今週の「マガジン9」

 当サイトの前身「マガジン9条」の立ち上げを間近に控えていた2005年2月、編集スタッフ会議で、メインコーナー「この人に聞きたい」で誰に登場してもらうかについて話し合った際、憲法9条の掲げる平和の理念を様々な角度から語ってもらうため、各界で活躍する人たちの名前が挙がりました。
 その会議の成果は、作家、学者、ミュージシャン、俳優といった多彩な顔ぶれとして結実しましたが、「他にどんな著名人に出てもらいたいかなあ」とメンバーがつぶやくと、ある1人が、「天皇陛下でしょ」。一同、答えに詰まりました。すると彼は、「だって天皇陛下は日本で一番有名な“平和憲法を尊重している人”じゃない」。
 なるほど。その後、私たちは「取材の申し込みはやはり宮内庁にするのだろうか?」「そもそも宮内庁に広報室は存在するのか?」など、冗談とも本気ともつかない会話を続けたのですが、1万分の1の確率でインタビューに成功したとしたら、この行為は「天皇の政治利用」として批判されるのでしょうか。
 先日、山本太郎参議院議員が園遊会で天皇陛下に、福島第一原発に関わる手紙を手渡したことが物議を醸しています。8年以上前の会議で上記のような話をしていた私でも、国会議員としての山本氏の行為には違和感をぬぐえません。ただ、同時に、彼の行為をことさら「天皇の政治利用だ」と騒ぎ立て、懲罰的な対応が必要などと他の政治家やマスコミが責めたてることも妥当な反応だとは思えないのです。 
 かつて園遊会で、東京都の教育委員を務めていた棋士が「日本中の学校で国旗を掲げ、国歌を斉唱させるというのが私の仕事でございます」と述べたとき、天皇陛下は「強制になるということでないことが望ましい」とやんわり釘をさされました。
 国歌及び国旗に関する法律が施行されたのは1999年です。国旗は日章旗、国歌は君が代とすることを定めたものですが、当時の内閣官房長官だった野中広務氏は「それ(国旗の掲揚など)が強制で行われることはない」と述べていました。天皇陛下もその一連の経緯を考慮されたのでしょう。しかし、その後の国歌と国旗をめぐる教育現場での状況を見る限り、天皇陛下の言説が政治的な影響力を持たないことは明らかです。
 たしかに天皇は、この国で最も有名な「憲法を遵守する人」でしょう。しかし憲法を為政者に守らせるのは主権者である私たち。主権在民は、憲法を読まない人にも広く浸透している「この国の基盤」。にもかかわらず、「あの方ならどうにかしてくれるのではないか」という間違った幻想を抱いてしまうほど、何かおかしなことが起きている。そんなことを思い起こさせた、今回の「事件」でもありました。

(水島さつき)

 

  

※コメントは承認制です。
vol.427
日本で一番有名な
「憲法を守る人」
」 に5件のコメント

  1. 戦前の例でいうと、田中正三の直訴だダメで反転して大逆事件になるわけで、山本バッシングによって天皇と国民を離反させてそれを狙ったとしたら、ちょっと悪質だな。でも敵はさらにその先、大逆事件がコケて大杉が殺されて、五一五と二二六とが起きて戦争ってのを狙ってるのかも?

  2. ピースメーカー より:

    >8年以上前の会議で上記のような話をしていた私でも、国会議員としての山本氏の
    >行為には違和感をぬぐえません。ただ、同時に、彼の行為をことさら「天皇の政治
    >利用だ」と騒ぎ立て、懲罰的な対応が必要などと他の政治家やマスコミが
    >責めたてることも妥当な反応だとは思えないのです。

    差別問題の専門家で部落解放運動家の小林健治氏は、今回の「事件」を以下のように酷評しております。
    http://blog.ningenshuppan.com/?eid=1242941
    ”(以下抜粋)山本太郎議員が、園遊会で原発反対の嘆願書を、天皇陛下に渡したという。 なんという浅薄な軽挙妄動かと思う。 田中正造が、足尾銅山の鉱毒に怒り、天皇に直訴した事件(19001年・明治34年)、北原泰作が、天皇閲兵式の時に、軍隊内の部落差別に抗議して、天皇に直訴した事件(1927年・昭和2年)があったが、意義も時代背景も全く違う、単なるパフォーマンスのスタンドプレーに過ぎない。 これで、天皇は、反原発運動に共感する発言が出来なくなった。 天皇の政治利用といったレベルの問題ではない。 反原発運動に対する、破壊策動とさえ言える愚行だ。(抜粋終了)”

  3. 花田花美 より:

    マスコミは騒ぎすぎ。
    自民党議員も騒ぎすぎ。
    騒ぐことで、保守派票稼ぎの下心があるのでは?と疑ってしまいます。
    原発推進派議員が同じことしたら、こんな騒ぎにはならなかったかもしれません。
    とにもかくにも、山本太郎議員の主張する「脱原発」は、地震国日本が当然とらなければならない大切な道。
    原発推進マスコミ・原発推進派議員は、脱原発派議員の失敗を手ぐすねをひいて待っているようです。
    想像以上に前途多難ですね。続投希望。貴重な脱原発票を生かしてこれからもがんばってほしいです。

  4. ピースメーカー より:

    今の「右傾化」した(とされる)日本を「危ない」とみなし、日頃から「わーわー騒いでいる」人が、今回の山本氏の行為に他人を「騒ぎすぎ」などと言って世間をたしなめようとしても、ノンポリの庶民が聞いてそれに説得力を感じないし、かえって「山本太郎」という人間に対する強い未練という発言者の主観性しか感じません。
    こういうのは日本やアメリカの軍事や外交政策に関しては「わーわー騒ぐ」けど、中国の軍事や外交政策については「騒ぎすぎ」と世間をたしなめようとしている人が多いので、聞いている方としては慣れっこになっていますが、こういうパターンのダブルスタンダードを今後も連発すればするほど、いわゆるリベラルや左派といった人々の「権威」を、相対的にジャンジャン下げてしまいマイナスだと思います。
    今回の「事件」がたいして問題が無いのなら、例えば大阪の橋下さんが春の園遊会で「平和憲法改正の嘆願書」を天皇陛下に手渡したとしても、大して問題にはならないし、「騒ぐ方に下心があるのでは?」ということになりますが、もちろんそんな事になれば、今回の山本氏を擁護している人々が黙って見過ごすはずがないでしょう。
    ところで今回の「事件」では、「皇室行事への出席自粛要請」で決着を図るという穏当な処罰で済みそうです。
    とはいえ、東スポでは「『襲撃、暗殺の恐怖』…山本太郎議員が一転“平謝り”した事情」という物騒なタイトルの記事が掲載されておりましたが……。http://www.tokyo-sports.co.jp/nonsec/social/201842/

  5. やったん より:

    山本議員は請願法第3条に違反していますね。提出は内閣にすべきと定めています。でも請願法では天皇への請願を認めているので、そこへの批判は法を無視することになりませんかね。

    請願法 第三条  
    請願書は、請願の事項を所管する官公署にこれを提出しなければならない。天皇に対する請願書は、内閣にこれを提出しなければならない。

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