今週の「マガジン9」

 和辻哲郎は著書『風土—人間学的考察』(岩波文庫)において、人間の心性や行動はその地域の自然環境に大きく左右されるとし、牧場型、モンスーン型、砂漠型といった分け方で論じています。

 牧場型は人間の生活を阻むほど草木が生い茂ったり、風雨が猛威を振るったりすることが少なく、自然が人間に比較的従順であるがゆえに、そこに住む人々には合理的精神や個人主義的な考え方が育まれました。

 モンスーン型は温暖湿潤で動植物が繁殖しやすく、台風などの自然災害も頻繁に起こるため、自然に対して人間は従順とならざるをえず、そのことが、ある物事に対して抵抗するよりも、受容するようなメンタリティにつながっていきました。

 砂漠型は自然による恵みの少ない過酷な環境なので、そのなかで生き延びるために、人々は厳しく統率のとれた集団を形成し、上に立つ指導者の命令には絶対従う忠誠心が求められるようになりました。

 私が自分流の解釈で書いてしまうと、大ざっぱで乱暴な論理になってしまいますが、モンスーン型の風土に住む私たちは、今回の熊本地震においても自然の猛威をまざまざと見せつけられました。

 倒壊した多くの家屋を前になすすべもなく立ち尽くす住民の方々、昼夜を問わず救援作業を続ける自衛隊員や警察、消防隊、地元自治体組織、ボランティアなどの方々を見て、自分に何ができるのかを考え、行動されている方も多いことでしょう。と同時に、現在稼働中の鹿児島県の川内原発は大丈夫なのか、と不安を抱く方も少なくないと思います。

 日本は地震国であり、こうした災害を避けられない運命にあります。とすれば、それによって生じうる人的な被害はできる限り少なくすることを忘れてはならないのではないでしょうか。

 ちなみに牧場型はヨーロッパの地に多く、そうした風土のなかで合理的精神や個人主義を育んできたであろう国のひとつドイツでは、5年前、東日本大震災を受けて「脱原発」の方針を決めました。原子力発電がいったん暴走を始めたら、人間の力では制御不可能であることを認識したからです。

 かたや、人間はときに無力な存在であることを自覚し、自然と折り合いつつ生きてきた東アジアの私たちが、原発は自分たちでコントロール可能と考えるのはあまりに無理があるのではないか。もういちど、その姿勢に立ち返った方がいい――それが正直ないまの気持ちです。

(芳地隆之)

 

  

←「マガジン9」トップページへ   このページのアタマへ↑

マガジン9

最新10title : 今週の「マガジン9」

Featuring Top 10/195 of 今週の「マガジン9」

マガ9のコンテンツ

カテゴリー