このコラムを読んでくれている皆さんなら、この小泉さんの発言のおかしさに、とっくに気付いていることでしょう。
いかに歴代首相の中で言葉がもっとも軽いお方とはいえ、あまりにヒドイ、ヒドすぎる。
「適切である、と判断した結果だ」と言う。
何も答えていないのと同じことじゃないか。
「二度と戦争はしない、との決意を表明する」と言う。
以前のこのコラムでも触れたが、あの9・11事件の際、ブッシュ大統領が「これは戦争である!」と吠えたとき、世界中のどの国の指導者よりも早く「ブッシュ大統領を全面的に支持」してキャンキャンと一緒に吠えたのは、小泉さん、アンタではなかったか。何をどう言い繕おうと、それは「戦争を支持」したことだったのだ。「二度と戦争はしない」との言葉との整合性をどう説明してくれるというのか。
さらに、もし「二度と戦争しない」というのが本音ならば、なぜ、憲法9条2項を改定してまで、軍隊を持ち集団的自衛権行使へと踏み込もうとするのか。「戦争をしないと誓う」のであれば、少なくても集団的自衛権など「死んでも」認められないはずではないか。
「心ならずも戦場に赴き、命を失った方々の尊い犠牲」などと仰る。
ではお聞きしたい。「心ならずも戦場に」いったい誰が連れ出したと言うのか。それこそまさしく、A級戦犯とされた人たちではなかったのか。その人々が、つまり、連れ出されて死んだ者たちと、連れ出して死に至らしめた者たちが一緒に祀られている所、それが靖国神社なのだということを、小泉さん、まさか知らないとは言わせない。
「心ならずも」死ななければならなかった人々に哀悼の誠を表したいのなら、その人々を死に至らしめた人々をも同時に祀っている神社に参拝していいという理屈が、どうして成り立つのか。
そのことに何の矛盾も感じないのだろうか。ただ自分の(セコイ)美学とやらに酔っているだけなのか。
靖国は基本的に「日本のために戦死した軍人たち」のみを祀った神社なのだという。つまり、戦争で斃(たお)れた一般国民や、敵国の将兵などは一切祀られていないということだ。
私たちの国が、今このような形であるのは、決して軍人たちだけのおかげではなかったはずだ。戦争を陰で支えざるを得なかった多くの一般庶民の存在があったはずだ。
小泉さん、アンタは靖国参拝によって、戦死した軍人だけに「哀悼の誠」をささげたのだが、例えば、広島や長崎の原爆で、また東京大空襲で死んだ数十万の普通の人々(それこそが、本当の意味での戦争犠牲者ではないか。軍人と同等に、いや、それ以上にもっと哀悼の誠をささげられていい存在だったのではないか)には、どういう形で哀悼の誠をささげるのか。
この点をよく考えてみれば、アンタが軍人には心優しく、庶民には冷淡な政治家なのだということが、よく分かる。
参拝方法に至っては、まさに小手先、わーい、ズルしてるーっ!としかいいようがない。
姑息な手段で、大阪高裁の憲法違反判決を何とかわそうとしているだけ。公用車を使い、数千人(3500人といわれる)の警備陣を配置した参拝が、なんで「私的」であるものか。
さらにここで、小泉さん、今までの参拝が「公式」であったことを、思わず認めてしまっている。「今までは総理大臣として特別に---」と洩らしちまったことだ。総理大臣として特別に行ったのなら、これを「公式参拝」と呼ばずして何と呼ぶのか。ならば、明確に「憲法違反」ではないか。
どう弁解するのか。
メディアはなぜここをツッコまないのか。ツッコミ人としては、本当にイライラ、腹が立つのだ。
中国や韓国との摩擦について聞かれても「これは心の問題」と逃げを打つ。
心の問題であるのなら、なぜ摩擦覚悟で国益を損ねてまで参拝するのか。心を込めて一人深夜に、黙って遠くから靖国に向かって手を合わせればいいではないか。それが心ではないのか。
大勢の取材陣を引き連れて、公用車でぞろぞろと参拝する。なぜそんなパフォーマンスをしてみせなければならないのか。
ただ自分が言ってしまったことにこだわっているだけ。しかし、それだって「8月15日に必ずどんなことがあっても参拝する」と言った「公約」はとっくに破ってしまっている。ここにも、小泉さん、アンタの言葉の軽さがよく出ている。
「心の問題に他人が干渉すべきではない」と言うのなら、相手側の心の問題はどうなるのか。自分の心が満足すれば、相手の心などどう傷ついてもかまわない、とでも言うのか。
自分と相手の両者の心情や利益を勘案して付き合っていく、それが外交であるはずだ。いや、一般社会においてすら、私たちはそういう「大人の知恵」を働かせながら、なんとか日々を生き抜いているのだ。
自分がよければ相手のことなどどうでもいい。そんな姿勢で、いったい外交なんてできるのか。大人の世界で生きられるのか。否だ。
近隣諸国の反感を、こんなに「わざと」煽った首相がいただろうか。戦後最悪といわれる対中・対韓関係。これだけ国を危うくした首相は、小泉さん、アンタのほかには見当たらない。
喜ぶのは、大声で喚きたてるナショナリストたちだけ。あとは、あの外務省や財界人ですら、眉をひそめ、諦め顔。いったいこの後、どんな決着が待っているのだろう、と。
(もしアンタがなんか考えているのであれば、ですが)、お願いだから本当のところを、聞かせてくれませんか? それとも、「後は野となれ山となれ」なのですか? 小泉さん。
ああ、ゴーマンかましつつ、
小泉総統が行く----。
|