第二十八回
081224up
2008年の、これが最後の「マガジン9条」更新です。この1年、私もなんとかここまで、休まずに書き続けることができました。(数少ない)読者のみなさんのおかげです。感謝します。
またなんとか、来年も…。
みなさんにとって、今年はどんな年でしたか?
私なりに、この1年を振り返って見ましたが、あまりいいことが思い浮かばないような1年でした。とくにこの年末に来て、世の中、なんだか物凄い荒れようです。
その中でも、私がいちばん酷いと感じるのは、「言葉の劣化」です。言葉が本来の意味を取り去られ、捻じ曲げられて苦しんでいる。そんな気がするのです。
言葉が荒れれば、政治や社会も崩れていきます。言葉こそが、政治であり社会を動かす力だからです。いまの日本は、まさにそんな状況にあるのではないでしょうか。
「言葉の劣化」とは、いわゆる若者言葉やおかしな流行語を指して言っているのではありません。
若者言葉や流行語なんか、いつの時代にも、生まれては消え浮かんでは沈んでいくのです。消え残り沈まなかった言葉だけが、新しい日本語として定着していく、それだけのことです。それでいいのです。
けれど、分かっていながら言葉を歪める連中がいる。こういう人たちが権力を握り、メディアを支配するとき、国そのものが歪められていく。それが、今年2008年の大きな特徴だったのではないでしょうか。
毎年、年末に発表される「今年の一字」は「変」でした。しかし私の「今年の一字」は、「歪」です。それほどに、この国のかたちが歪み始めたように見えるのです。
筑紫哲也さんは毎年のテーマを決め、それを漢字一字で表して(例えば「乱」など)「ニュース23」の特集に取り上げていました。筑紫さんなら、今年をどんな漢字で表現したでしょうか?
19日(金)に、筑紫さんのお別れの会に出席してきました。会場で、いろんな方たちをお見かけしました。
作家、音楽家、映画監督、俳優、メディア関係者、政治家、ジャーナリスト、評論家、市民活動家と、その顔ぶれはほんとうに多彩でした。私の旧知の方も大勢いらっしゃいました。
「マガジン9条」の執筆者の岡留安則さんや鈴木邦男さんにもお会いしました。筑紫さんの交友の広さに改めて感服し、そして、もはや彼がいない、ということに強い寂しさを感じたのです。
毎年の年末に「流行語大賞」なるものが発表されます。今年は「アラフォー」「グー」でした。あまり残りそうな言葉ではないように思います。例年どおり、一過性の流行で終わるでしょう。
例えば、1998年の「流行語大賞」は、以下のような言葉でした。
大賞 「だっちゅうの」
「凡人・軍人・変人」
「ハマの大魔神」
その他に、「環境ホルモン」「貸し渋り」「老人力」「ショムニ」「モラル・ハザード」「冷めたピザ」「日本列島総不況」など。
このうちのいくつをあなたは覚えていますか?
これがさらに10年前、1988年となると、すでに記憶も定かではありません。
新語部門金賞「ペレストロイカ」はまだ理解できるとして、他は「ハナモク」「トマト銀行」「遠赤効果」「カイワレ族」。
流行語部門金賞「今夜はここまでに(いたしとうござりまする)」
その他には「ドライ戦争」「シーマ(現象)」「アグネス(論争)」「5時から(男)」「しょうゆ顔、ソース顔」
もうここまでくれば、ほとんどクイズです。流行語や若者言葉など、そういうものなのです。そんな現象を「言葉が劣化している」などと言っても仕方ありません。
ほんとうの意味での「言葉の劣化」は、今年の政治を表す言葉だと思うのです。
野党3党が共同提出した「雇用対策4法案」は、19日に参議院で可決されましたが、大島理森自民党国対委員長はこれを「ツーレイト、ツーリトル」「単なるパフォーマンスだ」と批判。同法案は、衆議院では否決ということになりました。
これなど、「言葉の劣化」の最たるものだと思います。
ツーレイト(遅すぎる)というのであれば、なぜ与党自らが素早い法案の提出をしないのか、ツーリトル(小さすぎる)なら、なぜ与野党間で修正協議を行って大きな対策にしないのか。単なるパフォーマンスだと言うのなら、なぜ与党案を対峙して今国会で論争、成立を図ろうとしないのか。
つまり、まったく内容の伴わない“悪口”に過ぎないのです。屁理屈にもなっていません。
明日の暮らしにも困っている人々が続出しているのを承知の上で、こんな馬鹿げた罵詈雑言の投げ合いをしている政治家たち。「言葉の劣化」が招いている「政治の崩壊」です。
“百年に1度の危機”だと言われています。ということは、いま生きている人間たちのほとんどが“かつて経験したことのない事態”だということです。ならば、一刻も早く手を打たなければならないはずです。師走の寒風の中に放り出される人々に、いますぐにでも手を差し伸べなければならない。それが政治です。
「待っていられない」と、大分県杵築市では自治体独自の離職者雇用対策に乗り出しました。大分キヤノンなどから解雇された非正規雇用者を、市の臨時職員として暫定雇用するというのです。このような動きは、雇用調整を始めた大企業が立地している全国の自治体に広がっています。
“派遣切り”(いやな言葉です!)などを始めた大企業への、不況に苦しむ自治体からの、ささやかな異議申し立て、とも受け取れます。
それにしても、“未曾有の危機”を言い訳にしての、最近の雪崩を打ったような大企業のリストラは、少し度を越していると言わなければなりません。
例えば、トヨタにしてもキヤノンにしても「国際競争力を確保するため」と称して、莫大な利益を社内留保金として溜め込んできたではありませんか。それらの金を少しでも非正規雇用者に還元するべきときが“いま”であるはずです。
むろん、「会社経営が破綻してもいいから留保金を吐き出せ」などと言うつもりはありません。しかし、ほとんどその努力が見えないままに、ひたすらなリストラに走る。その姿勢が間違っていると思うのです。
キヤノン会長であり経団連会長でもある御手洗冨士夫氏は、例によって「企業が生き残るためには、雇用調整は取らざるを得ない最低限の戦略」と言明しました。ならば、それを言うのと同時に、キヤノンはいったいいくらの金額を溜め込んでいるのか、それをこれ以降どのように使うのかを、明らかにしなければ整合性が取れないはずです。
ここにも「言葉の劣化」が見て取れます。
食品偽装という嘘。
相撲界の奇奇怪怪な虚言の連鎖。
社会保険庁や厚労省の巨大な年金疑惑。
官僚たちの腐敗汚職天下りに際しての嘘。
麻生首相を筆頭とする政治家たちの暴言失言妄言。
大企業経営者たち(例外はあるでしょうが)の言い訳。
歪んだ言葉の渦が、この国を蝕んだ1年。来年2009年は、明るい兆しが見えるでしょうか。こんな暗い原稿で1年を締めくくらなければならないのは、とても寂しいのですが…。
今日はいい天気。
散歩に出かけます。
牛のように、ゆっくりと。
それではみなさん、また来年。
せめて気持ちだけでも、いいお年を!
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