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その16
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 6月17日付の毎日新聞は、久々の「発掘スクープ」で、紙面は熱気に満ち満ちていました。その記事量の多さは、あの「考古学発掘捏造事件」をも超えていたでしょう。とてもここで記事全体を引用することはできませんので、見出しだけを引用させてもらいます(それでもスゴイ量です)。
(1面)
原爆ルポ 60年ぶり発見
長崎―1945年9月

GHQ、公表許さず
米記者原稿「放射線障害」詳述

[解説] 核の恐怖「圧殺」―検閲の罪、今に問う
(2面)
専門家に聞く 当時公表されていたら・・・
 核への嫌悪感生んだ
     兵器開発競争に一石
(3面)
米の戦争報道規制 今も
「原爆ルポ」阻んだ検閲 手法変えイラクで
世論に神経とがらせ
   「ベトナム」「湾岸」曲折経て

従軍取材の本紙記者 送稿も軍事回線
         ・・・「宣伝役」の側面も
(12〜13面は全ページ)
隠された地獄 奪われたペン

[戦後60年の原点 シリーズ特別編]
長崎原爆 幻のルポ
取材制限、検閲も
放射能の脅威 否定に躍起 当時の米軍
投下正当化で批判断つ
――ジョージ・ウェラー 1945年9月 長崎にて――
 1日10人が死ぬ。休息させるほか手を打てない。「第2の死因」は医師たちを当惑させている。
  彼らはやけども骨折もなかったが黒い唇を閉ざし手足には赤い斑点が・・・。

ウェラー記者 
軍の目盗み潜入
記事差し止め「GHQ、権利なし」
浅井基文さん 広島市立大広島平和研究所長
今こそ核廃絶考える材料に
肥田舜太郎さん 広島で自らも被爆 元陸軍軍医
放射線 医師に知識なく 
   治療不能「つらかった」
―――GHQ 日本での言論統制―――
原爆報道 プレスコードで激減 
       文学作品、医学論文も
(そして、この見開き面にはウェラー記者本人の写真と彼が撮影した写真が6枚、それに付随する地図が掲載されている)
(30〜31面)
[長崎原爆 幻のルポ発見]
未知の症状 闘う医師 
    60年前の凄惨 今に

          遺族  よみがえった記憶
「放射能だらけだ。
    ナガサキに絶対入るな」

  投下1カ月後に取材受けた元米兵捕虜
     記者忠告  鮮明に
軍医の「状況報告」と整合
   受傷1、2週間後、全身に影響
      死の直前に高熱
 とにかく毎日新聞、熱気が凄い。もうほとんど全紙面にわたって、よみがえったウェラー記者の幻のルポに関する記事なのです。圧倒されました。

  このジョージ・ウェラー記者、素晴らしいジャーナリストでした。 戦艦ミズーリ号での日本の降伏文書調印(45年9月2日)を取材後、なんとか原爆被災地を取材したいと決意。西日本全域はこのとき外国人記者立ち入り禁止であったにもかかわらず、ウェラー記者は米軍の目を盗んでモーターボート、列車を乗り継いで、長崎に潜入。必死の思いでルポを書き撮影をしたというのです。しかし、せっかくの記事は米軍の検閲で日の目を見ず、結局は現在まで60年間、眠っていたことになります。
 それを、毎日新聞が発掘、ここに初めてその全容が明らかになったというわけです。このスクープを放った毎日新聞の國枝すみれ記者や協力した方々に、
大いなる敬意を表したいと思います。

 じっくり読んでみると、あらためて原爆の凄まじさ、影響の巨大さ、後遺症の恐怖、そして言うまでもなくその非人道性(!)が、胸に迫ってきます。このルポを発掘し、その内容をこれほどまでに詳細に報道した毎日新聞に、心からエールを贈ります。
 このようなスクープを通じて、広島平和研究所長・浅井基文さんの言うように、核廃絶につなげていければ、ジャーナリズムの持つ本来の意味での役割をきちんと果たした、といえるでしょう。
 近ごろでは珍しい、熱のこもった報道でした。こんな報道が続くのであれば、日本のメディアもまだまだ捨てたものじゃない、と少し嬉しくなってきます。

 以上のことを十分に理解した上で、でも、ツッコミ人としては、やはり
一つだけ、ツッコんでおきたいと思います。
 たしかに、3面の記事で「米の戦争報道規制 今も」として、今回のイラク戦争などにおけるアメリカ軍の報道検閲などにも触れてはいます。「本紙記者」のイラク従軍取材がどのような規制下で行なわれたか、を述べています。でも、私たち読者にその報道の裏側は、この戦争の実相は、果たして届いていたと言えるでしょうか。結局、規制に遮られて、イラク国民の血まみれの戦争の現実は、私たちには見えなかった。

 規制下であっても従軍しなければ、最低限の報道もできない。だから、やむを得ず従軍した、というのが本音でしょうが、しかしその後、バグダッドからは大手マスメディアの記者たちは全員退去。その後の自衛隊の動向などまったく伝わってきてはいません。
政府(自衛隊)からの「大本営発表」記事だけしか、読者の目に届いてはいないのが現状です。
 アメリカの検閲を批判するのであれば、日本における政府やその他の権力の規制とも闘わなければならないはず。

 戦争の悲惨さを何度でも繰り返し伝え、その愚かさを徹底的に批判する。そして、戦争へ駆り出そうとする者たちの正体を暴き続ける。これがマスコミに与えられた最大にして最高の使命ではありませんか。
 せっかくの渾身のスクープに水をさす気はありません。それどころか、もっともっとこのような素晴らしい記事を読みたいのです。

 そういえば、最近、あのウォーターゲート事件の「ディープスロート」がついに名乗り出た、という話題がアメリカで大きく取り上げられました。 もう一つ、ついでにいえば、日本でも報道の是非をめぐって大きな事件になった「日米密約外交機密漏洩事件」で有罪とされた西山太吉記者も、毎日新聞でした。彼を見殺しにしてしまった轍を踏んではなりません。

 
闘いのないところにスクープはない。

 戦争への道を、絶対に許さない報道、スクープをこれからもぜひ連発してもらいたいものです。
イラスト
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