第十八回
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週末の新聞は重い。たくさんの広告ビラが挟み込まれているからです。それも、とても上質なコート紙(光沢のある用紙)を使ったマンションや新築住宅の広告が多い。
「休日には、ぜひ見学にお出かけください」ということなのでしょう。
上質紙は斤量があるから、重いのです。そして、上質紙のほうがカラーインクのノリがいいので、特に、マンションなどの派手めな広告に使われることが多く、したがって、そんな広告がどっさり入っている週末の新聞は、とても重くなるわけです。配達の方には負担でしょうね。
で、美しい新築マンションの、夢のような写真を眺めていたら、あることに気づきました。
<ついに値下げ断行!>
<昨年比30%オフ!>
<頭金なし、月々10万円のお支払いで、即入居!>
<今こそ買い時、底値の夢実現!>
などなどなど…。
こんな謳い文句が目白押しです。とにかく、今が買い得、今が底値、今が超低金利…、とマンションや新築住宅が安くなったことを、大見出しで訴えているのです。
確かに、大幅に値段が下がっています。昨年と同じ値付けでは、ほとんど買い手がつかなくなっているのが現状のようです。多少損をしても、なんとか早く売り抜けてしまわないと、資金繰りがショートする。売り手側も必死です。
これは、私が住んでいる東京郊外の話ですが、同じ状況は全国どこででも起きていることなのでしょう。
不動産会社や建設会社の、悲鳴が聞こえるような気がします。事実、建設会社や不動産会社の倒産件数が、過去最高を記録しているそうです。
でも、どんなに値下げをしても、やはりマンションや新築家屋は高額です。金融危機が叫ばれるこの時期には、買うほうだっておいそれとは決断できません。
なにしろ、凄まじいばかりの金融不安。これからの自分の給料がどうなるか分からない。いや、下がったって給料がもらえるならまだいい。リストラ、馘首(クビ)の恐れだってあるのですから、高額の買い物など控えるのが当たり前です。むろん、マンションや家屋だけではなく、(日用品も含めて)すべての商品への買い控えが始まっています。
日本における倒産件数も、増加の一途を辿っています。
今年9月の全国倒産件数(負債総額1千万円以上)は、前年同月比で34.4%増の1408件、負債総額は5兆3625億2900万円で、月間の負債総額は戦後2番目だったそうです(東京商工リサーチが8日に発表)。同発表よると、今年は5月をのぞき、倒産件数が前年水準を上回り続け、9月以降は倒産の増加傾向が一段と加速しているといいます。
消費者が買い控えに走るのは、当然のことでしょう。
アメリカでは、9日のニューヨーク株式市場で前日比679ドル安過去3番目の下げ幅を記録。終値は8579ドル。03年6月以来の9000ドル割れだといいます。
当然、日本にも波及。今日(10日)の東京市場は、前日比881円安の8276円で引けました。これは実に、5年4ヵ月ぶりの9000円割れだそうです。あのバブル崩壊後の最安値7600円台を下回るのも時間の問題ではないかという、悲観的な予想が関係者の間では囁かれています。
「日本の実体経済を反映していない下げ幅だ。いずれ落ち着くはず」と、政府は沈静化に躍起です。しかし、市場はもう政府の言うことをまったく信用していません。
確かに日本の金融機関は、アメリカのサブプライムローン問題では、それほどのダメージを受けてはいません。しかし、世界中に波及している金融恐慌前夜の状態に、日本政府はまったく有効な政策を示せていないのです。自国の不安を抑え込むような政策が見えません。これでは市場も反応しようがない。
この状態を「政策不況」「政権恐慌」だと呼び始めた評論家も出てきています。つまり、政府が有効な対策を立てられないから、ズルズルとアメリカ発の金融不安に引きずられていくのだ、という意味でしょう。
先週も書きましたが、とにかくこの状況では、国民の将来への不安は増すばかりです。年金、医療保険、税負担など、国民に明確に見える形で有効な対策を示し、それによって国民が感じている将来への不安を払拭し、安心して購買意欲を取り戻せるようにするしか方策はない。
けれど、年金にしても医療制度にしても、抜本的改革案をまったく出せていないのが現在の麻生政権です。後期高齢者医療制度でも、抜本的改革かとりあえずの手直しか、まるではっきりしません。
これでは国民は、特に高齢者は、安心できるはずもない。
麻生太郎首相、ついに「解散など、今の段階では考えていない。それよりもまず景気対策だ」と言い出しました。
「国会の冒頭、堂々と私とわが自民党の政策を小沢代表にぶつけ、その賛否をただしたうえで国民に信を問おうと思う」と勇ましくも『文藝春秋』(11月号)でぶち上げた論文など、まるで忘れてしまったかのようです。その矛盾を突かれた今日の記者会見では、「解散の時期なんかまったく書いていないじゃないか」の一点張りで、あとはシドロモドロ。
先週も書いたように、「もう今年中の選挙は無理。それならできるだけ引き延ばして、任期一杯(09年9月)までやったらどうか」などという、有権者を無視した意見まで、自民党内では流れ始めました。
もう麻生首相本人でさえ、どうしていいのか分からなくなっているのではないでしょうか。
就任直後の(低めの)ご祝儀支持率さえ、どんどん下がり始めています。このまま続けていっても好転する兆しはありません。閣僚の疑惑、自身を含めた幹部の失言、国会での年金問題などへの野党による追及。どれをとってもいい材料などありません。
麻生首相、ほとんど決断するための材料を持ち合わせていないのが実情でしょう。進むことはできず、退くこともうまくいかない。解散のきっかけもない。ジリジリと、追いつめられていくばかりの状況…。
もしかしたら、安倍晋三首相、福田康夫首相に続いて、麻生さんが第3代投げ出し首相にならないとも限りません。
どうにも手詰まりになれば、「ええいっ! もう勝手にしろいっ! 俺の知ったことかあっ!」と、得意のべらんめー口調が出る可能性だって…。
それにしても、民主党には呆れました。
なんと、あれだけ反対していたテロ対策特措法(給油法)の成立を、あっさりと容認してしまったようです。
衆院では与党の賛成多数で可決。参院で野党が否決しても、衆院で例の3分の2条項を用いて再可決。これで給油法は成立してしまいます。つまり、民主党が参院で反対しても、議決(否決)をしてしまえば、それはすぐに衆院に送られ、あとは3分の2条項で与党の思うがままです。
成立を阻止するためには、なんとしてでも法案の審議を長期にわたって行い、60日間引っ張ることが必要なのです。参院否決の場合、60日以内にその法案を衆院で再議決しなければ、それは廃案となります。
さすがに与党も、今国会で60日間は持ちこたえられない。60日間引っ張ることで廃案に追い込む。それしか手はないはず。それが、民意によって参院での多数を与えられた野党が行うべき手段だったはずです。
しかし民主党は、参院で否決することによって、逆に給油法の成立を認めてしまったわけです。「反対」というポーズだけは取るものの、成立阻止の手段を持っているのにそれを使わない。「賛成」したのと同じです。
いま、世界を大混乱に陥れているのは、誰がなんと言おうがアメリカです。反論できる人などいない。
アメリカに「金融不安からの脱却のもっとも重要な方法」として、まず戦争を止めるようアドヴァイスするのが、日本の役割なのではないか。「戦争に使う金があるのなら、それを金融危機に注ぎ込むべき」と、なぜ進言できないのか。
アメリカの戦争に、なおも手を貸そうというのが給油法です。そんな悪法の成立を真剣に阻止しようとしない民主党。
ほんとうに、民主党には失望しました。
なんだか最近、新聞を開くとめまいがします。まるでジェットコースターに乗っているみたい。次から次へとニュースが駆け巡り、とても思考が追いついていきません。
◎ノーベル賞を日本人4人が受賞。
殺伐とした世の中で、ほんの少しホッと嬉しい吐息を洩らしたのも束の間でした。
◎打ち続く世界同時金融危機。
それに何とか歯止めをかけようと、もがいた先進諸国のG7会合。しかし、結局一応の共同声明は出したものの、具体的対策は各国の個別政策に委ねるという、例によって玉虫色の妥協案。これで世界同時経済危機が収束するとは、とても思えません。
「我らの資本主義が勝利した」と、胸を張って見せたアメリカの威光など、もうかけらもない。
しかし、ほんとうに資本主義は勝利したのでしょうか。資本主義に名を借りた金融優先のマネーゲーム。それを世界に広げていったいわゆるグローバリズム。弱肉強食の新自由主義経済。むしろ、その資本主義の敗北(終焉)の場に、私たちはいま、立ち会わされているのではないでしょうか。
◎アメリカによる「北朝鮮テロ支援国家指定解除」。
まさに、抜き打ち。日本はまったく蚊帳の外。なにしろ、11日に米メディアが米政府の指定解除方針を報じてもなお、日本の外務省高官が「まったくの誤報だ」と断言していた(朝日新聞12日)というのだから、そのお粗末さぶりは目に余ります。
「日本に相談もなしに、アメリカが勝手に指定解除するはずがない。必ず事前に連絡があるはず。それは強固な日米同盟を考えれば当然のこと」と思い込んでいた日本政府首脳に、アメリカは冷水を浴びせたのです。
“強固な日米同盟”は、どこへ行ったのか。
これほどコケにされても、麻生内閣は「対テロ特措法」にこだわり、アメリカへの無料ガソリンスタンドを続けようとしています。それを選挙の争点にするとまで言うのです。何度でも書き続けますが、もうそろそろ対米関係を見直す時期ではありませんか。
それにしても、アメリカのダブルスタンダード(二重基準)ぶりは目に余ります。
◎インドとの原子力協定の特別扱い。
原子力供給国(NSG=日米など45カ国参加)は全会一致でインドの例外扱いを承認してしまいました。つまり、核拡散防止条約(NPT)の例外をインドだけに認めてしまった。これではNSGもNPTも、存在する意味がない。
インドという急成長する市場をなんとか引き付けておきたいアメリカの思惑に、日本を始めとする先進諸国が引きずられた結果です。これでは、北朝鮮の「なぜ我が国の核計画を認めないのか」に反論する術はありません。イランの核についても同じことが言えます。アメリカは、自国の都合だけで、リクツをクルクル変えるのです。典型的なダブルスタンダードです。
アメリカはもはや、世界の指導国である資格を放棄したと考えざるを得ません。
こんなアメリカに、世界唯一の被爆国として「核拡散防止」「核廃絶」を主張するのが、日本という国の務めであるはずです。しかし、麻生首相にはその務めを果たそうとする様子など微塵もない。かつて「核武装について議論すべきだ」を繰り返した麻生太郎首相です。核廃絶など考えたこともないでしょう。
この人、被爆国日本の首相にはふさわしくありません。
◎三浦和義氏が、自殺。
10日午後10時(日本時間11日午後2時)、三浦氏が移送先のロサンジェルスで自殺したというニュースが流れました。なんだか、雲の中を彷徨っているような気分です。
あの凄まじいメディア総がかりの「ロス疑惑騒動」に、最後まで耐え抜いた三浦氏が、なぜ自殺などという道を選んでしまったのか。年齢(61歳)とともに、気が弱くなっていたということでしょうか。どうにも解せません。
何かとても、釈然としない、そして不気味なものに絡め取られたような思いがします。
◎世界金融危機、実体経済へまで波及。
世界経済危機は、金融の世界から実業の世界にまで、その魔の手を広げました。
アメリカ自動車産業ビッグ3のフォード社は、所有していた日本のマツダ株を売却して経営危機を乗り切ろうとしていますし、さらにビッグ3の残り2社、ゼネラルモーターズ(GM)とクライスラーが合併交渉に入ったとも伝えられています。ビッグ3の凋落振りは、ただ事ではありません。
しかし、日本の自動車産業も安閑としていられない。これだけの円高が進めば、輸出に頼る自動車産業は大打撃を受けます。事実、日本の各社は、今年の売り上げと収益の見通しを軒並み下方修正しています。そして当然のことながら、それは巨大な規模で抱える下請け(孫請けも)への締め付けとなって現れ始めました。
下請けでは、すでに“雇い止め”(妙な言葉です。なぜ、クビ・解雇と言わないのか。ここにもゴマカシがあります)が始まっています。
最初に“雇い止め”されるのは、派遣労働者です。
今回も、最後に書いておきます。
とにかく、一刻も早い総選挙を行うべきです。しっかりと民意に支えられた内閣を作らない限り、この苦境を脱する方策はないと考えます。
(でも私は、民主党の給油法を巡る動きには、絶対に賛成できません。苦しい選択の選挙にはなりそうです…)
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