第十四回
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少ししつこいようだが、また原子力発電について触れてみる。
これまで電力会社も政府行政も、原発の優位性の理由のひとつとして「原発で生み出される電力の原価が、他の発電システムに比較して非常に安い」ということを挙げていた。
つまり、原発では60年間稼動可能(こんな長期にわたる運転は史上に例がなく、老朽化に耐えられるか疑問視されているのだが)として、1Kwhあたりの発電原価は約6円になると説明されてきた。(これにはまやかしがあって、電源開発促進税という税金が無視されているが、説明が煩雑になるので、ここではそれについては触れないでおく)
これに対し、LNG火力発電の原価は約6.5円とされている。また水力やその他の発電原価も、これ以上と試算されているので、原発は価格的にも優位性がある、と説明されてきたのだ。むろん、電源開発促進税はほとんどが原発建設のために使われているのだから、この試算自体に問題はある。
しかし、その試算を百歩譲って正しいものとしても、試算自体がくるってくるような事態が起きてしまったのだ。
原発電力は決して安くなどない、ということが証明されるような事態が…。それは、原発本体の維持管理費、事故対応費に関する問題であった。以下の記事を読んでほしい。
中部電力は10日、06年に発電用タービンの損傷事故で停止した浜岡原発5号機(静岡県御前崎市)について、タービンの設計・製造元の日立製作所を相手取り、総額418億円の損害賠償訴訟を東京地裁に起こすと正式発表した。原発停止中に割高な火力発電の代替運転によって生じた「逸失利益」の支払いを求めている。
損害の補償について、日立はタービンの復旧費用約200億円を負担。しかし、原発停止を受けて緊急的に稼動させた火力発電の燃料費など、二次的な損失についての補償交渉が決裂。中部電は10日の取締役会で提訴を決めた。17日までに提訴する方針だ。
発電設備の損傷などによる事故で、電力会社が法的措置に踏み切るのは初めて。(中略)
裁判で事故による逸失利益の補償まで認められると、(日立の)今後の経営に重大な影響を与える可能性がある。
(朝日新聞9月11日)
これまで、一蓮托生二人三脚で、原発推進に突き進んできたメーカーと電力会社が、「金の問題は別」とばかりに、ついに訴訟にもつれ込んだのだ。
考えてみれば、こういう恐れは常にあった。つまり、原発というのは、他の発電設備とは一桁も二桁も違う巨額の設備投資を必要とする、まだ確立されていない危険な技術なのだということが、ここで明らかになったわけだ。一旦、事故が起こってしまえば、ほんとうに莫大な修復費用が必要となる。それは、火力や水力発電などの比ではない。
さらに、これが仮に、人体に影響を及ぼすような事故(すでに東海村などで例がある)だったとすれば、この程度ではすまない負担を、電力会社もメーカーもしなければならないことになる。
今回の事故処理にかかる費用で、上記の記事のように、日立製作所という世界屈指の電機メーカーの経営に影響が出るとするならば、そのような危険な技術とはいったいいかなるものなのか、という根源的な疑問さえ持たざるを得ない。
このような事故の可能性を内在しているのであれば、その対策に充てる費用は常に確保しておかなければならない。それは、結局は電気代に上乗せされることになる。
「原発での電力原価は安い」というのは、「常に何の事故もなく安定的に原発が運転されている」という前提にたっての話(前述のように、これも怪しいのだが)である。
しかし、この前の新潟県中越沖地震による柏崎刈羽原発の損傷の修復費用など、ほとんど天文学的数字になるだろう。その費用はどうやって、誰が負担するのか。
私は、この柏崎刈羽原発は、廃炉にするべきだと思っている。近くを走っている活断層の認定さえ、何度も覆るような場所に、原発など建てるべきではないのだ。
上記の記事によれば、この浜岡原発5号機1基分の損失が、中電の請求分418億円、既に日立が支払った200億円を加算すると618億円ということになる。これが、たった1基分の損失費用なのだ。
柏崎刈羽原発は7つの原子炉をもつ、世界最大級の原発である。これが地震によって7号機すべてが停止中だ。
浜岡のたった1基の損失が618億円。ならば、この柏崎刈羽では、単純計算してもその7倍の損失、約4千億円を超えることになる。むろん、中越沖地震では、原子炉本体のタービン、燃料棒挿入のためのクレーン、原発建屋、その他凄まじい損壊を受けている。とても浜岡のタービン損傷事故などと比較できるような規模ではない。
だとすれば、その被害額は4千億円をはるかに超えることになると考えられる。
まさか、東京電力が「地震予知が未熟だった」として、気象庁や地震予知連絡会を訴えるわけにもいくまい。それは明らかに、我々の電気代に上乗せされることになる。
原発電力が決して安価ではないことの、証拠である。
9月13日(土)はれ今朝の新聞で、目につくインタビュー記事がふたつあったので、それを紹介したい。
ひとつは、朝日新聞の「ひと」欄の、沢田研二さん。以下、引用します。
麗しの国 日本に生まれ 誇りも感じているが/忌まわしい時代に 遡るのは賢明じゃない/英霊の涙に変えて 授かった宝だ/この窮状 救うために 声なき声よ集え
変わらぬ艶のある声。バラード風の歌は自身の作詞だ。毎年ライブツアーを重ね、新作アルバムを出す。還暦を迎えた今年のアルバムの9番目はこの歌だ。題は「我が窮状」。
耳で聞けば、「このキュウジョウ救うために」となる。
まぎれもない憲法9条賛歌だ。
なぜ今?
「60歳になったら、言いたいことをコソッと言うのもいいかなと。いま憲法は、改憲の動きの前でまさに『窮状』にあるでしょう。言葉に出さないが9条を守りたいと願っている人たちに、私も同じ願ですよというサインを送りたい」
平和への関心は昔から強い。ある時、バンド仲間と戦争の話になり、一人が喧嘩にたとえて言った。「攻められたら、守るだろう」
いや、一対一の喧嘩と、国と国は違う。そう思い至ったときに「少しプチッとはじけた」。戦争には、望まない人まで巻き込まれる。
これまでも「9条を守ろう」という文化人らの意見広告やアピールに時々、目立たないように賛同してきた。大声で呼びかける柄じゃない、と笑う。歌はソフトに終わる。
この窮状 救えるのは静かに通る言葉/我が窮状 守りきりたい 許しあい 信じよう
インタビュアーは藤森研さん。この人、朝日新聞論説委員であり、紙面に長期間連載し、最近単行本化された『新聞と戦争』のとりまとめを行った方です。
朝日新聞があの戦争で果たした役割、その責任や罪を、きちんとし検証した、ある意味では自社の恥部をさらけ出した勇気ある本といえます。
そういう人が、憲法9条の意味を、還暦のアイドル・ジュリーとともに探ったのです。
欧米では、ムービースターやアーティストたちが政治的な主張を公にする例は、けっこう多いのです。ひるがえって日本では、同様の人たちが「政治的発言」(憲法を守れ、というのが政治的である、と言われる世の中のほうがおかしいと思うけれど)をすることはほとんどありません。
まず芸能事務所が、その種の発言をしないように所属タレントに釘を刺します。だから、タレント諸氏にその類のインタビューを申し込んでも、ほとんどの場合、事務所の段階で拒否されます。さらに、テレビ局がその手の発言を極端に嫌う、という事情もあります。自民党サイドや右派系の人たちからの抗議を恐れるあまりの自己規制です。
テレビに出演することが最高の仕事と考える事務所のマネージャーたちは、そんなテレビ局の自己規制に反するようなことはできません。テレビ局の意向に反すれば、所属タレントの出演の機会が減らされる恐れがあるからです。
テレビへの依存度が比較的少ない舞台俳優などが、ときおり政治的発言をするのは、そのような事務所の抑えつけがあまり厳しくないせいなのです。
個人的には色々な考えを持っていたとしても、そのような事情から、スターたちのその種の発言が表に出てくることは、ほんとうに稀なのです。
そんな中にあって、この沢田研二さんの発言は、見事というしかありません。むろん、それができるだけのしっかりした地歩を築いたからだ、とも言えますが。
沢田研二さん、ほんとうにいい年齢を重ねてきたのだと思います。少し髭面のジュリーの写真(撮影・松沢竜一)、とても嬉しかったです。
午後から出かけます。帰りがけに、ニューアルバム『ROCK'N ROLL MARCH』を買ってこようと思います。
ふたつ目の記事は、毎日新聞の国際面。
「9.11再考」という続きコラムの本日(13日)分です。
オレン・ライオンズさんという、78歳の米先住民指導者へのインタビュー。
―7年前の同時多発テロで感じたことは。
◆当時、米国人は「本土への初攻撃だ」といきり立った。しかし、我々先住民は欧州から来たキリスト教徒に攻撃され、大勢が殺害された。この大陸は何度も攻撃されてきたのだ。「初めて」と主張する思考に改めて白人中心の視点をみた。
―テロ直後の米政府の反応は。
◆事件当日、私たちは大統領に手紙で「テロリストと同じやり方で仕返しすべきではない」と忠告した。テロは米国の政策に対する攻撃だったのに、犯人探しばかりで、攻撃の理由を問う議論は無かった。「誰」よりも「なぜ」を考える必要があった。
―この7年間の対応をどう見るか。
◆ブッシュ政権の「対テロ戦争」は誰をテロリストとするか定義していない。我々はかつて自らを守るため、欧州からの侵入者と戦った。だが、侵入者の中には我々の行為を「テロ」と呼ぶ者もいた。国民は「テロ」と聞けば恐怖心を抱く。政府は政策遂行のため恐怖心を利用している。
―「対テロ戦争」の「成果」は。
◆イラク戦争開戦時、フセイン政権は既に弱体化し、国際社会への脅威ではなかった。石油のための戦争であり、ブッシュ大統領は無用の戦争で米国の信頼を失墜させた。
―次期政権に期待することは。
◆なすべきは「テロとの戦い」ではなく、「人類生存への闘い」だ。地球環境こそ待ったなしの問題で、新しいエネルギーを開発し石油依存時代に終止符を打つ必要がある。次期大統領は、人類がいかに生き延びるかを考える任務を負っている。
オレン・ライオンズ氏は、ニューヨーク州立大学で先住民史を教え、国連などで世界の先住民権利擁護運動に携わってきた人物。そのような人から見れば、ブッシュ大統領の対テロ政策(戦争)は、結局「白人中心史観」にしか映らないのでしょう。
コロンブスの「新大陸発見」が、本質は「白人の知らない大陸への到達」でしかなかったことを認めず、いまだに「新大陸発見」などと称してやまない尊大な人々への、厳しいけれど正当な異議申し立てです。
しかしアメリカは、イラクやアフガニスタンで、いまも同じ過ちを繰り返している。その過ちの根底にあるものを、ライオンズさんはしっかりと見通しているのでしょう。
アメリカの巨大証券会社リーマンブラザーズが、9月15日、連邦倒産法第11章(日本の民事再生法に当たる)の適用を連邦裁判所に申請、事実上倒産した。
このリーマンブラザーズは総資産60兆円を超える巨大証券会社で、アメリカの5大証券の第4位に位置する。
(ちなみに、5大証券とは、1・ゴールドマンサックス、2・モルガンスタンレー、3・メルリリンチ、4・リーマンブラザーズ、5・ベアスターンズ)
このうちのメルリリンチも経営危機に陥っており、バンク・オブ・アメリカというアメリカ第2位の銀行に買収された。また、第5位のベアスターンズも、今年3月、経営危機に陥りFRB(米連邦準備制度理事会、日本における日本銀行に相当)が公的資金をつぎ込んで救済した。
つまり、5大証券のうち3社までが経営破綻に追い込まれているという惨状なのだ。あのサブプライム問題に端を発したアメリカ経済の底なしの金融不安は、ついに来るところまで来た、という状況なのである。
この金融不安が世界に波及しないわけがない。さっそく日本でも連休明けの株式市場は、605円という極端な下げとなり、1万2千円をあっさりと割り込み、今年の最安値を更新した。
欧米やアジア市場でも、軒並みの安値更新。
当然、極端なドル安に振れ、円は逆に高騰している。となれば、輸出に頼る日本経済は、膨大な損失をこうむることとなる。特に、輸出産業の象徴のような自動車産業が大打撃を受けることは間違いない。これに、ガソリンの高騰が拍車をかける。
株安で行き場を失った投機マネーが、値下がりし始めた原油市場に再び参入し始めている。一旦、値下がり傾向を見せた原油だが、これでまたも高騰するのは必至。
かくして、円高、株安、ガソリン高騰、輸出停滞、景気低迷…。まるで絵に描いたような陥穽である。
こうなれば、またしても企業の側から雇用調整が叫ばれ始める。あまりの格差拡大に、さすがに雇用形態の見直しを始めた企業も出てきてはいたのだが、これでまた元の木阿弥。使い捨て労働者を確保するために、日雇い労働やら派遣拡大など、労働環境悪化政策に舵を切り直す企業も出てくるだろう。
こんなときにこそ、ほんものの政治が必要なのだ。ところが、現状はどうか。
政治空白を自ら創り出した、茶番劇にもならない自民党総裁選。こんな危機的状況にあってもなお、なんの具体的な経済政策も打ち出せず、相変わらずのバラマキ景気刺激策、痛みを伴う改革続行、上げ潮政策、国益のための給油法続行など、わけの分からぬお題目を、5人揃って街宣車の上から唱えるばかり。
しかも、この期に及んでまだ、アメリカとの協調路線が日本の進むべき道だ、と口角泡を飛ばすのだ。
サブプライムローン問題を抱えてもなお、イラク戦争を対テロ戦争と位置づけ、今度はその戦線をアフガンに拡大しようとするアメリカ。この膨大莫大天文学的な戦費調達が、今回のあらゆる経済問題の根底にあるのは分かりきった事実なのに、あえてそこに目を瞑り、アフガン戦線拡大に協力しようとする自民党。
もうそろそろアメリカとの関係を見直すべき時期に来ている。そして、とにかくアメリカに、もう戦争はいい加減にしろ、というべきなのだが、そんな勇気ある政治家は、少なくとも自民党にはいないらしい。
それが当然の政治的視野だと思うのだが、自民党の、それも総裁候補という実力者たちは、巨大な影に脅えきったままなのだ。影は影にしか過ぎないというのに。
ここに、国民のための政治などありはしない。
残念なのは、民主党も同じ。小沢代表の国替え(江戸時代か、まったく)や、さらには、相も変らぬ有名人引っ張り出し作戦で、なんとかメディアの関心を引き付けようとする選挙対策。
いまやらなければならないのは、そんな姑息な手段ではない。この未曾有の経済危機にどう対処するのかの具体的方策を、国民の前に分かりやすく説明することではないか。
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