させるという主張だったはず。そしてそれを、国民が支持したというのが、選挙結果だったわけだ。ならば鳩山首相には、ブレることなく、マニフェストの意味を噛みしめ直してほしい。

マガ そうだよね。国連などの外交デビューを無難にこなしたわけだから。

ジン 温暖化ガス削減目標でも、あれほど大見得を切ったわけだから、言ったこととやることがブレたら、支持率なんかあっという間に急降下するよ。そのいい例が、安倍、福田、麻生と3代も続いたんだから、鳩山首相もその辺は十分に分かった上での演説だったと思うけどね。

マガ でもさ、これほど日本のメディアが絶賛した日本の首相の国連演説というのも空前絶後じゃないか。あの「民主党さんの勝手にはさせないぜ宣言」をした産経新聞ですら、あからさまな批判は避けていたほどだもの。

ジン ま、そこがメディアの“必殺てのひら返し”(笑)。この先、どこまで続くかね。もっとも、権力の監視役がメディアなんだから、遠慮せずに、悪いところはビシバシ批判していくという姿勢は失わないで欲しいけど。

マガ すでに各メディアでは、民主党批判はずいぶん出てきている。でもね、僕は「ちょっと待て。批判より先にやることがある」と言いたい。

ジン ほう、どんなこと?

マガ うん、『民主党に、言ったことは守らせる運動』。

ジン おお、それはいい。「公約の一つや二つ、守れなくても大したことじゃない」と開き直った自民党の対極を行け、ということね。

マガ もちろん僕だって、民主党のこれまでの主張が、すぐに実現できるなんて思っちゃいない。中には、納得いかない主張だってあるからね。でもせめて、

◎マニフェストに掲げた政策の優先順位をどう付けるか
◎なぜいま、その政策を遂行しなければならないのか
◎すぐには実現不可能ならば、いつまでに実行するのか
◎不可能の原因はどこにあるのか
◎これまでの自公政権の政策のどれを転換するのか
◎政策転換せざるを得ないのであれば、その理由を
◎その際の責任は、誰がどう取るのか
◎約束したことの検証を、外部委員会にさせる意志はあるか

このくらいのことを明らかにさせる必要があると思う。それをしっかり監視する運動だね。そうすれば、必然的に民主党だって情報公開をいま以上に熱心にやらざるを得ない。

ジン それ、いいアイデアだと思う。この欄でも、できるだけきちんと監視して、情報を集めることにしよう。民主党マニフェストも手元にあることだしね。

淋しき自民党の行く末は?

マガ このところのテレビニュース、ワイドショー、新聞の一面トップ、週刊誌の特集記事、これらすべてが政治記事で埋め尽くされているね。こんなこともかなり珍しい。

ジン ところが、やけに小さな扱いの政治ニュースもある。

マガ ああ、自民党の総裁選挙ね。

ジン なんとも盛り上がりに欠けていた。自民党も後がない、って感じだね。事前に名前が挙がっていた人たちは、みんな逃げ出しちゃったし。まるで、難破船のネズミだ。

マガ 突然、西村康稔前外務政務官なんて、ほとんど名前も知らなかったような人が出てくるしね。でもこの西村さん、河野太郎候補潰しだと噂されてたね。相変わらずの派閥の論理か。

ジン 前にもここで話したけど、自民党の2極分化の兆しが見え始めているということだと思うよ。ま、谷垣禎一さんと河野太郎さんは政治思想的にはややリベラル志向。それに対し、西村さんはそうとうに右寄りだ。何しろ尊敬する政治家が岸信介だというから、安倍晋三元首相の系譜を継ぐ信条の持ち主だろう。

マガ それで、河野さんと連携できなかったわけだ、同じ若手同士なのに。

ジン 西村さんは郵政改革をめぐって自民党を離党した平沼赳夫議員に近いとも言われている。平沼グループと結んでの政界再編も視野に入れているという情報もある。平沼さんも筋金入りの右派だから、自民党内での右派対リベラルの分化現象が見え始めた、というジャーナリストもいるんだ。自民党が、右派色の強い少数政党とリベラルな保守政党とに分裂していく最初の兆候じゃないか、というわけだね。

マガ 平沼グループには、あの片山さつきさんを破って雪辱当選を果たした城内実議員もいるよね。

ジン その辺も含めて、政界再編の流れはこれから加速するだろうね。自民党総裁選の結果がそれに拍車をかける。

マガ 自民党総裁選は、谷垣さんの圧倒的な勝利に終わった。全499票のうち、谷垣300票、河野144票、西村54票、無効票1という結果だった。

ジン その中で注目すべきは、議員票199票のうち、谷垣120票、河野35票、西村43票という結果だ。現職自民党議員は、河野さんよりも西村さん支持が多かったわけだ。議員以外の地方一般党員の投票結果(谷垣180票、河野109票、西村11票)とはまったく違う。これは「若手に入れたければ河野ではなく西村に投票しろ」という派閥領袖クラスによる議員たちへの圧力が凄まじかったことを示している。

マガ 河野さんは、森喜朗、青木幹雄、町村信孝などの古手実力者を、名指しで批判していたからな。

ジン 河野さんはもう、自民党を離党せざるを得なくなるだろうと言われている。実際、町村さんは総裁選の演説会場で、河野さんの握手さえ拒み、「人の悪口言うのもいい加減にしろよ」と不愉快そうに吐き捨てていたしね。谷垣新総裁は、しきりに“全員野球”を標榜しているけど、領袖たちの河野アレルギーは強烈だ。谷垣総裁も河野さんを党の要職に登用することは、事実上、できないんじゃないかな。

マガ それじゃ、河野さんが仲間を連れて離党する?

ジン いや、そんな仲間がいるかどうか…。とにかく、来年の参院選の結果いかんでは、自民党生き残り策をめぐって、河野さん、みんなの党、平沼グループまで巻き込んで、再編騒ぎが起きるかもしれない。

マガ それに、民主党の一部も巻き込まれる?

ジン いや、権力の求心力は比べるものがないほど強い。民主党が参院選でも勝てば、分裂なんか起きないよ、しばらくはね。

マガ 自民党周辺だけの政界再編か。そうすると、自民党がグチャグチャになって、民主党一党独裁なんて悪夢も…。

ジン そうさせないためにも、連立を組んだ社民党や国民新党、それに“確かな野党を目指す”という共産党など少数党の奮起が必要なんだけどね。

(放光院+α)

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