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この人に聞きたい
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きくちゆみさんに聞いたその1

アメリカの戦争をやめさせるために、私たちができること

マスコミ、債権ディーラーを経て、現在は千葉県鴨川市の山間地で自給自足的な生活をしながら
環境活動や平和運動を展開している、きくちゆみさん。その活動の中身や、
債権ディーラー、環境活動の経験をもとにした具体的な提言、
そして9条が60年間果たしてきた役割について語っていただきました!

nakagawaさん
きくち ゆみ
グローバルピースキャンペーン発起人。東京生まれの東京育ち。
大学卒業後、雑誌ライター、テレビのレポーターを経て外資系銀行で債権ディーラーに。
その後、環境問題の深刻さに気づき、'90年より環境運動をライフワークとする。
'98年より千葉県鴨川市にある築200年の民家に移り住み、
自給自足的な暮らしをしながら執筆や講演活動を続けている。
きくちゆみのブログとポッドキャストhttp://kikuchiyumi.blogspot.com/
ひとりのベトナム帰還兵がブッシュ大統領に宛てた一通の手紙をきっかけに
編集部

  きくちさんは、外資系の銀行でキャリアウーマンとして働いていた時代から一転、環境活動に心血を注ぎ、さらに2001年からは「グローバルピースキャンペーン」という運動を始められましたね。

きくち

  '90年から環境運動を続けてきましたが、平和運動をやりはじめたのは2001年9月11日の同時多発テロ事件がきっかけでした。私は28歳まで、外資系の銀行で債権ディーラーという仕事をしていました。朝から晩まで1本10億円という債権を売買して、利ざやを稼ぐ仕事です。

  当時の私は経済的に成功することが人生の目標で、お金があれば幸せになれるはずだと思っていました。だから世界の金融の中心地ニューヨークにそびえ立つ世界貿易センタービル(WTC)は、私にとってあこがれの場所だったのです。

  そんな私の価値観が変化したのは、銀行に勤めていた80年代末、中米のベリーズに旅行に行ったことがきっかけとなりました。そこで、ゆたかなマングローブの林がどんどん切られ、動物が住む場所を失っている現実にショックを受けた私は、日本に帰ってから、現地の自然保護区の保全基金を設立しました。やがて環境を守る仕事がしたいと思うようになり、会社を辞めて本格的に環境活動にかかわるようになりました。

  9・11事件が起きたとき、アメリカはすぐに報復を始めると思いました。私はそんなアメリカを見て「テロに対して戦争をしたところで何の解決にもならない」と強く思い、アメリカやイギリスの友人に、何か他の解決方法はないだろうかとメールを送ったのです。
  するとある人が、ひとりのベトナム帰還兵がブッシュ大統領に送った手紙を転送してくれました。その中身は「アメリカがもし、戦争で一人でも無実の人を殺したら、アメリカこそがテロリストになるのだ。」というものでした。
  さっそく友人たちにこの手紙を転送すると、「このメッセージを新聞に意見広告として出してはどうか」という反響が多く寄せられました。そこで、アメリカで一番影響力のある「ニューヨークタイムズ」に出そう、ということになったのですが、一面広告の費用はなんと14万ドル、日本円で約1,700万円。とてもそんなお金を工面することなどできない、と一度はあきらめかけました。しかし、日本の友人100人ほどにメールで呼びかけたところ、みんなが協力してさらにネットで呼びかけをしてくれ、わずか2週間で目標額が集まったのです。それが「グローバルピースキャンペーン」(GPC)という活動の誕生でした。
  このキャンペーンでは世界16カ国で呼びかけましたが、カンパの9割は日本で集まりました。日本人はデモなどに積極的に参加する人は少ないと思ってきましたが、実はみんな心の中で平和を望んでいるんだ、と実感しました。

編集部

  意見広告を出した後、どんな反響があったのでしょうか。

きくち

  いよいよ意見広告を出そうと広告に空きが出るのを待っていた10月7日、アメリカはアフガニスタンへの攻撃を開始したのです。広告が掲載できたのは奇しくもその2日後。悔しくて悔しくて涙が出ました。
  でも、「戦争反対」などと言ったら袋だたきに遭いかねなかった当時のアメリカで平和を訴えたことは、大きな意義があったと思っています。実はこの意見広告を出すために、私たちは「ベテランズ・フォー・ピース」というアメリカの平和のための退役軍人会に広告主になってもらい、実際の広告費用は私たちが出すという形をとっていました。広告を出すにはアメリカにオフィスがなければならなかったからです。
  「ベテランズ・フォー・ピース」は、戦地で実際に戦った人たちの平和団体で、入会者は退役軍人のわずか1%程度でした。ほとんどの退役軍人は、愛国主義的な軍人会に入っていたのです。しかし広告が掲載された後、入会者が一気に4倍になったそうです。
  「テロは許さない」と戦争に突き進んでいた当時のアメリカで、平和を訴えるのはとても勇気が要ったはず。日本人の平和を望む声が、アメリカ人の心を動かすことができたのです。
  GPCの意見広告は1回だけの予定でしたが、その後もカンパが集まり続け、2回目はロサンゼルスタイムス、3回目はワシントンポスト、そして最後にふたたびニューヨークタイムズに広告を出すことができました。

  小泉さんがアメリカを後押しするのを阻止することももちろん大事だけ れども、それ以上に重要なのが、アメリカの世論を変えることです。アメリカの戦争を止めるにはやはり、アメリカの世論を動かさなければ。

私たちの預金がアメリカの戦争を支援する!?
編集部

  私たちがアメリカに対して、すぐにできる直接的なアクションはあるでしょうか。

きくち

  とても簡単な方法があります。それは、お金の預け先を変えること。アメリカは、国家予算のうち自由に使える予算の半分を軍事費に充てています。税収だけでは国家予算をとてもまかないきれないので、国債を発行して戦争を続けているのです。その米国債を、日本では今、80兆円も買っています。つまり、米国債を買うことでアメリカの戦争にお金を出しているのです。
  アメリカの戦争に加担しないためにはまず、米国債を買っているところにお金を預けるのをやめること。たとえば、ユーロ債やニュージーランド債なら戦争にお金は流れませんし、市民バンク
(※)もおすすめです。
  市民バンクの存在はまだほとんど知られていませんが、日本中のあちこ ちにあります。
  もしも住んでいる地域に市民バンクがなかったら、自分たちで作ること もできます。そしてそこから自分たちに本当に必要な事業を起こせばいい。

※市民から出資金を募り、福祉や健康、教育、環境保護などの地域の社会性のある事業に融資をする組合組織

  さらに私は、「自然エネルギー市民ファンド」
(※)という組織への投資を、多くの人に呼びかけています。このファンドは、太陽光や風力、バイオマスなど、その地域に合った自然エネルギー事業を興すことを目的としています。
  もちろん投資なので損をする可能性もありますが、これまでのところ、年に2〜3%の配当実績があります。今の時代、銀行に預けても限りなくゼロに近い利息しかつかないのに比べたら、かなり優秀だと思います。

 
 ※2003年2月に、有限責任中間法人自然エネルギー市民基金によって設立された。
http://www.greenfund.jp


  アメリカがしている戦争は、石油や天然ガスなどのエネルギーを自分たちの手中に収めるのが大きな目的のひとつと言っても過言ではありません。
  日本もエネルギー資源の99%を海外に頼っています。日本を含め、多くの国が自然エネルギーで自立することができたら、多くの戦争はなくすこができるのではないでしょうか。

郵政民営化の本当の目的とは
編集部

  ところで、昨年、郵政民営化法案が通りましたが、きくちさんは郵政民営化に反対していましたね。民営化でこれからどんなことが起こるでしょうか。

きくち

  郵政公社には、私たち庶民がコツコツ貯めた郵便貯金と簡易保険、合わせて340兆円ものお金が預けられています。今はその多くが財政投融資に使われ、お金は国内で回っていますが、民営化によってこの巨額のお金はどこへ行くでしょうか。小泉さんは「民営化によって日本の経済が活性化する」と言いますが、民営化すると、市場の原理でいちばん儲かるところに投資されるようになりますね。ところが日本には今、340兆円ものお金を投資できる先はありません。ですから、投資先は必然的に利回りのよい米国債になるのではないかしら。
  去年の選挙では、郵政民営化のこのような側面はほとんど伝えられませんでした。このようなことがもっと報道されていたら、選挙はもっと違った結果になっていたと思います。

恐怖心は武力では取りのぞけない
きくち

  アメリカはずっと、日本郵政公社が持っている340兆円を狙ってきました。アメリカ最大手の経済新聞「ウォールストリートジャーナル」は、郵政民営化法案が否決されたときに、「小泉首相は必ずこの法案を通してくれる。今回の否決は、我々の手取りがちょっと先に延びただけだ」と書いています。

  私は、郵政民営化法案が通ったことで、日本はますますアメリカにとって都合のよい国になるのではないかと危惧しています。アメリカに追従するということは、全世界から恨みを買い、テロの対象になるということです。改憲を主張する人は「日本がこれまで60年間、テロの対象になっていなかったのは日米安保のおかげだ」というけれども、私は憲法9条があったからこそだと思っています。
  私自身、アメリカ自体が嫌いなわけではありません。大好きなところはたくさんありますし、アメリカとの付き合いも大切だと思う。でも、アメリカの暴力外交に日本は加担すべきではない。

  日本が今この瞬間、軍事力に頼らずにできることはたくさんあります。国際貢献にしても、軍隊ではなく医療支援や教育援助など、現地の人々が本当に必要なことをするほうが日本の株があがりますし、日本の国益にもかなうのではないでしょうか。
  9条改定を主張する側は、できることもせずに恐怖心だけをあおっています。しかし、武力だけで恐怖心を取りのぞくことはできないのだ、ということを、まずわかってほしいと思います。

つづく・・・

メディアにほとんど取り上げられない情報にこそ、
私たちは敏感になる必要があると、きくちさんは教えてくれました。
次回は、きくちさんがアメリカを変えることができると確信した、
ひとりの下院議員との出会いや、これから展開しようとしている
大きな取り組みについて伺います。
お楽しみに!

ご意見募集!

ぜひ、ご意見、ご感想をお寄せください。

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