第十六回
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今日の新聞は、一斉に麻生内閣支持率の世論調査結果を伝えていた。おしなべて、45~50%ぐらいの数字が出ていた。
以下、各社の世論調査の結果。
産経新聞 44.6%
毎日新聞 45%
朝日新聞 48%
共同通信 48.6%
読売新聞 49.5%
日経新聞 53%
これは、自民党が期待していた数字にはほど遠い。今朝のテレビ(フジテレビ系「とくダネ!」)では、ジャーナリストの上杉隆氏が「衝撃的」な数字であると言っていた。
ふつう、発足直後の新内閣支持率は、ご祝儀相場や目新しさ、期待感などで跳ね上がる。あの第2代投げ出し首相の福田内閣でさえ、発足直後は60%前後の支持を得ていたのだ。
ところがあれほどお祭り騒ぎの総裁選を繰り広げたにもかかわらず、麻生内閣発足直後の支持率は、ほとんど50%に届かなかった。自民党内に衝撃が走るわけである。
「自民党内では、少なくとも60%前後の数字が出るものと予測していた。ところがこの支持率。なにしろ、史上最低支持率首相と言われた森喜朗内閣発足時とほとんど同じ数字なのだから、自民党にとっては、そうとうに深刻な結果だった」
「この数字でさえ、すぐに下がるだろう。特に地方の自民党支持層は、もう投票に行く気もなくしている。世論調査で聞かれれば、とりあえず自民党支持と答えるが、そんな旧来の自民党支持層が、これまで通りに投票所に足を運ぶとは思えない。地方を取材して歩けばすぐに分かることなのだが、いわゆる“小泉改革”は都市部の若年層では一応の評価を得ているけれど、地方では怨嗟の的だ。地方イジメとしか受け取られていない。地方の痛みが自民党を根っこから蝕んでいるのだ」
「とくに高齢者の自民党離れがひどい。本来なら保守的な層だが、例の後期高齢者問題が響いている。彼らは、雪崩を打って自民から逃げている。麻生首相と舛添厚労相のこれからの後期高齢者医療制度についての発言によっては、それに拍車がかかる恐れがある。麻生・舛添の二人は、悪評高いこの制度の『撤廃』を匂わせるような発言をしたにもかかわらず、総裁選が終わるや否や、『数年先の見直し』とか『制度の根幹はこのままで、若干の修正を』などとトーンダウンし始めている。ここを野党が突いてきたら、立ち往生するしかない。その答弁によっては、自民党はもっと悲惨な状況に陥りかねない」
これらは、かつて一緒に仕事をしたベテラン週刊誌記者からの電話情報である。
支持率最低首相=森喜朗元首相には笑ってしまったが、その森氏がなぜかいまや政界のドンに成り上がって(?)いるのは、不思議で仕方ない。「数は力」という派閥の論理はまだ生きているらしい。
それにしても、あの大騒ぎの総裁選、国民はまったく醒めていたようだ。各地方での自民党員の投票率も、軒並み低下していたという。毎年4千円を支払っている党員でさえシラケていたとすれば、一般国民の見る目はそれ以上に冷ややかだったわけだ。
さらに、麻生自民党の足を引っ張る事態が続く。
まず、まるで麻生内閣発足のタイミングに合わせたかのような、小泉純一郎元首相の引退宣言。
小泉氏はまだかなりの人気を保っている。長髪で、オペラや歌舞伎を愛し、レストランでの静かな食事を好み、プレスリーに熱を上げるというタイプの政治家は、旧来の料亭政治を好む自民党政治家との違いを際立たせ、現在まで人気は衰えていない。その小泉氏が退く。これは、強烈に麻生首相の足を引っ張った。
「あの小泉さんさえ、自民党を見捨てた」
「最後は小泉さんの再登板というサプライズがあるかもしれないと思っていたのに、もうそれもない。自民党は終わりだ」
小泉氏にいまだに幻想を抱いていた一部の支持者にとって、最後の切り札さえ消えてしまったことになる。これで、自民党離れは加速する。
さらに、小泉氏はその退き際に禍根を残した。次男の進次郎氏を、後継者に指名したことだ。
なにが「旧い自民党をぶっ壊す!」か。飛ぶ鳥、跡を濁した。息子に地盤を譲るという、もっとも旧い政治の形を踏襲して去っていく。退任の挨拶に訪れた所属の町村派の会合で、「派閥の皆さんにはお世話になった。御礼を言いたい」などと話したという。先祖返り、呆れてしまう。
自民党はなんら変わっていなかった、ということを小泉氏が身をもって有権者に示してくれたわけだ。これが、選挙で自民党に有利に働くはずがない。
意図したのかどうかは分からないが、小泉氏が麻生首相の足を引っ張ったのは間違いない。
中山成彬国土交通相の失言(暴言)が、麻生首相の残った足を、さらに引っぱる。もうここに書くまでもないだろうが、メチャクチャな放言3連発。
「成田空港は地元のごね得」「日本は単一民族」「日教組の子どもは成績が悪くても教師になれる。だから大分県の学力は低い」
まさに言いたい放題。
しかし、中でもとくに問題なのは、日教組批判で言及した「学力テスト」に関することだろう。中山氏はかつて小泉内閣の文部科学大臣であり、この「学力テスト」実施を強力に推進した張本人であった。その中山氏が次のように述べたのだ。
「日教組が強い地方では生徒の学力が低い、ということを明らかにするために『全国学力テスト』を実施したが、それが証明されたから役目は果たした。もうこのテストは止めてもいい」
これは凄まじい発言だ。
一国の教育行政をあずかる大臣が、日教組という合法的な労働組合を“ぶっ壊す”ためだけに、自らの権限を行使して「学力テスト」を行った、と言ったわけだ。
こんなデタラメなことがあるだろうか。たった一人の個人的な思想(というより、思い込み)を国家の機構を勝手に使って実現しようとする。まさに、許されざる考え方であり行動である。
この中山大臣、考え方は極めて麻生首相に近いと言われているが、麻生内閣に大きなダメージを与えた。選挙戦にも悪影響を及ぼすのは必至だ。なぜ、近しい考えを持った首相の足を引っ張るようなことをしたのか、訳が分からない。
いったいなんなんだ、この人?
もうひとつ、火種をこしらえたのは当の麻生首相。ほとんど聴衆のいない(各国とも米国金融危機問題の対応に懸命で、麻生首相の演説などには関心が集まらなかったらしい)国連本会議での演説に興奮したのか落胆したのかは分からないが、その後の会見で持論を展開。
「憲法の解釈変更で、集団的自衛権行使を容認できるようにするべきだ」と語ったのだ。
これは、安倍晋三元首相がぶち上げて物議を醸し、福田康夫前首相が争点にならぬように封印したいわくつきの課題である。
イラクからアフガニスタンへ戦線転換しようとしているブッシュ大統領にとっては、とてもありがたいことだろうが、日本がこれまで以上にアメリカの世界軍事戦略に組み込まれる恐れがある、ということを意味する。
金融危機で、軍事費の見直しを迫られているアメリカにとって、この麻生首相の考えは、それこそ渡りに舟に違いない。だが、11月4日の米大統領本選挙での結果によっては、これが逆目に出ることは十分に考えられる。ユニラテラリズム(一国覇権主義)が崩壊しようとしているアメリカに、それでもまだへばりついていこうとする日本国首相。
これも、選挙では争点のひとつになるに違いない。
続々と、閣僚たちの金銭疑惑が浮上している。
中川昭一財務金融相、小渕優子少子化担当相、問題の渦中の中山国交相、内閣の要であるはずの河村建夫官房長官…。 問題ある企業からの献金疑惑などが発覚し始めたのだ。
これらの難題を抱えて、麻生首相は解散をどう決断するのか。しかし、総選挙の時期がいつになるにせよ、自民党の勝利はほぼなくなったと見られている。
9月29日(月)あめ
中山成彬国土交通相についての話など、もう書きたくもないが、28日にとうとう辞任した。たった5日間の大臣の椅子。
連立相手の公明党から激しい批判が出ていたし、自民党内部からも、もういい加減にしてくれ、これでは選挙が戦えない、と悲鳴に近い批判が上がっていた。石破茂農水相などは、名指しで中山氏を批判していた。
麻生首相も、更迭やむなし、に傾いていたというから、辞任は時間の問題だったのだろう。しかしそれならなぜ、辞表を受け取らずに罷免しなかったのだろう。首相の本音としては、ウヤムヤにしたかったのではないか。実際、この件についての記者たちの“ぶら下がり取材”を、首相は拒否し続けていた。
この中山氏、27日の地元宮崎県の自民党支部の会合で、またも日教組批判(批判というよりは罵倒である。政治家の品格など求めるほうが無理か)を繰り返した。懲りない、というよりほとんど開き直り。
「日教組をぶっ壊せ」とか「日教組撲滅の先頭に立つ」「火の玉になる」などなど、最近では右翼の街宣車からさえ聞こえてこないような言葉を連発。もはや常軌を逸した観さえある。
「もう辞めてやるんだから、言いたいことを言ってやる。責任を取ったんだから、文句はなかろう」か?
みっともない。
とにかく「日本が悪くなったのは、全部日教組が悪いからだ。拝金主義が蔓延したのも、他人を思いやる心を失ったのも、少年の凶悪犯罪が増えたのも(こんなデータはないのだが)、すべて日教組教育のせいだ」と喚くのだから、恐れ入る。
27日に記者団から進退を問われた中山大臣、「妻と相談して決めたい」と答えた。妻とは、奇妙なほどの物静かな口調で強硬意見を述べる中山恭子拉致担当首相補佐官のこと。
夜、ふたりはどんな相談をしたのだろうか。
次のような記事があった。
中山氏は27日夜、拉致問題担当首相補佐官を務める妻の中山恭子参院議員に辞任について相談したことを明かした。恭子氏からは「辞任は仕方ないわね。日本の教育を考えるいいきっかけになるといいね。前向きに考えましょう」と言われたという。
(朝日新聞9月29日)
さすがにご夫婦、ふたり揃って何の反省もない。夫君の暴言を諌めることもなく、むしろそれを煽るようなことを言う奥様。
「なんでもかんでも社会のせいにするな、自己責任じゃないか」と言うのが自民党政治家の、格差問題やワーキングプア問題についての常套句だが、「なんでもかんでも日教組のせい」というのが新しいパターンなのか。
こんな人物が日本の教育行政のトップに君臨していたのだから、背筋が冷える。
世界の金融不安を歯牙にもかけず、日教組だの集団的自衛権だの解散時期だのと、私たちの国の政治家たちは、いったい何をやっているのだろう。
この中山“辞任”大臣も、先日辞任した太田誠一前農水相と同じ。
「きちんと責任は取った。潔い出処進退だ」ということを振りかざして選挙を戦うつもりなのだろう。
もしそれで当選するとしたら、言う言葉もない。
アメリカ下院が「金融法案」を否決した。
金融不安を何とか食い止めるために、75兆円というとてつもない公的資金を投入して、経営破綻に陥っている金融機関を救おうとしたブッシュ大統領の窮余の一策だったのだが、ブッシュの共和党すら反対票が賛成票を上回り、結局否決された。
「国民が疲弊しているときに、膨大な年俸を得ているような経営者の金融機関に、なぜ75兆円もの(国民の税金である)公的資金を注入しなければならないのか」というしごく真っ当な意見を、ブッシュ大統領以下の政府が突き崩せなかったのだ。
なにしろ、この政策の責任者のポールソン財務長官その人が、ゴールドマン・サックスという金融会社のCEOだったのだから、何をかいわんやである。
当然、「自分の経営失敗の尻拭いを国民の税金でしようというのか」との批判も出てくる。
下院の否決を受けて、29日のアメリカ市場は大混乱に陥った。金融株を中心に、777ドルの大暴落。これは、あの1987年10月19日の世界同時株安の引き金になった「ブラック・マンデー」を上回る大暴落だ。
日本の株式市場も引きずられて大暴落。さらに、全世界の株式市場に波及し始めている。
アメリカの状況は、昨日(29日)には麻生太郎首相にもそれなりにリポートされていたはず。全体像まだ分からなくても、かなり危機的状況にあるということぐらいは伝わっていたはずだ。しかし、あの所信表明演説は一体なんだったのだろう。
民主党へのむき出しの敵意、それだけの演説。
アメリカに端を発する世界金融不安が、さらに金融恐慌へ近づきつつあるというときに、そのことへの対処策も何もなく、ただただ選挙を意識した野党への挑戦状。
麻生首相は「省益よりも国益を考えろ!」と官僚たちに檄を飛ばしたというけれど、「党益よりも国益を」という言葉を麻生首相にお返ししたくなる。
この危機を打開するために、総選挙を遅らせて与野党協議の政治状況を作るべきだと主張する方もいる。だが、もはやそんなことではこの国の政治は立ち行かなくなっている。
一刻も早く総選挙を行い、きちんとした民意の反映を受けた新しい政権を組織し、その内閣で一から政治をやり直すしかない。うまくいくかどうかは分からないが、それ以外の選択肢はない。
切実に、そう思う。
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