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2013-01-23up

雨宮処凛がゆく!

第252回

「子どもの貧困」が深刻化する予感。の巻

 新年そうそう連載を休ませて頂き、今年初めての原稿である。

 ということで、遅ればせながら、今年もひとつよろしくお願いしたい。

 で、なんで連載を休んだかというと、仕事絡みでちょっと海外に行っていたからなのだが、帰国そうそう、トンデモない事態が進んでいる。

 それはこの連載でもずーっと触れてきた「生活保護引き下げ」問題。1月18日、厚生労働省の社会保障審議会・生活保護基準部会が報告書をとりまとめ、来年度の予算編成に向けて保護基準引き下げの動きが加速しまくっているのだ。

 選挙前からとにかく「生活保護」を目の敵にし、「自助」を強調した上で公約に「支給水準の10%カット」を掲げていた自民党。そんな自民党が政権についてからわずか1ヶ月という早さでの「最後のセーフティネット」切り崩しの動き。ちなみに、引き下げの「根拠」のひとつとなる調査データが発表されたのは1月16日。そのわずか2日後に報告書がとりまとめられるとは、最初から「引き下げありき」だったようにしか思えないではないか。

 が、田村厚生労働大臣は引き下げを明言し、慎重姿勢だった公明党の石井政調会長も引き下げ容認の考えを示している。このままいけば、本当にこの国の底が抜けるような事態が始まってしまう。

 問題点はいくつもある。

 まず、ざっくり言うと、今回の引き下げの根拠は、「下位10%の一般低所得世帯」と生活保護世帯の比較をした上で、「生活保護の方が高い」というものだ。

 しかし、大前提として、「捕捉率が低い」という視点が抜け落ちている。生活保護を受けられるべき人が受けられている率を示す捕捉率は、この国ではわずか2〜3割。必要な人の2〜3割しか受けられていないという状況で、「低所得の人」と生活保護受給者を比較すること自体にそもそも無理があるのではないか。海外と比較すると、フランスは9割以上、スウェーデンは8割以上、ドイツも6割以上の捕捉率である。先進国の中でも極端に低い捕捉率の日本で、下位10%と比較することの正当性があるようには思えない。

 また、今回の引き下げで特に懸念しているのは、「子どものいる夫婦世帯」や「母子世帯」の引き下げが示唆されていることだ。

 「子どもの貧困」は長らく問題視され、生活保護世帯の子どもが進学できなかったり、それが理由で非正規雇用にしかつけなかったりする実態を受け、「貧困の連鎖」を断ち切ることについては社会的な合意が作られてきたと思っている。が、それを全否定するような流れ。

 生活保護基準が引き下げられることによって、貧困状態に置かれた子どもが被る不利益はそれだけではない。就学援助が打ち切られる可能性もあるのだ。

 就学援助とは、経済的な理由によって就学が困難な子どもに諸経費が援助される制度。修学旅行費や給食費、通学費、学用品購入などのための経費が支給される。現在、これを利用しているのは公立学校に通う児童で約150万人(全体の15%)。

 なぜ、生活保護引き下げが就学援助と関係あるのかと言えば、就学援助の支給基準は、生活保護をもとに決められているからである。基準が下がれば、援助の対象とならない子どもたちが生み出される。経済的な理由で修学旅行に行けなかったり、学用品を揃えられない子どもたちが出てくる。「教育を受ける権利」が思い切り侵害される。それだけではない。国民健康保険の保険料の免除基準や非課税基準にもかかわってくる。また、当然最低賃金にも影響を与える。「最低賃金で働いても生活保護基準以下」ということが保護基準引き下げのひとつの理由とされているが、そこで最低賃金が上がるのではなく生活保護引き下げとなれば、最低賃金が上がる根拠がなくなってしまう。いわば、「どん底」に向けての悪循環が、更に加速してしまうのだ。

 そんな中で、安倍政権は2%物価を上げると明言している。これでは、本気で生活できない人が更に増えてしまうことは目に見えている。ちなみに引き下げの理由としてよく「不正受給」が言われるが、ここでも何度も触れているように、不正受給は額にして0.4%。もちろん、あってはいけないことだが、1%以下を根拠に全体の引き下げが語られるのは明らかにおかしい。

 この流れを受けて、「STOP! 生活保護基準引き下げ」というアクションが始まっている。22日には、厚生労働大臣と与党に要請書を提出する予定だ。

 弱者を切り捨てる自民党には、生まれながらに「恵まれた」人が多い。だからなのか、「貧しい人」に対しての差別的な視点を常に感じる。が、非正規雇用者を増やし、様々なセーフティネットを切り崩してきたのは自民党である。現在の貧困に対して大きな責任があるにもかかわらず、更に弱者を切り捨てようとする動きを、とにかく阻止したいと思っている。

最新刊『14歳からわかる生活保護』では、受給者の実態や海外の制度との比較、生活保護を受けられなくての餓死事件などを取材しました。ぜひ、多くの人に読んで頂き、今何が起きているのかを知ってほしいです。

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以前、稲葉剛さんのインタビューなどでも指摘されていましたが、
生活保護基準とはつまり、
国が国民に保障する最低限度の生活水準、でもあります。
十分な議論もなしにそれが引き下げられるとしたら。
これは、いま保護を受けている人だけの問題ではありません。

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雨宮処凛さんプロフィール

あまみや・かりん1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮処凛のどぶさらい日記」

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