第三十八回
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しつこいようだが、あの強制国外退去を命じられているフィリピン人親子について、また書いておく。森英介法務大臣の記者会見での発言に、怒りを感じたからだ。
不法滞在で強制退去を命じられ、9日に帰国日の回答期限を迎える埼玉県蕨市のフィリピン人、カルデロンのり子さん(13)一家の問題で、森英介法相は6日、強制退去となれば原則5年間再入国できなくなるのり子さんの両親について、「一時的に上陸許可を出すこともやぶさかではない」と配慮することを明らかにした。
森法相は、のり子さんだけの在留を許可した判断について、「基本的には家族そろっての国外退去だが、(のり子さんが)日本で学業を続けたいという事情を考え、判断した。近くに身寄りが3人おり、多くの支援者もいる」と、これまでの判断に変更がないことを強調した。
そのうえで、「お子さんが在留資格を得られれば、いつでも両親に会いにフィリピンに帰れる」と述べた。
(産経新聞3月6日配信)
これだけ読めば、森法相がいかにも人道的配慮をしたかのように思える。だが、“両親の一時的再上陸”も“のり子さんの帰国”も、あくまで仮定の話だ。基本的に、家族が別れ別れに暮らさなければならないことに変わりはない。
「身寄りや支援者がいるから、両親と離れても暮らしていける」とは、なんと非情な言い方か。
さらにこの人、こんな発言もしている。
森法相は「今回の事例は、すぐ近場に子供の叔父さん叔母さんが3人いる。養育環境を整えられるなら、子供に限っては在留特別許可で日本に残っても構わない。家族を引き離すつもりは全然ない」と述べた。 (毎日新聞3月6日夕刊)
「家族を引き離すつもりは全然ない」とは、いったいどういう意味の発言か。少女だけには在留許可を出し、両親は国外退去。「家族は引き離される」ではないか。
この人、言葉の使い方をまるで知らない。さすがにデタラメな言葉を連発する麻生太郎首相の閣僚である。
また、「近場に叔父叔母が3人いるから、養育環境を整えられる」と言っているのだが、それについては次のような報道もある。
カルデロンさんの代理人によると父親の姉と母親の弟、妹の計3人が埼玉県川口市などで日本人と結婚するなどして適法に滞在している。ただ、「それぞれ家庭があり、子どももいるため、経済的にも環境的にもすぐにお願いできる状態ではない」としている。
(朝日新聞3月6日夕刊)
つまり、“養育環境”など、すんなりと作れるような状況ではないのだ。そんな事情を知った上で前記の発言をしているのか。それとも、きちんと調べもせずに上滑りの官僚情報だけで、分かったようなことを言ったのか。
この先、1人残される13歳の少女の暮しなど、森英介法務大臣の視野には入っていない。
前回も書いたけれど、この家族は勤務先でも学校でも、周りの人たちにとても好かれていたという。例えば、こんな記事もあった。
(前略)そんなアランさん一家を励まそうと7日、同僚5人が自宅に集まった。細野幸一郎さん(29)は「アランは一番古株で面倒見が良く、誰にでも対等。だからみんな助けようと思う」と話す。同僚らは「絶対あきらめるな。みんながついているから」と吉報を待つ。
(毎日新聞2月25日夕刊)
アランさんは、建築解体業の会社に勤めている。彼の人となりは、このエピソードからもうかがえる。仲間たちの信頼がとても厚いのだ。この会社の社長さんも、アランさんのお陰で会社がいかに助かったかを述べているという。
前回も書いたように、入管当局は「個々の事案ごとに、在留を希望する理由、家族状況、生活状況、素行…」などを勘案して、許否判断を下すとしている。
きちんとした仕事を持ち、同僚からは慕われ、社長からも信頼されていて、素行の点でも問題ない。何度も書くけれど、なぜそんな家族を引き離すような残酷なマネができるのか。
小沢一郎民主党代表の秘書逮捕という、政界を揺るがす大騒動の陰で、こんなにも冷酷な処分が、法務大臣によってなされようとしている。
3月7日(土)晴れ
久しぶりの晴天です。
テレビニュースも新聞記事も、やるせない気持ちにさせるものばかりですから、こういうときは散歩に出かけるしかありません。お金もかからないし、体にもいい。
晴れてはいても、風がまだ冷たい。
♪春は名のみぃ~の、風の寒さやぁ~…などと口ずさみながら歩いていると、それでもはっきりと春の息吹が感じられます。
公園の大きな樹の下に、フキノトウが、もう花を付けているのを見つけました(ちなみに私の故郷では、フキノトウをバッケと呼びます。その由来は分かりませんが)。
天ぷらにすると、ちょっと苦くて春の香りがするといいます(私は苦手ですが)。でも花が咲いてしまっては、もう食べられないだろうなあ。
サンシュユの黄色い花や、アセビのピンクの花はもう満開でしたし、♪こぶし咲くぅ北国のぉ~北国のぉ春ぅ~、のコブシも、かなり大きく芽を膨らませています。
せめて、やわらかな春の陽射しが降り注いで、みんなの背中を温めてくれますように。
小沢一郎民主党代表の公設第一秘書逮捕に始まった一連の騒動は、しかし、自民党への追い風にはなっていない。
毎日新聞(本日付)の世論調査では、民主党への支持は前回調査に比べて7ポイントも減っている(22%)が、自民党支持は2ポイントしか上昇していない(22%)。つまり世論は、どっちもいい加減にしろっ!と、サジを投げている状態だ。他社の調査の傾向も、ほぼ似たりよったりらしい。
とくに目を引くのは、麻生太郎首相への評価だ。
これほど小沢代表への風当たりが強いのに、それが麻生首相への支持につながらない。
どちらが首相にふさわしいか、という問いに、小沢13%(-12%)、麻生10%(+2%)と、いまだに麻生首相は小沢代表に負けているのだ。第一秘書が逮捕されるという重大疑惑をもたれている人よりも支持が少ない首相とは、いったい何者か。自民党内で、麻生おろしの風が止まないのは当然のことというしかない。
その麻生首相の沖縄訪問には呆れ返った。そもそも日帰りということ自体、まるで沖縄を蔑ろにしているとしか思えない。しかもその日(7日)の行動には、心底腹が立つ。
朝日新聞(3月8日)の「首相動静」から抜粋する。
(7日)午前11時45分、那覇空港。仲井真弘多・沖縄県知事ら出迎え。午後0時37分、同県糸満市の平和祈念公園。国立沖縄戦没者墓苑で献花。1時7分、同県豊見城市の不発弾事故の被害者宅。古波蔵純さんをお見舞い。
とりあえず、屋外にいたのはここまで。この後、那覇市内のホテルに入り、あとは帰るまでホテルを出ない。
「会いたければ来い、オレのほうから出て行くつもりはない。別に基地視察もやる気はないし、アメリカの言い分は聞いているから、沖縄県民の意見など聞かなくてもいい」ということか。
それが勘ぐりなどではない証拠に、ホテル内で行った30分間の講演では、一言も基地問題に触れていない。わざわざ沖縄まで出かけておいて、まるで基地に触れないとはどういうことか。沖縄県民にとって最も切実な問題は「米軍基地」ではないか。
沖縄現地のメディアは、失望と怒りを隠さなかった。
そのメディアの批判や県民の怒りについては、多分、岡留さんが怒りを爆発させるだろうから、ここではこれ以上触れない。ただ、首相の午後の日程を、同じ朝日新聞から引いておく。
(午後の動静。時間表示は割愛)
那覇市の沖縄ハーバービューホテルクラウンプラザ。レストラン「ベルビュー」で自民党県連幹部らと昼食。宴会場「クイーンズルーム」で同県建設業協会との意見交換会。宴会場「羽衣の間」で地元医療関係団体との意見交換会。宴会場「金鶏の間」で子どもたちと交流。宴会場「白鳳の間」で自民党県連女性局主催の会に出席、講演。「クイーンズルーム」で仲井真知事。シドニー・ブレナー沖縄科学技術研究基盤整備機構理事長ら。宴会場「アイランドブリーズ」で沖縄県内の離島に住む青年と意見交換。
そしてこの後、那覇市内の琉球舞踊道場を見学、那覇空港貴賓室で自民党県連役員たちと会い、夜9時3分に羽田空港着。
いったい何なんだ、このスケジュールは。
同じホテル内の宴会場を渡り歩き、土建業界、医療業界などの業界団体と顔をつなぎ、後は自民党の身内の連中との会合。アリバイ作りに、子どもたちや離島の人たちに愛想を振りまき、結局、沖縄が抱える切実な問題には一切触れずに、バイバイ。
いったい何をしに沖縄へ行ったのか。むろん、人気取りであることは間違いないけれど、こんなやり方で人気が回復するとでも思っていたのか。
誰かのセリフではないけれど「怒りを通り越して、笑っちゃうしかない」。
こんなことを仕掛けたのが、自民党の広報や政府官邸筋だとすれば、やはり自民党は終わっている。
古い自民党的体質を引きずったままの小沢代表の民主党には疑問符がつくけれど、自民党もすでに命脈は断たれている。
かつて沖縄県知事として(その後は参議院議員として)、日本政府と凄絶に闘い、アメリカに異議を申し立てた大田昌秀さんの「大田平和総合研究所」は、このハーバービューホテルクラウンプラザのまん前にある。私は仕事で何度もお邪魔して、このホテルで食事をご一緒させていただいたこともある。
いまは政界を退き、執筆活動に専念している大田さんだが、この麻生首相の空虚な大騒ぎを、すぐ間近から、どんな思いで見つめていたのだろうか。
フィリピン人のカルデロンさん親子の父親が、ついに収監された。9日午前、東京入国管理局に出頭した親子のうち、父親のアランさんだけが収容され、母親のサラさんと娘の中学1年生ノリ子さんは、16日まで仮放免を延長されたという。1週間の猶予が与えられたわけだ。
なんというむごい仕打ちだろう。あと1週間だけ、親子の別れをしみじみと味わえ、とでもいうのか。
13歳の少女のみには在留特別許可を与え、まず父親を隔離し、さらに1週間後には母親を引き離す。それを、少女はじっと耐えるしかない。これではまるで、“蛇の生殺し”ではないか。少しずつ先送りして、苦しみを延ばす。精神的な拷問である。
何度でも書く。こんな血も涙もない連中が、私たちの国の政治を握っているのだ。この一点からでも、私は政権交代を熱望する。もう少し情のある政治を行う可能性のある政権ができることを、強く強く望む。
そのためにも、一刻も早い総選挙を。
たとえ、麻生にも小沢にも任せられなくとも…。
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