第二十回
081029up
個人的事情で、この日記を書く余裕がありませんでした。ということで、今回は「日記」と言いながら、1日分だけです。数少ない読者の皆様、どうかお許しください。
私は、これまで経済なんかにはあまり興味がありませんでした。新聞の経済面を、じっくりと読んだこともありません。まあ、見出しにザーッと目を通して、特に興味を引く記事があれば、中身を読むという程度。
それに私は、株にもまったく手を出していないし(手を出すほどのお金もないし)、株価が上がろうが下がろうが、ほとんど影響もない(はずでした)。しかし、どうもそうとばかりも言っていられなくなりそうです。
さすがにここまで株価が暴落すると、実体経済にも影響が出てきました。なにしろ輸出に頼ってきた日本の産業は、凄まじいばかりの円高の直撃を受けて、そうとうに疲弊し始めています。
(今日28日の株価は、前日より459円高い7621円で引けましたが、一時は26年ぶりの安値を記録しました。“ジェットコースター相場”は収まりそうにもありません)。
むろん、円高は悪いことばかりじゃない。輸入品は、円高の恩恵を受けて安くなるはずです。しかし、それが店頭の価格に跳ね返ってくるまでには、かなりの時間差があります。我々の生活が円高の恩恵に浴するのは、まだまだ先のことでしょう。
その恩恵を受ける前に、もっと大きな被害が出てきます。
すでにそれは、“就職氷河期の再来”という形で現れ始めています。かつて、バブル崩壊の際の“就職氷河期”で、うまく就職できなかった人たちが、その後、派遣社員や日雇い労働という形でしか仕事にありつけない状況が、現在のワーキングプア現象をもたらしていることには、誰もが気づいています。
さらに、企業はまたもリストラに走り始めています。リストラで最初に仕事を失うのは、むろん、派遣社員や日雇い労働者です。特に、輸出産業の花形である自動車産業では、円高の影響をもろに受け、新車売り上げ台数が昨年同期と比べて、軒並み5〜8%ほど落ち込んでいます。
自動車産業の下請け孫請け企業の労働者の半数以上は、派遣や日雇いの人たちだということです。窮地に陥った自動車メーカーが最初に切り詰めるのは、当然のことですが、下請け孫請け企業への発注減少、締め付けです。ここに、非正社員労働者の大量解雇が始まります。
(余談ですが、解雇のことを、これらの企業では“雇い止め”というそうです。ここにも、言葉のゴマカシがあります。なぜはっきりと、クビとか解雇とかいわないのか。不愉快な言葉です)
実は、私の知り合いにも、この“雇い止め”を食らった人がいます。他人事だと思っていたことが、現実に私の周囲でも起き始めたわけです。まあ、彼は自宅から通っていましたし、多少の貯えもあるということなので、すぐにネットカフェ難民になることはないようですが、さすがに落ち込んでいて、慰めの言葉もかけられませんでした。
私は編集者なので、フリーライターの友人がたくさんいます。彼らの多くも、この大不況のあおりを食らっている被害者です。
かつては「出版は不況に強い」というのが定説でした。
「不況になれば、あまり外へ出かけたり外食をしたりということはしなくなる。家で静かに本でも読んで時間を過ごそう、という人が多くなるからだ」などと説明されてきました。
しかし、最近はインターネットやゲームで時間を潰すことが多くなり、書籍へお金を払う人は激減しています。不況は出版をも直撃しているのです。これからは、もっと厳しくなるでしょう。
(むろん、出版不況の原因は、ネットやゲームばかりではありませんが、その原因を探ることが今回のテーマではありませんので、深入りはしません)。
出版不況は、自動車産業ほどではありませんが、フリーランスのライターたちを直撃します。つまり、原稿料の引き下げから始まり、取材費の削減、雑誌のページ減による原稿枚数の減少。それらは当然、ライターたちの収入減に直結します。
しかし、書く場所(雑誌)があればまだいいほうです。このところ、大手出版社の看板雑誌の休刊(これも言葉のゴマカシです。休刊が復刊したことなどほとんどありません。休刊とは、廃刊のことなのです)が相次いでいます。
「月刊現代」(講談社)、「月刊PLAYBOY」「ロードショー」(ともに集英社)、「論座」(朝日新聞出版)などです。いずれも、一時はそれなりの部数を誇った雑誌ばかりです。大手の出版社も、出版不況に対応するためのリストラを始めざるを得なくなったわけです。
そしてこの廃刊は、その雑誌に寄稿していたライターたちの職場を奪うことになります。一部の著名ライターを除いて、大多数のフリーランスたちは書く場所を失ったのです。つまり、ストレートに言えば“失業”です。
彼らは、建前は“自営業”ですから、何の保障もありません。書く雑誌がなくなれば、それで収入の道が閉ざされます。
特に硬派のノンフィクション系のライターたちにとって、「現代」「論座」「月プレ」の廃刊は痛手です。私のとても親しいフリーライターのTさんは、「この3誌は、どれも僕が書いていた雑誌。それが同時に消えてしまった。茫然自失ですよ」と、暗い顔で嘆いていました。
カメラマンや誌面のレイアウトデザイナー、校閲校正の方たちにとっても、事情は同じです。明日から定期収入の道が閉ざされてしまうのです。
(これらの職種の方たちは、ほとんどの場合、フリーランスです。出版社は、リスク回避という理由もあって、こういう特殊技能者たちを社員化していません。彼らは、ほぼ全員が“自営業”であり“個人事業主”なのです)。
今回は、私の仕事関係から見た不況の状況を書いてみました。しかし、これなどまさに、氷山の一角。不況の荒波は、いたるところで逆巻いています。 株価は、今から26年前の水準で推移しています。あのころは、世界経済がもっとも疲弊していた時代でした。そしていま、それ以上の疲弊が始まっています。
何度でも書きます。
この世界大不況(もう恐慌と言っていいと思います)の原因は、アメリカにあります。確かに、今回の混乱の引き金となったのは、サブプライムローン問題でした。しかし、ほんとうの原因はブッシュという史上最低の大統領が引き起こした“アメリカの戦争”にあったはずです。
昨日も、アメリカ軍の誤爆でアフガニスタン警備兵や住民数十人が死傷した、というニュースが流れてきました。いままで“誤爆”で、いったい何人、いや何万人の血が流されたでしょう。いったい何人の死者の上に、平和がもたらされるのでしょう。そして、いったい何百兆円の軍事費をつぎ込めば、アメリカは満足するのでしょうか。
(アメリカが直接つぎ込んだ戦費は1兆ドル=約100兆円、さまざまな間接費を加えるとその倍、約200兆円にも及ぶのではないかという試算もあるそうです。この金が、今回の大恐慌の遠因になっていることは、誰にも否定できないでしょう。ちなみに、アメリカが金融安定のために金融機関に直接注入する費用は、75兆円とされています。これだけを考えても、アメリカが使った軍事費のバカバカしさが分かるでしょう)。
百年に一度とも言われる大恐慌について、アメリカは一度でも謝罪したでしょうか。いや、謝罪などいらない。とにかく一刻も早く戦争をやめることです。
日本がやらなければいけないのは、インド洋でガソリンを米艦船に無料提供することなどではなく、とにかく戦争の停止を、アメリカに呼びかけることです。アフガンでの“アメリカの戦争”を援助するなど、とんでもないことです。
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