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2011-09-28up

雨宮処凛がゆく!

第204回

「東京に原発を!」デモ。の巻

デモを主催したアンジェロさんと。

 9月25日、都内で「東京に原発を!」と題されたデモが開催され、私も駆けつけた。

 主催したのは、イタリアの社会学者、アンジェロ・デローザさん。「東京に原発を!」。ドキッとするタイトルのデモだが、これは「そんなに安全と言うなら東京に原発を作れ」という最大限の皮肉を込めたタイトルだ。しかもこの日のデモに参加するにあたって呼びかけられたのは、3・11以降に様々な専門家や学者から発されたトンデモ発言をプラカードに書いて持参すること。例えば「放射能は身体にいい」とか「プルトニウムは飲んでも安心」といった発言だ。そしてデモ当日は、この言葉を「信じたフリ」をして「安全だから東京に原発を!」という声を上げよう、という主旨なのである。

 ということで午後2時、集合場所に駆けつけると、素晴らしいプラカードたちが。

ご存知、山下さんのプラカード。

 「放射能の影響はニコニコ笑っている人には来ません、クヨクヨしている人に来ます 山下俊一(朝日がん大賞を受賞した福島県放射線健康リスク管理アドバイザー)」

 「事故の可能性を考えたら何も造れません。だから割り切るんです 班目春樹(原子力安全委員会委員長)」

 「千年に一度の津波に耐えた原子力は素晴らしい。原子力に自信を持つべきだ 米倉弘昌(経団連会長)」

 「低線量率では、持病がある人は改善される 稲恭宏(東大医学博士)」

 「東京湾に作ったっていいくらい日本の原発は安全だ 石原慎太郎(東京都知事)」

 などなどの言葉が本人の顔写真とともにプラカードになっている。

プラカードには英語版もあります。

 そうしてデモ前には、イタリア人のオペラ歌手がタイマーズの「原発音頭」を熱唱。みんなも一緒に歌いだし、辺りには「原発賛成!」の歌声が響きわたる。主催のアンジェロさんは「オリンピックよりも東京に原発を」とマイクでアピールし、その理由を「オリンピックは一週間くらいで終わるけど放射能の影響は一生だから」と力説。

 そうして午後2時半、デモ隊は手に手にトンデモ発言のプラカードを持ち、「信じる者は救われる!」という史上初のシュプレヒコールを上げながらデモに出発!

デモには子どもも参加。

 この日のデモは3・11以降、私にとって12回目のデモとなるわけだが、面白かったのは沿道の反応だ。「東京に原発を」というコールにぎょっとした顔で振り向く人、立ち止まり、プラカードのトンデモ発言を最初は訝しげな顔で読みつつ、途中で噴き出す人。やっぱりみんな、トンデモ発言の数々について当然知っていて、おかしいと思っているのだ。これは完全にアンジェロさんの作戦勝ちだろう。アンジェロさんによると、3・11以降、日本国内だけでなんと1500回以上の「脱原発デモ」が開催されているのだという。しかし、事故直後は拍手喝采を浴びたデモも、事故から時間が経つにつれ、沿道の関心が薄れていることをひしひしと感じる。そんな中、あえてブチ上げた「東京に原発を」デモ。

 そうしてデモ隊は銀座で、新橋で叫び続けた。さぁ、みなさんもリズムに乗ってご一緒に♪

 「東京に原発を♪」「事故が起きても大丈夫♪」「細かいことは気にしない♪」「爆発しても大丈夫♪」「地震が起きても大丈夫♪」「津波が来ても大丈夫♪」「プルトニウム飲んでも大丈夫♪」「セシウム食べても大丈夫♪」「東電本社に原発を♪」

 デモ後、新橋のSL広場で様々な人がアピールし、そこでアンジェロさんは言った。

 「もしまた原発事故が起きたら自分は逃げる場所があるけど、日本の人たちはどうするの? どこに逃げるの?」

 今、この国に住むすべての人は原発事故の被害者でもあるものの、外国から見れば放射能を海や空に垂れ流し続ける日本は紛れもなく加害者だ。そしてこの国に住む私たちが変えようという意志を持たない限り、現実は決して変わらない。しかも野田首相は、今も事故が続いているというのに来年夏に向けた再稼働を明言。理由はやはり「日本経済」のため。経済って、命よりも大切なことだったっけ?

 しかしこの日、日本やフランスやイタリアの人たちが一緒になって「東京に原発を!」と声を上げたのだ。イタリア人であるアンジェロさんは、外国である日本で今回初めてデモ申請をし、様々な交渉を重ねてきたという。もし、私がどこかの国に住んでいたら、その国の問題をなんとかするためにわざわざデモを主催しようと思うだろうか? きっと手続きも面倒だし、わからないことがたくさんある。それなのに、こうしてデモを主催してくれたイタリア人の人がいるということに、心から感謝している。そんなイタリアではご存知の通り今年6月、原発再開を巡る国民投票で90%が脱原発を選択したという事実がある。様々な国の人が、自分の近い未来に理想を描き、当たり前に意思表示し、変えているということもまた現実なのだ。

 とにかくこの日、私はまたひとつ勇気を貰った。

 そしてこのブラックジョーク的デモのテクニックを、どんどんパクらせて頂こうと決意を新たにしたのだった。

素晴らしいセンス!

※9月11日のデモで逮捕された12人ですが、9月22日、まだ勾留されていた5人も釈放され、これで全員が出てきました! ひとまず、よかった!! カンパしてくれた皆さん、支援・応援して下さった皆さん、本当にありがとうございました! この件については、「デモと広場のための共同声明」という取り組みを行います。詳しくはこちらで。

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なんとも痛快、見習いたいこのセンス。
当日の写真は、こちらなどでも見られます。
アンジェロさんに負けず、私たちも行動を! というわけで、
「こんなデモやるぞ!」と思いついたあなたは、こちらに情報をお寄せください。

ご意見・ご感想をお寄せください。

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雨宮処凛さんプロフィール

あまみや・かりん1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮処凛のどぶさらい日記」

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