岩国が、米軍再編に伴う基地移駐問題で大きく揺れている。地元に対し事前に何の協議もなしに、日本政府は、今の2倍以上の米軍機の移駐を決めてきた。しかも市が受け入れ容認を表明しないのならば、市庁舎建設のための補助金35億円をカットすると言うのだ。この「アメとムチ」を巡って、市長と市議会が激しく対立。2年前の住民投票で、市民の9割が、移駐反対をした結果を重く受け止めている井原前市長は、昨年末に、突然の辞意表明。そして来月の10日に、出直し市長選で、再び民意を問う。
井原勝介(いはら・かつすけ)1950年、山口県、現・岩国市生まれ。東京大学法学部を卒業し、1976年、労働省に入省。1999年、岩国市長選挙に出馬し初当選。市長2期目の時、米軍再編問題が持ち上がり、2006年3月に、住民投票で空母艦載機移転の是非を問う発議を行う。結果、反対派が9割を占める。4月、周辺7町村の合併に伴う市長選挙では、「移転撤回」を掲げて圧勝。2007年12月、市の予算案の採決をめぐり市議会と対立、辞職。出直し市長選に立候補表明。井原勝介ホームページ
基地の移駐容認派が多数を占める市議会との対立により、市の予算案が通らなくなってしまったからです。既に約束をしていた市庁舎建設のための補助金を、工事に入ってから3年目になって突然カットされるという、強引な国のやり方に合いました。しかし、市庁舎の工事は続けて完成させなければいけない。というので、合併に伴う合併特例債を使っての予算案を立てたところ、それを議会は否決。修正をしても4回否決されました。予算が成立しないと、市民生活はストップしてしまいますから、最後は「私のクビと引き換えに、予算を通して欲しい」と言って、成立させました。
これは、2007年の国会で決まった法律ですが、今までにない考え方の補助金という印象を受けました。米軍基地の受け入れを自治体(首長)が容認すれば、そこには交付金を出すけれど、基地の建設が進んだ場合も、最初に自治体が容認しなければ、交付金は出さないというものです。基地の負担を強いていることには変わりないのに。・・・「容認」をお金で買おうとする考え方には違和感を覚えます。
それから、基地が置かれる自治体だけでなく、その周辺の自治体に対しても容認すれば、交付金を出すということになっています。岩国の周辺の自治体は、容認をしていますから、交付金を受け取っているわけですが、そうやって、市民は岩国市内だけでなく、となり町との分断も強いられているという思いがします。まさに「兵糧攻め」といった状況ですが、この強引なやり方は、逮捕された守屋前事務次官の手法だと聞きました。
私は、何がなんでも基地反対という立場ではありません。岩国は、基地の町として長らくやってきましたし、2002年のハワイからの米軍大型ヘリの8機は受け入れを容認し、実現しています。
しかし今回は、厚木基地からの空母艦載機が59機、兵員は約1900人という大規模なものです。空母艦載機は激しい演習を繰り返すことで有名で、厚木基地周辺では、その騒音や危険性が問題となり、移転ということになったわけですが、それをそっくりそのまま、岩国に移すというのは、何の解決にもならないと思います。
そしてこんなに基地が大規模化するというのに、事前に何の相談も協議もありませんでした。2005年10月に、政府からの「在日米軍再編についての中間報告」が出されましたが、そこで初めて明らかにされたということです。
岩国市としては、かねてより噂はあったので、私も心配で何度も国に対して協議の申し入れをし、当時の防衛庁長官からは事前に地元とも協議するという約束をいただいていたのですが、結局その約束も果たされず一度も地元の意見を聞くことなく、日本政府とアメリカ政府だけで話が進み、突然公表されました。
岩国の問題は、基地問題という側面もありますが、それだけでなく、このように地方を「補助金」というお金でもって、上から押さえつけるやり方は、地方自治の崩壊であり、民主主義の危機だと感じています。
2006年の3月に住民投票を行いましたが、そこでは、「反対」が87.4%と9割近い人たちが、空母艦載機の受け入れ反対を表明していたのです。そして、その後、合併に伴う市長選挙でも、私が再選を果たしましたので、2度、民意は、「受け入れ反対」を示したことになります。
市議会についても、当初はほとんどの市会議員が受け入れには反対でした。しかし、補助金カットをちらつかせる国のやり方や、いくら自治体が反対をしても、艦載機は100%やってくるのだからという、防衛省の強引な態度を見ているうちに、受け入れざるを得ないのではないかという容認派が、だんだんと多くなっていきました。
市民にしても、本当は受け入れたくないのだけれど、気持ちは揺れていると思います。いろいろと市民生活に不安をもたらす怪情報が飛び交っていますから。例えば、このまま容認しないと北海道の夕張市のように、市が財政破綻し、税金が2〜3倍になる、とか、市営病院が閉鎖されるとか、市営バスが走らなくなるとか。そんなの全部、嘘なんですけれどね。そういったデマが今、意図的に宣伝されています。
岩国市民はこれまで、基地を受け入れて暮らしてきましたが、いつかは、基地は縮小されるのではないか、この騒音や危険が、徐々に少なくなる方向にいくのではないか、そういう期待や希望を持ちながら生きてきているのです。97年度から、沖合1キロのところに滑走路を作る工事を進めてきたのも、そういう市民の声に応え、今よりは基地による負担を減らすために計画し行ってきたことです。それなのに、あそこはちょうど沖合に滑走路を作っているから、完成間近だから、移駐にちょうどいいと、今の2倍以上の規模の米軍基地を置くというのでは、まったく市民に説明できません。
岩国市の将来、子供たちの将来に大きな影響を及ぼす今回の移転問題です。市民の気持ちを尊重して、納得できるまで十分に協議を行い、どうするかを決めていくべきことなのに、補助金カットという強引な手法で押し付けてくる。この露骨なまでの「アメとムチ」の手法は、従来にない強引なやり方です。そしてそういうやり方は、みなさんの税金を使って行われているのです。
これを許してしまったら、将来に対して取り返しのつかないことになるでしょう。今後ますます、地方は政府の言いなりにならざるを得ないということが、通常になっていくのではないか、という危機感を持っています。
自衛隊は、災害時には救助などやってくれます。そして彼らには家族もおり、岩国で市民生活を送っているわけです。子供たちは市内の学校に行ってますし、もちろん税金も払ってくれています。それなのに、米軍再編の一環として、大部分の隊員を移転させてしまうのは、岩国にとってマイナスだと考えていますね。これについては、議会とも一致している項目です。
(電話インタビュー:1月20日)
岩国市長選挙の告示は2月3日、選挙は10日に行われ、即日開票されます。
基地と補助金を巡り市民を二分しての激しい選挙戦が、
繰り広げられようとしています。岩国市や市民の受けている苦悩を、
自分の町に置き換え私たちも考えてみましょう。
2006年5月に日米両政府が合意した「米軍再編」。
今、様々な場所で形となって現れ始めました。
この問題について、「マガ9」ではシリーズで考えていきます。
みなさんからのご意見、お待ちしています!
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