080903up
今週は、うまく書けそうもない。
8月が終わる。いろいろな出来事が、堰を切ったように溢れ始めている。国内でも、世界でも…。
アメリカ民主党の、まるでお祭騒ぎのような大統領候補指名大会(8月26日~29日)。涙を流して「USA!USA!」と叫ぶ人々が、テレビ画面に大写しになる。
アメリカ初の黒人大統領が誕生するかどうか。
この日8月28日(1963年)は、1968年4月4日に暗殺された黒人指導者キング牧師が、ワシントン大行進のなかで、「I have a Dream」という、有名な演説を行った日でもあった。オバマ陣営の、それを意識した演出だったという。
共和党は、9月1日~4日に大統領候補指名大会を開く。ここでも同じように、涙ながらの「USA!」が連呼されるだろう。
マケイン氏は、ヒラリー・クリントン氏が獲得した女性票を意識して、副大統領候補に、サラ・ペイリン氏(44歳)という女性のアラスカ州知事を指名した。
ただし、彼女はヒラリー氏とはまったく考え方が違う。全米ライフル協会の熱烈な支持者であり、同性婚や妊娠中絶に強固に反対する保守派でもある。
マケイン氏は、旧来の共和党本流とはやや肌合いが違い、一匹狼と言われ、リベラルな政策も時には口にする。だから、いわゆる草の根保守の「宗教右派」層には、あまり人気がない。ヒラリー・クリントン氏に熱狂した女性支持者の票に加え、草の根右派層の票をも、女性候補のペイリン氏で取り込もうという、一石二鳥の作戦らしい。
ロシアのメドベージェフ大統領が、26日のテレビ演説で、「南オセチア自治州とアブハジア自治共和国の、グルジアからの独立をロシアは承認する」と発表して、アメリカやEU諸国の猛反発を招いている。
このあたりは、ナショナリズムを肯定する側と否定する側が、まるでオセロゲームのようにひっくり返る。
大ナショナリズムのロシア、独立国家としてのグルジアのナショナリズム、少数民族のナショナリズムを呼号する南オセチアとアブハジア。少なくとも、3つのナショナリズムが、自分たちの都合のいいように使われている。どれが正しい、と言えるはずもない。
そこへ、エネルギー供給や資源問題のために、介入せざるを得ないEUとアメリカ。
同じナショナリズムを掲げながら、それぞれの利害が入り乱れて収拾がつかない。
8月20日、アメリカとポーランドは、MD(ミサイル防衛)配備に基本的合意文書に調印した。これには、逆にロシアが挑発行為であるとして猛反発。
さらには、同20日、グルジアへの援助物資を積んだとされる米第6艦隊のイージス艦マクフォールが、黒海のグルジア沖に到着。これに対し、ロシア軍艦船も黒海を航行して米艦を監視するという、一触即発状態。
デジャブ。ほんとうに、かつての冷戦時代に戻ったような緊迫情勢である。
日本国内では、民主党の渡辺秀央、大江康弘、姫井由美子参院議員らが、無所属の2議員とともに、5名で新党結成に踏み切るというニュース。えっ、姫井議員?
ところが、29日になって、姫井議員は新党参加を見送った、という記者会見を開いた。なんなのだろう、これは。
残り4名。5名という政党成立要件が、これで消えた。とりあえず彼らが立ち上げた新党「改革クラブ」に、政党助成金は配分されない。
28日には、杉村太蔵自民党議員の公設秘書が自殺を図ったというニュースも流れてきた。何があったのだろうか。
太田誠一農水相は、失言問題に加えて、事務所費問題までもが表面化。追いつめられた福田内閣にとっての、とどめに一撃になりかねない、という解説も目にした。
そんな観測を否定しようと、29日、太田大臣は領収書の束を両手に掲げて釈明会見を開いたが、全経費の7割分しか示せず、さらに人件費にいたっては、「プライバシー保護」のためまったく明らかにしなかった。
同じく29日、政府自民党は、公明党の圧力に屈して(?)「定額減税」に踏み切る、と決めたという。解散総選挙が近いことをにおわせる決定。
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さまざまな、しかし、相変わらずともいえる出来事たち。
これらのことはそれぞれに、確かに重要なことに違いない。しかし、いま、そんなことはどうでもいい、と思ってしまう。
26日に起きた「ペシャワール会」の伊藤和也さん殺害事件ほど、心に重いニュースはほかにない。
イスラマバードの空港で、伏し目がちに、しかしきっぱりと、
「それでも我々は、伊藤君の遺志を継いで、アフガンでの事業は継続していきます」と語った、中村哲医師の切ない口調が耳についてはなれない。
28日、ようやく会えた伊藤さんの遺体に向かって、小さく敬礼をする小柄な中村さんの体が小刻みに揺れていたのを、テレビカメラは捉えていた。
福岡のペシャワール会事務局で、伊藤さんの死を報告しながら、思わず大粒の涙を流して声を詰まらせた、福元満治事務局長の震える肩を、何度も思い出す。
中村さんには、何度かお会いした。インタビューもさせていただいた。その際に、福元さんにもお目にかかっている。お会いして話を伺うたびに、なぜこれほどまでに、他人のため、他国のために献身できるのだろう、と不思議にさえ思ったことだった。そして、こんな日本人がいることを、誇りにも思ったのだ。
そのおふたりの、あんなにも辛そうな表情は、真実、見たくなかった。おふたりがあれほど愛した伊藤和也さんは、ほんとうに素晴らしい青年だったのだろう。
無念さが、零れ落ちる。
それでも中村さんは意志を捨てない。
現地の日本人スタッフはすぐにでも帰国させるが、しばらくは中村さんご本人がひとり残って、現地スタッフとともに事業の継続に当たるという。ほんとうに、この人の誠実さは…。
ただひとつ、ホッとすることがある。
あの忌まわしい「自己責任論」が、今回は各メディアからもネット世界(ここでは多少あるようだが)からも、ましてや政治家たちからもあまり聞こえてこないということだ。
それだけ、ペシャワール会の現地に根付いた活動が、日本中に知れ渡っていたということだろう。
一切の武力に頼らず、飢餓に苦しむ人々の生きることへの手助けに、ひたすら井戸を掘り、水路を造り、農業を指導する。その活動があったからこそ、1千人を超す村人たちが、自主的に伊藤さんの救出活動に立ち上がったのだ。
それだけに、伊藤さんの死は、よけいに悔しい。伊藤さんを襲った人間たちは、伊藤さんとともに働いた自らの同胞をも裏切ったことになる。伊藤さんの死が、銃撃戦の中の不慮の災難だったのか、犯人グループによる意識的な殺害だったのか、それはまだ分かってはいない。しかし、いずれにせよ、誘拐したというその行為は、強く非難されなければならない。
想いを、伊藤さんの葬儀で涙を流した村人たちと、共有する。
そして、これだけは、書いておく。
伊藤さんの死を、政治的に利用することなど、絶対にしてはならない。すでにその兆しが見え隠れしている。
「マガジン9条」でコラムを連載している東京外国語大学の伊勢崎賢治教授は、「日本は武力介入していないという『美しき誤解』が、次第に崩れつつある」と語っていた。(「マガジン9条」の講演会・8月10日)
「美しき誤解」は、そのままで残しておきたい。「誤解」が「正解」に変わる日まで。
少なくとも、伊藤さんやペシャワール会の人たちが行ってきた事業は、飢えに苦しむアフガニスタンの人々への「ほんとうの平和貢献」だった。
今回は、書くのがとても辛かった。だから、ここで止めるつもりだった。
しかし……。
昨夜(1日)、録画しておいた映画を観ていた。突然、電話が鳴りました。ある雑誌の編集者からだった。
「驚きましたね、どういうことなんでしょう」
「は? 何のこと?」
「えっ、知らないんですか? テレビ、観てないんですか?」
「観てますよ、映画」
「福田首相が、辞めちゃったんですよ」
「ん……?」
「ニュース観てください。世の中、大騒ぎですよ」
寝耳に水、というやつ。ま、録画だから、続きはいつでも観られる。すぐに、チャンネル・ザッピングを開始した。特別番組を組んでいる局と、相変わらずのバラエティーで大騒ぎの局があった。
確かに衝撃的なニュースだけれど、昨年の安倍晋三首相に続く2度目の「投げ出し辞任」となれば、特別番組を組むほどじゃない、と判断した局もあったということか。
それにしても、どういうことなのか、理由がさっぱり分からない。事情を聞こうと電話してみた数人のジャーナリストたちも、もう大慌ての状況で、携帯はつながらない。当然です。
留守電に「手が空いたら、折り返してください」と入れるのが精一杯。
それでも深夜になって、ふたりの知人から連絡があった。ふたりともベテランのジャーナリストなのだが、それでもまったく気配は感じていなかったと言う。
「9時半から福田さんの記者会見がある、と連絡を受けたんだけど、福田さんは、その前の定例会見をキャンセルしていたから、何かあるかな、とは思っていた。でもそれは、多分、太田農水相の更迭の発表じゃないかと思ったんだ。せっかくの内閣改造に泥を塗った太田氏に、大分ご立腹という噂を聞いていたから。
じゃあ、次の農水大臣には誰になるのか、なんて仲間内で議員名簿に当たったりしていたほどだ。
ぼくはこの時期の福田さん自身の辞任なんて、考えもしなかったな。『いまが辞任の最善のタイミング』と福田さんは言っていたけど、その意味もさっぱり分からない。『最悪のタイミング』というのなら分かるけど。だって、内閣改造(注・8月2日)からたったの1ヵ月だよ。新内閣では、まだ何も仕事が始まっていない。それがなんで『最善のタイミング』なの。ワケ分かんない。
まさか、9月1日という区切りがいい日付のタイミングを選んだ、なんてことじゃないと思うけどね(苦笑)」
「総理辞任とは、予想もつかなかった。これでは、安倍さんと何も変わらない。辞任会見ではいろいろと理由を述べていたけれど、結局、民主党に苛められたから、としか聞こえなかった。
しかし僕は、福田さんの本音は、公明党に対する怒りじゃないかと思う。総理でありながら、臨時国会の召集日さえ、公明党の意向に添わなければならなかった。自身は反対していた『定額減税』まで、公明党の要求でのまざるを得なかった。プライドの高い福田さんとしては耐えがたかったのだろう。あれは、福田さんなりの、公明党に対する抗議だったと思わざるを得ない。
記者会見の最後に、ある記者の質問に対して、福田さん、『他人事のように、とあなたはおっしゃったけど、私は自分自身のことは客観的に見ることができるんです。あなたとは違うんです!』と、珍しく気色ばんでいた。あそこに総理の悔しさがにじみ出ていた気がする。ふだんは、あんなことを言う人じゃない。
そしてあれが、『私には自分なりの考えがある。あんたたちの言いなりにはならないよ』という、福田さんの公明党に対する最後のメッセージじゃなかったか、とも思うんだ」
なるほど、そんな見方もあったんだ。
確かに、福田首相のあの最後の一言は、テレビで観ていても異様な感じだった。フッと顔色が変わって、唇が歪んだ。それまで抑えつけていた感情が、最後に噴き出してしまったのか。
さっそく、後継の自民党総裁(その人が総理大臣になる)選挙が始まる。
民主党党首選が小沢一郎氏の無投票三選で決まり、無風状態にあるのに対し、自民党が数人の立候補による派手な総裁選をぶち上げれば、メディアの関心を独占できる。
それを狙って、民主党党首選が予定されている9月21日前後(20日か21日)に、自民党は総裁選をぶつけるスケジュールを立てている、という情報も流れて来た。無風の民主党党首選より、派手な自民党総裁選のほうがメディアは乗りやすい。特に、テレビは自民総裁選一色になるだろう。
そして、その派手さに華やかさを加えようというのが、女性候補待望論。小池百合子氏や野田聖子氏の名前が、早くも取沙汰されている。
これまた、テレビにとってはおいしい絵になる。テレビがおいしがれば、自民党もまたおいしい。
しかし、メディアの騒ぎとは別に、結局は麻生太郎自民党幹事長で決まりと、ほとんどの人が思っているようだ。前述のジャーナリストの意見も、そこでは完全一致。新聞もテレビも、その観測で足並みは揃っている。
福田首相が、先の党内人事で麻生氏を幹事長に起用した裏には、この「総裁禅譲の密約」があったからだ、とも噂されている。真偽のほどはよく分からないけれど、結局、政権のたらい回しであることだけは事実。
なにはともあれ、これで選挙の洗礼を受けない首相が、3代続いて誕生することになる。口を開けば、民意民意と唱える政治家たちが、「選挙という最大の民意」を無視して権力のたらい回しを続けることには、なぜか矛盾を感じない。
今回の辞任騒動で、いちばんホッと胸を撫で下ろしているのは、太田誠一農水相かもしれない。これで、疑惑報道がどこかへ消し飛んでしまった…と。
しかし、私たちがもっとも注視し続けなければならないのは、やはり次期自民党総裁である。
麻生太郎氏が最有力という下馬評だ。とにかく選挙の顔は国民的人気のある(そんなもの、アキバ以外にほんとうにあるのか?)この人しかいない。公明党幹部さえ、そう判断して麻生氏の自民総裁就任には賛成の意向だという。
麻生氏の考え方は、公明党の「反戦・平和・福祉」の旗印とは、真っ向から対立するはず。これまでの言動からみて、麻生氏が自民党内でも屈指のタカ派であることは間違いない。そんな麻生氏であっても、公明党は選挙対策のために、なりふり構わず麻生氏支持に回るのか。
政治が壊れていくわけです。
一刻も早い解散総選挙を望みます。
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