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どうなってるの?!米軍再編その3「グローバルな視点から見た米軍再編」

沖縄で、岩国で、厚木で、着々と進行しつつある「米軍再編」。
しかしそれは、日本だけで起こっている事象ではありません。
世界で今、何が進められようとしているのか、その狙いとはどこにあるのか。
平和に関する情報調査・研究活動で知られる
NPO「ピースデポ」の梅林さんにお話を伺いました。

梅林宏道 梅林宏道(うめばやし・ひろみち) 1937年兵庫県生まれ。東京大学大学院を修了後、大学教員を務めるが1980年に退職。フリーの反戦平和活動家として、NPO「ピースデポ」を設立、代表を務める。現在はピースデポ特別顧問。核軍縮を目指す国際NGO「中堅国家構想(MPI)」運営委員なども務める。主な著書に『米軍再編−−その狙いとは』(岩波ブックレット)、『在日米軍』(岩波新書)などがある。

「9・11」以前から始まっていた米軍再編

先日、空母艦載機受け入れをめぐって「出直し市長選」のあった山口県岩国市をはじめ、2004年から2006年にかけての日米戦略協議の中で合意された「在日米軍再編」が、徐々に形を持って進行しつつあります。
そこで改めて伺いたいのですが、そもそも「米軍再編」とは何なのでしょうか。その目的や狙いはどこにあるのですか?

 この問題の難しさは、本質的にはグローバルな問題なのに、それが日本に入ってくると突然ローカルな、「在日米軍基地の問題」として扱われてしまうというところにあると思います。これまで何十年にわたって積み重ねられてきたからくりによって、そのように見せられてしまっているんですね。
 しかし、今進行している事態は、グローバルな側面を見ずには理解できません。グローバルとローカル、両方の側面を関連づけながら考えなくてはいけないのです。

 まず、グローバルな視点から言うならば、今言われている「米軍再編」とは、ブッシュ政権が「世界的国防態勢の見直し」として、2001年から実行し始めた一連の動きを指しています。
 これは、2001年9月末に作成された「4年ごとの国防政策見直し」の中で打ち出されたものです。時期的には9・11テロ事件の直後ですが、端的にあの事件をふまえてやり始めたというものではありません。2000年の大統領選挙のキャンペーンのときにはすでに、ブッシュ陣営のいわゆるネオコンのブレインたちによって、「政権をとったらこういうことをやろう」として計画されていた、そういう意味では野心的なものです。

 その当時で、冷戦が終わって10年が経っています。冷戦の時代には、米軍の仕組みや配備も、すべて西側対東側という構造のもとで決められていました。冷戦の終結後、それを変えなくてはいけないと言われながらも、10年間は部分的な取り繕いしか行われなかった。ブッシュ政権は、それを根本的に新しくつくり変えようとしたんです。

 「世界的国防態勢の見直し」の中で、ブッシュは「これは朝鮮戦争が終わって以来最大の変化である。30年くらいかけて進めていく」という言い方をしています。それくらい大きなことをしようとしているんだということだったんですね。


※クリックすると拡大、PDFファイルが開きます。

「根本的につくり変える」とは、まずどういうことを指すのでしょうか?

 「世界的国防態勢の見直し」の中に、「米国がこれから直面する脅威は、予測がつかない形で現れる」という表現があります。禅問答のような言い方になりますが、いつ、誰がどういう形で米国に決定的な脅威を与えるのかということは、予測できないということだけが予測できる。それを前提として、グローバルな米軍の配置を考えるということです。

 さらに、ここでもう一つの前提となっているのは、アメリカが「自国の利益擁護のために世界中の紛争に対処する」という軍事態勢をとっている国だということです。こういうものの考え方をするのは、世界中でアメリカだけですね。
 「唯一の超大国」という言い方がよくされますが、それが何を意味しているかというと、地球上のどこで紛争が起こっても、米軍はその「面倒を見る部隊を決めている」ということ。世界地図を描いて、この区域は米軍のどの部隊、この区域はどの部隊が責任を持つという「責任区域」を定めているんです。「面倒を見る」「責任を持つ」という言い方をするとアメリカが喜びそうですが、要するに今後の市場としてその場所を活かしたい、だから自分たちのコントロール下に収めておきたいということ。「責任区域」の考え方自体は冷戦時代からあったものですが、徹底されたのは90年代に入ってからですね。

同盟国に突きつけられた「踏み絵」

では、そうした前提のもとで、具体的にはどのような取り組みが進められようとしているのでしょうか。

 重要な点は、「同盟国に責任をはっきりと自覚させる」ということです。
 世界中の紛争に対処するという、ある意味で非常に野心的な態勢は、アメリカ一国ではできません。アメリカ自身もそういう認識を持っています。そこで、その態勢をアメリカと一緒につくるかどうかという、ある種の踏み絵を同盟国に踏ませるわけです。
 日本にひきつけて言えば、これまでのように「中途半端」にアメリカと仲良くするのではなくて、こういうグローバルな態勢づくりの努力の一端を一蓮托生で担うのかどうかという踏み絵を突きつけられている。日本の前にはヨーロッパがその踏み絵を突きつけられていて、NATO諸国はほぼそれを呑んだという格好になっています。

その場合の「担う」という選択肢には、金銭的な「貢献」だけではなく、軍事的な「貢献」拡大の要求もセットになっているわけですよね。

 金銭的な「貢献」に関して言えば、2007年の初めに、「第二次アーミテージ報告」といわれる超党派の政策提言書が出されました。これは共和党のリチャード・アーミテージら日本通の専門家の共同執筆なのですが、その中で、民主党系も共和党系もみんな一致して言っているのが「(防衛費が)GDPの1%というのは、今の日本の経済活動の規模からいえばとても許されるものではない」ということ。つまり、そんな小規模ではなくもっと防衛に金をかけろということです。

 一方で、軍事的貢献ということも強く要求しています。憲法からくる集団的自衛権に関する制約が日米安保協力の障害であるということを繰り返し言っています。自衛隊の能力をアメリカのグローバル戦略の中でもっと使いたい、そのためには憲法が邪魔になると考えているのです。

日米安保と「日米同盟」

そうした意図を持つアメリカにとって、ある意味で大きな「縛り」になるのが日米安保条約ですよね。安保条約では、第5条で、日米が共同で攻撃への対処にあたるエリアを「日本国の施政の下にある領域」と定め、第6条でも米軍が「施設及び区域」の利用を許される理由として「日本国」及び「極東」の平和と安全のため、と限定しています。つまり、本来在日米軍は、それ以外の内容・目的での行動は起こせないことに、少なくとも理屈上はなっている。
しかし、実際には在日米軍の実態は現時点でさえそこから大きく逸脱していて、国際法上問題があるのではないかとも指摘されているわけですが…。

 それに関しては、高村正彦外務大臣が自衛隊のインド洋での給油活動再開のときに、かなり明確に「日米安保体制と日米同盟とは違うんだ」という言い方をしています。日米安保体制は日米安保条約に基づくものだけれど、日米同盟はもっとグローバルな、法的根拠のない日米の一体関係のことをいうんだという理屈ですね。
 本来、安保条約に基づくものであるはずの日米関係を、日米同盟という言葉で血盟関係のようにしていく。そうしたやり方は最近始まったものではなくて、最初に日米同盟という言葉が出てきたのは、鈴木善幸首相のときの日米共同宣言です。そのときは大騒ぎになったけれど、いつの間にか「同盟」という言葉が、当たり前のように使われるようになってきていますね。

 こうした言い方が非常に卑劣なのは、それによって法的な議論をさせないようにしていることです。安保条約に基づく関係とは別の「日米同盟」というものがあると言ってしまったら、在日米軍の行動をコントロールするための法的根拠がなくなってしまう。実態としてはそれに近いことがずっと行われてきているわけですが、だからいいという話ではありません。法的根拠のない政治的関係が一人歩きしている、こんな危険なことはないわけで、私たちは法の支配を要求して反撃しないといけないんだと思います。

そうした「法的根拠のない」関係が実情として続いてきた状態に対して、アメリカはどう対処しようとしているのですか。日本の「軍事的貢献」の拡大を含めた内容で日米安保を結び直そうという考えもあるのでしょうか。

 アメリカはそうしたがっていると思います。

 在日米軍再編に関する協議は、2004年に「日米戦略協議」という名称で正式に進行し始めました。なかなか資料が出てこないのですが、その最初の局面で、おそらくそうしたことが要求されただろうことはほぼ間違いないと、私は思っています。
 また、ネオコンの論客であるアメリカのファイス国防次官が来日したとき、記者クラブで話した内容は非常にそれに近かったですね。日米の安保関係は今のままだと崩壊する、崩壊したくなければ今変わらなければならないという言い方をしているんです。

その「変わる」というのが、たとえば安保条約を新しくして、法的根拠のきちんとある関係に持って行くということを指すのでしょうか。

 そうだと思います。ファイス国防次官は、2004年の米下院の軍事委員会でグローバルな米軍再編の5原則というのを証言していて、その内容は05年に発行された「合衆国の国防戦略」という文書の中にも記載されています。そしてその中に「(同盟国との)政治的法的関係を明確にする」という項目があるんです。

 たとえば、今回の米軍再編の中では、ルーマニアとブルガリアにも米軍基地が新しく設置されました。かつてのワルシャワ条約機構の一員だった国に、初めて米軍基地ができたわけです。それに関してアメリカとブルガリアとの間で結ばれた協定を見ると、ブルガリアの基地から米軍が前方展開する、そうした柔軟性を持つということが、はっきりと書かれれています。
 そのようにして、正面突破の論理で、成文化された法的関係を整備するというのが、米軍のやろうとしていたことだと思います。ところが、日本では憲法9条との関係があって、やはりそれは難しいんですね。

本来は、憲法9条を変えさせて安保条約も結び直す、というのがアメリカにとっては理想だったわけですよね。

 日本の防衛庁(当時)もそうしたかったと思いますが、そこは外務省が抵抗した。世論との関係もあるし、法を変えるのは政治だから、政治が変わってくれないとそれ以上のことはできない、ということだったと思います。
 そこで結局は、裏でこっそりと進めて表では見えなくするという、ある意味で昔からやってきたやり方で、在日米軍再編の事態が進行させられていっているわけです。

「世界的国防態勢の見直し」の中で進められつつある米軍再編。
それを受けて、在日米軍基地には、
そして自衛隊にはどんな変化がもたらされようとしているのでしょうか。
次回、ローカルな視点から見た「米軍再編」について、さらにお聞きします。

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