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その27

このところ、重大なニュースが続出。触れておかなければならないことが多すぎて困ります。しかしその多くが辛い悲しい、そして危ない話なのです。まったく、この国はどうしちまったんだろう、と考え込んでばかりの今日この頃です。

読者の方から、よくこんなに文句ばかり書けるね、前向きの意見はないのか、というようなお叱りの意見もいただきました。
しかし、困ったなあ、どこに「前向き」が転がっているんだろう。右へ右へとハンドルを切り続ければ、やがては元の場所へ戻ってくる? それが前向き? でも、私はそんなアホなクルマには乗りたくない。だから、お叱りは覚悟でこれからも書き続けますよ。

そこんとこ、四・露・死・苦!!

前置きはそれくらいにして、まずは民主党代表選から。

今週のネタ その1↓
●讀賣新聞 2005年9月18日付社説より
民主党代表選
「43歳」が担う党再建の険しさ

<略>前原氏は、代表選で、労働組合や業界団体などの既得権益にとらわれないことと、寄り合い所帯と言われる党内の旧弊を断ち切ることを掲げた。

<略>前原氏は、「労組や業界団体と意見が違えば、毅然としてモノを言い、対峙していく勇気が必要だ」と言う。

民主党内では、旧社会党系、旧民社党系のグループは、労組との関係が深い。旧自民党系のグループは、業界団体の支持も受けている。前原氏は、どこまで“勇気”を発揮できるだろうか。

<略>前原氏は、重要な政策については、常に対案を出すことを約束した。「党内でなあなあにしない。意見が一致しない問題を先送りしない」とも明言した。

前原氏は、憲法改正に積極的で、日米同盟重視路線だ。集団的自衛権の行使容認へ、9条の改正を求めている。自衛隊のイラク派遣を「憲法違反」と断じた菅氏らとの立場の開きは大きい。

代表として、党内対立を克服し、憲法問題や、外交・安全保障などの基本政策で、党の明確な方針を打ち出すべきだろう。<略>

その1

なにしろ「憲法改正」を社是とする讀賣新聞だから、今回の前原誠司氏の民主党代表選での勝利は大バンザイなのでしょう。いろいろと書いてはいるけれど、結局のところ、言いたいのは以下のこと。 労組との関係を断ち、党内抗争に打ち勝って「憲法問題」や「外交・安全保障」政策で明確な方針(それは、日米同盟の強化、集団的自衛権の容認であり、ついには改憲なのだ)を出して突き進め、と言っているのです。

94票対92票で、前原氏は菅氏を破った。たった2票の差でした。しかし、ことは「たった2票」ではすまない。

政党の代表は、巨大な権利を持っています。それは小泉自民党「総統」(彼には総裁より総統という呼び方が似合う)を見ればよく分かる。党役員人事には絶対的な権限を持ち、党の方向を左右できる力があるのです。

民主党内には、九条改定には反対、もしくは消極的な意見を持っている人たちがまだかなりの数存在します。しかし、それを押さえ込むのは簡単です。あの小泉総統のマネをすればいいのです。

反対派には「守旧派」「抵抗勢力」のレッテルをベッタリと貼り付ける。その上で「私が旧い民主党をぶっ壊す!」と絶叫して見せればいいのですから(民主党が旧いのか、結党から何年経っているのか、なんて疑問は絶叫の前には無力です)。

かくして、旧い(?)民主党は消滅します。多分、消滅の前に大分裂が起きるでしょう。まったく、小泉総統の思うがまま。かつての社会党が辿った運命を、今度は民主党が、もっと右側で演じて見せようというわけです。

「一度めは悲劇、二度めは喜劇」という言葉があります。しかし、今度の「二度め」は喜劇ではなく、壊滅的な悲劇になる可能性が強い。民主党の議員さんたち、それを分かっていて、あの松下政経塾出身の「自民党より右寄りの民主党代表」を選んだのでしょうか。 前原氏に投票した議員たち一人ひとりの胸倉をつかんで問い詰めてみたい衝動にかられています。

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今週のネタ その2↓
●産經新聞 2005年9月15日付記事より
憲法改正へ常任委
自公民 調査会格上げ合意

自民、公明両党と民主党は十四日、二十一日召集の特別国会の日程などを協議する衆院各派協議会で、衆院憲法調査会(中山太郎会長)について、憲法改正手続きに必要な国民投票法案などを審議する常任委員会へ格上げすることで基本合意した。

<略>小泉純一郎首相は今月一日、産新聞社などとのインタビューで、国民投票法案について「来年の通常国会くらいには出したいと思っている」と述べているため、同法案の本格審議は来年の通常国会になる見通し。現行調査会は調査だけを担当。日本国憲法に関して議案提出権を持った常任委員会が国会に設けられるのは初めてで、憲法改正に向けた大きな一歩となりそうだ。<略>

その2

はい、讀賣新聞よりももっとキョーレツな改憲論を主張する産經新聞。なんだか紙面に嬉しさが滲み出ているような。

自分たちがこれまで叫んできたことが、いまや実現可能な射程に入ってきた。どうだ、我々の主張は正しかったではないかっ! というわけですね。

編集部でスルメなんかかじりながら日本酒(ここは日本国の伝統にのっとって日本酒でなければなりません。間違っても日本政府やアメリカに抵抗する沖縄の泡盛なんかでは困ります)で乾杯でもしているのでしょう。

ところが、これに水をかける続報がすぐに出てきました。

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今週のネタ その3↓
●東京新聞 2005年9月15日付記事より
憲法調査会格上げ問題
常任委でなく特別委
公明慎重論に自民配慮

<略>十四日になって、公明党の中央幹事会で「特定法案に限定する審議なら、特別委員会のほうが妥当」(冬柴幹事長)「(各派協議会や)議運ではなく、党と党で議論する問題だ」(太田昭宏幹事長代行)などと常任委格上げに消極的な意見が続いた。

<略>与党内で十分な合意がない問題を、自民党が与野党協議で持ち出すのは、これまであまり例がない。衆院選圧勝を背景に、自民党の国会運営が強引になってきたとの見方も出てきそうだ。<略>

その3

自民党の独善的な動きを、サラリと批判しているところ、最近の東京新聞のスタンスが垣間見えます。ブレずに頑張ってほしいものです。

改定に慎重論が強い公明党に自民党側が配慮した、ということですね。これには、自民党強硬派だけではなく、讀賣新聞も産經新聞も地団駄踏んだことでしょう。

しかし、もちろんこれでことが収まったわけではありません。公明党も国民投票法案の審議促進には異論がないのです。憲法論議のきな臭さは、ますます高まっているのです。

全国会議員の三分の二以上の賛成がなければ、憲法改定は発議できない、ということは、このコラムでも何度か指摘してきました。しかし、ツッコミその1で書いたように、民主党が党首の選出において右旋回を明確にしてしまった以上、この発議はかなり現実味を帯びてきました。

なぜ憲法九条が必要なのか、もはや逃げ口上は通じない。真正面から受けて立つ覚悟を、私たちも固めなければならない状況が来ています。

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今週のネタ その4↓
●毎日新聞 2005年9月20日付記事より
「北朝鮮の核放棄」文書化
6カ国声明採択
具体的道筋は先送り

北朝鮮の核問題解決を目指す第4回6カ国協議は19日、北朝鮮がすべての核兵器と現存する核計画の廃棄を約束する一方、北朝鮮への軽水炉の提供を「適当な時期に議論する」ことを盛り込んだ共同声明を採択し、閉会した。声明は日朝、米朝の国交正常化に向けた措置を取ることも明記した。<略>

◆ 共同声明の骨子◆
一、朝鮮半島の検証可能な非核化で一致
一、北朝鮮はすべての核兵器及び現存する核計画を廃棄する
一、米国は北朝鮮攻撃、侵略の意図を持たない
一、北朝鮮への軽水炉提供問題を適当な時期に議論
一、米朝は国交正常化のための措置を取る
一、日朝は日朝平壌宣言に従い、国交正常化の措置を取る
一、日米中韓露は北朝鮮へのエネルギー支援の意向を表明
一、当事者間で朝鮮半島の恒久的平和について協議
一、一致した事項を段階的に実施
一、次回協議を北京で11月上旬に開催

その4

少し光明が見えてきたように感じます。外交交渉のお手本のような結末でした。ここから、朝鮮半島の平和と、拉致などの人権問題の解決の糸口が見出されれば、こんな嬉しいことはありません。「共同宣言」をよく読んでみてください。

今回は特に、中国の根回しがすごかったようです。

北朝鮮へ援助を含む交渉を仕掛け、返す刀で地政学的な力学も踏まえて圧力をかけていく。それを韓国が側面から援助。
韓国は「太陽政策」をいっそう進展
させ、100万キロワットにも及ぶ電力の供給を提示して国際社会への復帰を促す。韓国国内では、政府主導ともいえる形での南北融和ムードの盛り上げ。国民を巻き込んだ形での外交交渉だったのです。
これに、アメリカは乗りました。
ハリケーン災害の対処でブッシュ批判が高まり、それがイラク戦争批判へと波及し始めています。これを乗り切るためには、ここで北朝鮮とことを構える余裕なんかあるはずがない。 中国と韓国の戦略に、これ幸いと便乗したのです。これも、外交的にはかなり上手な綱渡りだったといえます。

ロシアだって、パイプライン設置なんかをちらつかせて、北朝鮮を誘導したようです。

結局、どの国にとっても、北朝鮮を協議の場にうまく引き出して、国際社会に軟着陸させること、それが一番大切だったということでしょう。

ひるがえって、私たちの国はどうだったのでしょう。何か得るものがあったでしょうか。

相変わらず「拉致問題」を振りかざして迫るばかり。他の4カ国からは、交渉の邪魔とまで言われていたとのことです。

むろん、拉致問題は人権に関わること、非常に大事なことであることは明らかです。だからこそ、一刻も早く、北朝鮮を交渉の場に引き出して問題解決の糸口を探るべきだったのです。

ところが、日本は拉致問題を最重要課題とし、結果として核やミサイルの問題を後ろに追いやってしまった。拉致問題を声高に叫ぶ安倍晋三氏や中川昭一氏たちが、逆に北朝鮮に口実を与えてしまったようなもの。つまり「日本は朝鮮半島全体の問題には関心がない。だから相手にしても仕方がない」とのリクツです。
反発は反発を呼ぶ。それに呼応したのが、ミョーに活気づいたにわか仕立ての「愛国者」たちでした。

『嫌韓流』などというマンガが売れています。相手を嫌えばこちらも嫌われる、当たり前のことだと思うのですが。

繰り返します。

まず交渉の場がなければ、何も解決できないのです。いくら声高に叫んだとて、それが交渉の場でなければ、ただの言いっ放しにしかすぎません。中国、韓国、そして日本で起こった、互いの国へのデモ騒ぎや罵倒合戦、これが何か成果をもたらしたでしょうか。

お互いの意見をじっくり言い合い聞き合う、そのための場を設定できなければ、何事も前へは進まない。そんな自明のことが、私たちの国の外交から消えてしまって久しいような気がします。

今回の共同声明、各国の外交術を見せつけました。私たちの国以外の……。

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