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その34
今週のネタ↓

先週に引き続き、自民党新憲法案を考えてみます。今回は、『マガジン9条』らしく「第九条」についての考察です。

第二章 安全保障

第九条(平和主義) 

日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
(注・この項は現行日本国憲法のまま)

第九条の二(自衛軍) 

我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮権者とする自衛軍を保持する。

2 自衛軍は、前項の規定による任務を遂行するための活動を行うにつき、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。

3 自衛軍は、第一項の規定による任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び緊急事態における公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。

4 前二項に定めたるもののほか、自衛軍の組織及び統制に関する事項は、法律で定める。

(1)いい文章なのか?

先週も指摘しましたが、この条文、現行憲法と比べてそんなに「いい文章」になっていますか? 

自民党がこれまで言い続けてきたように「現行憲法が翻訳調の悪文」であるなら、まず「第一項の平和主義」も当然書き換えるべきでしょう。なぜなら、現行九条第一項は、これまで悪文の見本として前文とともに改憲論者の槍玉にあがってきたのですから。それをしないのは、文章なんてどうでもいい、ただただ早く改定したい、という想いの爆発だからでしょう。

また、第二項の3なんかヒドイですよねえ。なんと125文字がワンセンテンスですよ。いまどきの若者、ケータイ・メールに慣れてますから、もうその文章の短いこと。こんなまどろっこしいのを、最後まで読んでくれませんよ。   

自民党が言い続けてきた「翻訳調悪文論」は先週も書いたとおり、改憲したいがためのただのイチャモンだったのですねえ。

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(2)「活動」という言葉の危険性  

8月1日に発表された「自民党新憲法草案」では、この九条にやたらと「国際」という文字が躍っていました。それについてこのコラムでは、隠された意図がある、としてその危険性を指摘しました(興味のある方は、9月7日アップのこのコラムをお読みください)。

そのコラムを読んで反省したのかどうかは分かりませんが(ンなわけないっすよねえ)、今回の案ではすっかり「国際」が影をひそめました。で、その代わりに出てきたのが「活動」という言葉です。これ、かなりキケンですよ。  

日本語では「活動」です。しかし、英語に訳すと「OPERATION」です。これは「活動」よりは「作戦」が正確な訳です。つまり、主に軍事行動を意味する言葉なのです。  

「それこそ難癖だ」とお怒りの方がおられるかもしれません。しかし、思い出してください、「PKO」を。

これは「PEACE KEEPING OPERATION」の略でした。ここに自衛隊を参加させるべきるかどうかで大論争になったとき、政府(外務省)は、本来「作戦」と訳すべき「OPERATION」をわざと「活動」と曖昧な言葉に訳して「平和維持活動」とし、その「軍事的な作戦」である本質を国民の目から逸らそうとしたのです(本来、「活動」ならば「ACTIVITY」か「ACTION」であるべきです)。  

したがって、今度この案が外国で紹介されるときは、当然のことながら「活動」は「OPERATION」と訳されます。すなわち「作戦」です。  

お分かりですよね。「活動」をこれだけ使えば、諸外国(特に旧日本軍のイメージがまだ消えないアジア諸国)からは「ああ、またも日本は『軍事作戦』に踏み込むつもりなのだ」と思われても仕方ないでしょう。  

ただでさえギクシャクしているアジアにおける日本外交が、ますます隘路に入り込んでしまう。それでも構わん! 中国なんぞ潰してしまえっ!と喚く慎太郎知事ならいざしらず、こんな条文を許すわけにはいきませんよね。

私たちはやっぱり、近隣諸国とは仲良くしたいのです。

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(3)法律が憲法を規制する  

どうにもきな臭いのが、2、3、4に全部出てくる「法律の定めるところにより」という文章です。これでは、後からいくらでも国会内多数派の思いのままの規定を作ることができます。

「自衛隊はすでに存在するのだから、もう解釈改憲では限界がある。自衛軍の存在とその役割を憲法で明確に規定すべきである」というのが一般的な改憲派のご意見でしょう。しかし、この新憲法案から「明確な自衛軍の姿」を読み取れますか?

詳しい中身はすべて「法律の定めるところ」によるのです。つまり、どのような「軍隊」になるのか、その「中身」はどうか、どのような「活動」をするのか、どのような「任務」を帯びているのか、そのすべてが不明なままではないですか!

ここで、「絶対に海外派兵はしない」とか「自衛行動以外では武器を用いない」とか明確な方向が示されていれば、まだ議論の余地もあるでしょう。しかし、それらはすべて後で「法律」が決めることとされているのです。

法律は憲法とは違います。

国会で多数を占めた党派が、過半数で決められるのが法律です。一方、憲法は全国会議員の3分の2の賛成で発議され、さらに国民投票を経てようやく改定できる国家の最高規範です。

この案のままでは、軍隊の中身や役割、統制など国家の存立に関わるほどの重要なことが、国の最高法規である憲法によってではなく、国会の過半数で割と安易に作られる法律で決められる可能性が高いということです。

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(4)あやふやな規定

軍隊は国民を守るか? というのはとても大きな問題です。

でもね、軍隊は国民なんか守りません。沖縄戦や旧満州での日本軍の行動を知っている方であれば自明のことですよね。歴史が証明しています。

自衛軍の「活動」のひとつが「国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び緊急事態における公の秩序を維持し---」と自民案には書かれています。これが曲者。

この文の中の「及び」の使い方があやふやなのです。「国際的に協調して---緊急事態における公の秩序を維持---」と読むのか、ただ単に「緊急事態---」以下で独立した文章と読むのか。

つまり、国際的な緊急事態なのか、国内の緊急事態も含まれるのかどうか、重大な分かれ目です。どちらとも読めますよね。

日本国内の事態も含まれるとすれば、国内でデモ隊などに自衛軍が銃を向けるということも、この条文では可能になります。つまり、自衛軍は守るべき日本国民に対しても「公の秩序」のためには銃を向けられるのです。

これは本来は警察行動、即ち警察が行うべき取締りです。ところがこれを軍がやる。かなりヤバイ。

警察は捕まえるのが仕事、しかし、軍は殲滅する(殺す)のが仕事です。まったく役割は違います。軍は逮捕する訓練などしません。あくまで殺す訓練だけです。軍が公の秩序維持のために出てくる、となればそこに現出するのは----。ああ、もう考えたくもありません。それほどあやふやで危ない案なのです。

それでもあなたは認めますか? この自民党新憲法案を。

こんな穴だらけの憲法案を、自民党はなぜかくも拙速で出してきたのでしょうか? 小泉さんが来年の9月に退陣する、ということが背景にあるに違いない。この異常な小泉人気が持続しているうちに、とにかくやっちまえーっ! てなことなんでしょうなあ。

今に見てろよ! と唇を噛むツッコミ人なのでありました。

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