知れば知るほど不可解な、米軍に対しての日本の莫大な費用負担。
米軍再編は、アメリカの都合で、アメリカの戦略で行うことなのに、
なぜ、日本がこれほどまでに、振り回され、税金をもっていかれなくてはならないのか?
防衛省や自衛隊の取材現場より、半田滋さんにお聞きしました。
半田滋(はんだ・しげる)1955年栃木生まれ。東京新聞編集局社会部勤務。1992年より現在にいたるまで防衛庁/防衛省の取材を担当。業界においても異例なほどの長期にわたり、自衛隊を見続けてきた。米国、ロシア、韓国、カンボジア、イラクなど海外における自衛隊の活動も、現地にて豊富に取材。昨年、自衛隊の海外活動を描いた東京新聞紙上の連載「新防人考」で「第13回平和・協同ジャーナリスト基金大賞」を受賞。著書に『自衛隊VS北朝鮮』(新潮新書)、『闘えない軍隊』(講談社+α新書)がある。
米軍再編による在日米軍の移転費用については、日本側の負担比率が高いと伝えられていますが、米軍再編にはいったいどのぐらいの費用がかかるのでしょうか? 税金を使うわけですから、国民として最も気になります。
米軍再編にかかる日本負担の費用は約3兆円と言われていますが、その根拠はリチャード・ローレス国防副次官がアメリカで行われた記者会見で話したことによるものです。が、それは米軍再編のためにアメリカが巨額な支出をするのでは? という懸念に対して持ち出された金額。つまり日本の負担が3兆円もあることを示すことによって、アメリカの負担はそれほどでもないということを、アメリカ国民に強調するための数字として表に出たものでした。その3兆円という数字にたいして、当時の事務次官だった守屋武昌被告(収賄罪で起訴、公判中)は、「そんなには、かからない。2兆円ぐらいだろう」と答えています。
沖縄県の嘉手納基地、普天間飛行場、キャンプ・ハンセン、キャンプ・ シュワブ、そして岩国基地、厚木基地、キャンプ座間、横田基地、三沢基地、など、日本全国にある在日米軍基地の移転や分散、設置が進められているわけですが、個別の額はどのように見積もられているのでしょうか?
これまで個別の費用が示されたことはありません。ただ、沖縄県の第3海兵遠征軍がグアムに移転する費用に関しては約102億ドルという数字が出ています。今のレートでは1兆1千億円以上になりますね。その費用の内訳は、例えばグアム島につくる米軍住宅一戸あたり5、6千万円掛かるということですが、グアムでその金額の家だとプール付きの豪邸ということになる。そんな経費は本当に必要なのか? それでは日本側の負担も大きくなりすぎると野党が国会で追求したので、この問題がクローズアップされましたが、アメリカ側は今になって「(102億ドルの)数字は控えめだった、もっと掛かるだろう」と言い直している。
そのグアム移転費用に関する日米の負担割合は、日本側が59%の約60億ドルになります。最初アメリカは75%が日本負担と言っていたので、日本政府としては外交努力の成果で減らせたとしています。でも中身を見てみると、アメリカ側の負担額に、現在既にグアムにある基地同士をつなぐ高規格道路をつくるための10億ドルが入っていた。つまり米軍再編と全く関係ない費用が計上されていたのです。その10億ドルを除くと日本負担は66%となりますから、当初アメリカが主張した75%に限りなく近くなります。しかし、この見積もりも本当に適正かどうか、未だよく分からない状態です。
緻密な計算による見積もりが積み重なっての金額ではなく、どんぶり勘定のような適当な見積もりが重なって、そんな莫大な金額になっているとしたら・・・、なんとも納得できませんね。日本国内における基地の移転については、どのような費用負担で、日米の割合はどうなっているのでしょうか?
グアムはアメリカの準州だからグアムへの移転は日米双方の負担になりますが、在日米軍基地の日本国内における移転費用はすべて日本負担ということで合意がされています。そしてかなりの費用がかかると思われます。例えば普天間移設先の名護市の代替基地は、騒音や墜落の危険などを防ぐために滑走路はV字型にして沖合工事をするよう沖縄県が要求していますが、現在、同じく滑走路の沖合工事が進められている山口県の岩国基地を参考にしても、費用は約4千億円とかなりかかっているので、普天間でも同じぐらいの費用が掛かるのは間違いないでしょう。
そのような巨額の負担費用は、どこから捻出されるのでしょうか? すでに国家予算に組み込まれているのでしょうか?
2008年度の防衛予算で見ると、米軍再編関連(地元負担軽減措置、再編交付金、移転調査費など)の総額は521億円となっています。2014年の米軍再編の最終年次まであと7年しかないわけですから、米軍再編の費用が3兆円と見積もると、本来なら年間4000億円ずつ必要となる。にもかかわらず2008年度は521億円しか積んでいないわけですから、来年度以降はかなりの支出が求められる。その支出をどうするかが大きな問題になってきます。
それらが全て防衛省の負担になるということですか?
防衛省でもその負担を心配している人は多いです。米軍再編の大枠は2005年の日米安保協議委員会で、米側は国務長官、国防長官、日本側は防衛庁長官(当時)と外務大臣、というトップ4人によるいわゆる“ツー・プラス・ツー”で合意した約束事。ですが、実際は、前防衛事務次官の守屋武昌被告とローレス国防副次官が決め、外務省はほとんどかかわっていないのです。当初、外務省は米軍の提案に乗るだけの“スモール・パッケージ”(米陸軍第一軍団司令部のキャンプ座間移転、米空軍の横田基地使用など)にしようという姿勢で望んでいましたが、守屋被告が沖縄基地の見直しを含めた大風呂敷を広げた議論にしようとイニシアチブを取った。それで外務省が引っ込んだ。だから「防衛省が決めたのだから、その責任で負担を」という空気があるのです。
でも、2006年の骨太の方針では、米軍再編は基地のある地元負担軽減が目的の一つであるから、防衛省が節約しても費用が足りない場合は国が何らかの方法を考えるという内容のことが書かれている。つまり防衛費以外から費用を出そうと読めるので、それを履行すればいいわけですが、実際、歳入と歳出のバランスがとれていない国家財政の現状では、誰もそれが実現するとは思っていないでしょう。
いずれにしても負担として跳ね返ってくるのは、税金を払っている国民に、ですからね。それらの事情に乗じて防衛費が膨らむということは、ないのですか?
今の国家財政において、防衛費が増大することは絶対にありません。ですから、防衛費の中に再編費用が入ってくることで、本来の防衛費が圧迫されることになります。現在の防衛費予算はざっと4兆7千万円。ここ7年間減り続けています。再編費用が組み込まれる可能性が大きいのは、人件費や武器調達費などの固定経費以外の、自衛隊の活動経費(一般物件費)になるでしょう。この経費は24万人いる自衛隊の活動のために使われるもので、実は9000億円しかない。ここに米軍再編費が組み込まれ、その半分を米軍のためにお金を使うとなると・・・当然、自衛隊の本来の訓練ができなくなるでしょうし、災害派遣の際に現場に駆けつける燃料がなくなるということも起きてくるでしょう。
現に今でも自衛隊は、移動の時に高速道路ではなく一般道路を利用したり、通行料が安くなる深夜や早朝に高速に乗るなど切り詰めてやりくりしています。駐屯地ではイベントの時に地元住民にうどんや山芋などを売って得たお金を、コピー代や文具代などの活動費に当てています。
ところで、米軍のレジャー時のレンタカー代や高速代まで負担しているということで、話題になっている“思いやり予算”ですが、これは米軍再編費用と何か関係があるのですか?
思いやり予算は、米軍再編とは関係のないものです。在日米軍基地の施設整備費や従業員の給料など「在日米軍駐留経費負担」のこと。米軍が日本にいることで必要になる経費約5千億円の内の2千億円が「思いやり予算」です。もともと金丸信が防衛庁長官の時に決めたもので、当時、円高ドル安のため、在日米軍の生活が苦しいということから「思いやり予算」という言葉が出てきて、その内に特別協定で光熱水道費なども負担するようになったものです。
しかし、こんなに米軍の経費を負担している国は日本以外にはないでしょう。光熱水道費などは米兵が本土で生活してもかかるものなので、それをアメリカ政府が払っているわけでもないのに、なぜか日本に来ると日本政府が払ってくれる。そういう不思議なことが起こっているわけです。
日米再編に伴う影響は、お金だけでありません。
自衛隊の機能そのものも、米軍の一部とされてしまう・・・という見方もあります。
実際のところ、どうなのでしょうか?
引き続き、半田さんに聞いていきます。
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