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その39
2005年12月9日の讀賣新聞夕刊より

民主 前原氏 米で講演
シーレーン防衛「憲法の改正も」
中国の軍備増強「現実的脅威だ」

民主党の前原代表は8日午後(日本時間9日早朝)、ワシントンの戦略国際問題研究所(CSIS)で講演し、日本に食糧やエネルギーを運ぶシーレーンの防衛について、「死活的に重要で、米国に頼る(日本周辺の)1000カイリ以遠についても日本が責任を負うべきだ」と訴えた。その上で、「これを可能にするには、憲法の改正と自衛隊による活動および能力の拡大が必要になるかもしれない」と述べ、シーレーン防衛拡大のための憲法改正に積極的な考えを示した。
<中略>
「現在は集団的自衛権の行為と認定され、(政府が)憲法上行えないとしている活動について、(行使できるように)憲法改正を認める方向で検討すべきだ。集団的自衛権の行使は、日本の主体的判断に基づいて行われるべきだ」と強調した。
また、中国の軍事的増強・近代化を「現実的脅威だ」とし、東シナ海で進めるガス田開発に対しては、「毅然とした対応が重要だ。(中国が)既成事実を積み上げるなら、日本としては、係争地域での試掘を始めざるを得ない」と語った。
<後略>

この前原さん、なんで民主党にいるのでしょう。これだけはっきりと「憲法改正」「集団的自衛権容認」、さらに「中国脅威論」を振りかざすのであれば、なにも民主党に固執する必要はないですよね。
だって、「自民党より右寄り」であるという噂を、自分の言葉で明確に証明してくれたのだから、手勢を引き連れて自民党に合流したらいいじゃありませんか。もっとも同じ意見で同志(?)の西村真悟議員は、やむを得ず党を除籍処分にしたようだから、人数はひとり減っちゃったかもしれませんが---。

でもこれでは、本当になんのために民主党にいるのか分からない。
他の民主党員たちは、この発言に賛成なのでしょうか。はっきりと前原発言を批判する民主党員の声がちっとも聞こえてこない。民主党はこのまま前原風に乗って、右へ右へと流されて行くのでしょうか。

国の背骨ともいえる「憲法」の改定問題を、ほとんど「個人的見解」のように表明してしまう。これが大政党の代表ですか?
少し前に、民主党の「改憲に関する提言」なるものが出て、その危うさに驚いたのですが、その提言でさえ、「集団的自衛権の容認」には踏み込んでいなかったはずです。つまり、党内でもかなり意見が割れている問題に、党内合意も得ずに言及してしまう。こんなことが許される党だったんですか、民主党という「民主的(?)な党」は。

まあ、外国に出かけて行って舞い上がり、つい本音を口走っちゃう、というのは自民党議員さんたちにありがちなパターンだったのですけどね。このあたりも前原サン、自民党の方たちによく似ていらっしゃいます。体質的にも自民党のほうが合ってるみたいに思えます。
党内の意見もよく聞かずに持論をまくし立てる。「とにかく俺について来い、俺に反対するやつはすべて抵抗勢力だ」と吠える「小泉総統」と、なにも変わらない。党内合意など無視して暴走するところなど、そっくりじゃありませんか。
前原サンも「私は民主党をぶっ壊すっ!」てなことを、もうじき言い出しかねませんな。

ああ、なるほどね、腑に落ちました。
民主党をぶっ壊して解党させ、手勢(主に松下政経塾出身者たち)を引き連れて自民党に加わり、自民党内右派にも呼び掛け、若さにものを言わせて一気に多数派を結成、来年9月に首相辞任を明言している小泉サンの後釜を狙って首相の座を奪取! なーんて戦略なのかもしれませんね。
民主党代表の座も一応は来年9月までですから、ちょうどいい時期。それに、小泉サンのおかげで自民党内派閥の力なんて見る影もない状態ですから、外様でも一気に将軍になれるかもしれません。
うーむ、前原ウジ、おぬしも策士よのぉ。

まあ、これはワルイ冗談ですけどね。(ジョーダンじゃないかもしれないよ、などと不気味な声も聞こえたりして---)

性格が似ているから、小泉サンに「大連立しましょうよぉ〜」なんて持ちかけられるのでしょう。でもね、上のように考えてみると、あり得ないシナリオではない、と思えてきますよね。

民主党という政党は、なかなか一枚岩にはなれません。党内に、旧社会党系、旧民社党系、松下政経塾出身の若手、小沢一郎氏率いる旧自由党(新進党)系、さらには鳩山由紀夫氏らの自民党系、また管直人氏らの市民運動系、とまさに誰が誰だかよく分からないバラバラの寄り合い所帯。
だから、これをまとめるのは不可能だ、と前原サンは思ったのかもしれません。そうなると、首相(権力)の座は遠のくばかり。ここは乾坤一擲、小泉サンよろしく「反対するヤツは抵抗勢力じゃあーぁ!」と絶叫しつつ勝負に出る。そんなこともあるんじゃないでしょうか。政治家サンの考えることは、私たちには分かりませんからねえ。

しかし、国民にとって、これはかなり由々しき事態です。

なぜなら、このままでは「憲法」については殆ど選択肢がなくなってしまうからです。政権を争う、という「2大政党」が、いずれも「改憲・集団的自衛権容認」で一致するなら、それを受け入れられない人たちには、投票する相手がいない。
むろん、改憲に反対する社民党や共産党は存在しています。しかし、今回の選挙結果が示すように、小選挙区制という制度の中では、この2党への投票の多くは「死に票」にならざるを得ませんでした。
それは、みなさん、よくお分かりのはず。50%に遠く及ばなかった自民党が296議席を獲得してしまったカラクリは、前にこのコラムでも指摘したとおりです。
こうなれば、やはり前にここで指摘したように、民主党は分裂したほうがいいのかもしれません。国の政治にとって最も重大な「憲法問題」で意見が違いながら同じ党に所属していること自体が、私には不思議でなりません。多分それは、ただ権力を握りたい、という単なる政治的野望にしかすぎない。

民主党内でも、リベラル派がそれなりの勢力を持っているといいますから、彼らが先頭に立って、社民党や共産党に(できれば公明党の良質な部分にも)呼び掛け、「9条の精神を育て広めていく勢力」の結集を図るよりほかに方法はない。そんな時期に来ていると思います。
本当に、仲間割れしている場合じゃなくなってきたのです。

イラスト
今週のネタ・その2↓
2005年12月9日の朝日新聞夕刊より

立川ビラまき、逆転有罪
 
3被告に東京高裁「被害、軽くない」

東京都立川市の防衛庁宿舎で、自衛隊イラク派遣に反対するビラをまいて住居侵入罪に問われ、一審で無罪になった市民団体「立川自衛隊監視テント村」のメンバー3人の控訴審判決が9日、東京高裁であった。中川武隆裁判長は、行為は住居侵入罪にあたるとし、「ビラによる政治的意見の表明が保障されるとしても、宿舎管理者の意思に反して立ち入ってよいことにはならない」と述べて一審判決を破棄。3人に罰金20万円または同10万円とする逆転有罪判決を言い渡した。3人は即日、最高裁に上告した。<後略>
その2

国が捩れれば、司法も同じく捩れていく、ということのお手本みたいな判決です。それにしても、ヒドイ。

もし、「居住者の許可なく」ビラをまくことが違法ならば、同じ理由で政治的なビラだけではなく、ピザ屋さんや宅配寿司屋さん、通販のビラもなにもかも違法で有罪にしなければ筋が通りません。でも今まで、宅配ピザのビラまきで逮捕・起訴されたなんて話は、聞いたことがありませんよね。
「それらのフツーのビラは大目に見るけど、政治的なビラだけは許さない」というのであれば、これは明らかに「法の前の平等」という基本的原則に反していることになるし、そして、非常に分かりやすい「政治的弾圧」というべきでしょう。
なぜなら、「政治が絡まないもの」はOKで、「政治絡みのもの」がNOならば、私たちは、政治的表現の自由の一部を、確実に奪われたことになるからです。
違いますか?

この高裁判決では「関係者以外立ち入り禁止」の表示を無視したこと、「住民が一度抗議している」こと、などを重視したといいます。
しかし、それならば再度問いたい。
「この宿舎には、今まで普通のビラは一切配布されたことがないのか? あったとすれば、それらの配布人は逮捕・起訴されたのか?」と。

「住民の抗議」についても同様なことが言えるでしょう。例えば、この宿舎では、ちょっとエッチなビラが郵便受けに入っていたことや、宗教団体のビラまきなんかが今まで一切なかったのか? それへの抗議も今までなかったのか?
私の親族が住んでいるマンションでもそんなビラが入り、その配布人に文句を言ったことがあった、と聞きました。でも、それが逮捕・起訴にまで至ったことなどありませんし、そんなことを考えたこともなかったといいます。
それが普通の感覚でしょう。

このような状況を考えれば、これは明らかに「政治的ビラ」への「狙い撃ち」だとしか思えません。

「イラク自衛隊派遣反対」のビラが、そんなに危険ですか?
そんな程度の意見表明さえも許されないのですか? 
それは、逮捕覚悟でやらなければならないほどの過激な行為なのですか?


ビラなんて、多少不愉快でも、それなりにやり過ごして日常生活は続いていくのです。でなければ、ギスギスした、とても息苦しい世の中になるのは目に見えています。というより、そんな息苦しい世の中が、もう私たちの足元にまで忍び寄って来ているようです。
それを容認し、煽り立てるようなヒドイ判決です。そんなに自由のない息苦しい世の中がお好きなのですか、中川裁判長サマ。

ほんのちょっとしたことに腹を立て、やたらに警察を呼ぶ人たち。
アルバイトで郵便受けにビラを配布している人たちの仕事は、もう無くなるかもしれません。
それに、あなたにもいつか、ガチャリと両手に冷たいワッパが---。たった一枚のビラのせいで---。

イラスト
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