少し光明が見えてきたように感じます。外交交渉のお手本のような結末でした。ここから、朝鮮半島の平和と、拉致などの人権問題の解決の糸口が見出されれば、こんな嬉しいことはありません。「共同宣言」をよく読んでみてください。
今回は特に、中国の根回しがすごかったようです。
北朝鮮へ援助を含む交渉を仕掛け、返す刀で地政学的な力学も踏まえて圧力をかけていく。それを韓国が側面から援助。
韓国は「太陽政策」をいっそう進展させ、100万キロワットにも及ぶ電力の供給を提示して国際社会への復帰を促す。韓国国内では、政府主導ともいえる形での南北融和ムードの盛り上げ。国民を巻き込んだ形での外交交渉だったのです。
これに、アメリカは乗りました。ハリケーン災害の対処でブッシュ批判が高まり、それがイラク戦争批判へと波及し始めています。これを乗り切るためには、ここで北朝鮮とことを構える余裕なんかあるはずがない。
中国と韓国の戦略に、これ幸いと便乗したのです。これも、外交的にはかなり上手な綱渡りだったといえます。
ロシアだって、パイプライン設置なんかをちらつかせて、北朝鮮を誘導したようです。
結局、どの国にとっても、北朝鮮を協議の場にうまく引き出して、国際社会に軟着陸させること、それが一番大切だったということでしょう。
ひるがえって、私たちの国はどうだったのでしょう。何か得るものがあったでしょうか。
相変わらず「拉致問題」を振りかざして迫るばかり。他の4カ国からは、交渉の邪魔とまで言われていたとのことです。
むろん、拉致問題は人権に関わること、非常に大事なことであることは明らかです。だからこそ、一刻も早く、北朝鮮を交渉の場に引き出して問題解決の糸口を探るべきだったのです。
ところが、日本は拉致問題を最重要課題とし、結果として核やミサイルの問題を後ろに追いやってしまった。拉致問題を声高に叫ぶ安倍晋三氏や中川昭一氏たちが、逆に北朝鮮に口実を与えてしまったようなもの。つまり「日本は朝鮮半島全体の問題には関心がない。だから相手にしても仕方がない」とのリクツです。
反発は反発を呼ぶ。それに呼応したのが、ミョーに活気づいたにわか仕立ての「愛国者」たちでした。
『嫌韓流』などというマンガが売れています。相手を嫌えばこちらも嫌われる、当たり前のことだと思うのですが。
繰り返します。
まず交渉の場がなければ、何も解決できないのです。いくら声高に叫んだとて、それが交渉の場でなければ、ただの言いっ放しにしかすぎません。中国、韓国、そして日本で起こった、互いの国へのデモ騒ぎや罵倒合戦、これが何か成果をもたらしたでしょうか。
お互いの意見をじっくり言い合い聞き合う、そのための場を設定できなければ、何事も前へは進まない。そんな自明のことが、私たちの国の外交から消えてしまって久しいような気がします。
今回の共同声明、各国の外交術を見せつけました。私たちの国以外の……。
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