今週の「マガジン9」

 2月14日付『朝日新聞』は、安倍政権による2014年度の企業向け「政策減税」の合計額が少なくとも約1兆2000億円に上ると報じました。その額は前政権比で倍増。減税の恩恵の対象となった約6割は、資本金100億円超の大企業で、うち、研究開発に対する減税額でいえは、トヨタ自動車、日産自動車、ホンダ、JR東海、キヤノンと続いているというのが朝日新聞の調査でわかったとのこと。

 これで日本に起業家精神は育まれるのか――記事を読んだときの私の疑問でした。そして、経営破たんした日本航空に公的資金が投入されたことを思い出しました。当時、作家の村上龍氏が、この事例の罪は、「大企業は国がつぶさない」と多くの人々に思わせてしまったことにあるという趣旨の指摘をしています。若い学生はますます大手志向になり、新しいビジネスにチャレンジしようとする人が少なくなっていくだろうと。

 総務省「労働力調査」の統計によると、2014年現在の自営業者は、家族従事者と合わせて724万人、全就業者数(6351万人)の11.3%。30年前の1984年のデータでは、自営業者(家族従事者含む)が1203万人、全就業者(6453万人)の18.6%だったので、自営業率は2割弱から1割強へ減少しました。

 今後も就職戦線が大手中心に展開していけば、ますます門は狭くなり、敗北感を味わう多くの学生が出てくるのではないでしょうか(大企業ばかりを受ければ、不合格の連続になるのは当たり前だと私は思いますが、学生時代にいわゆる就職活動をしなかった身にこれを論じる資格はありません)。

 私は再び自問してしまいます。自営業者の少なくなる国って面白いですか? と。

 暴論を承知でいえば、就業者の多くが被雇用者である社会では、世の中の不正や戦争といった不条理への怒りという会社外の世界で起こる出来事よりも、上司の自分への評価といった会社内の事象により敏感になるタイプが増えるような気がするのです。

 こうして国が内向きになっていった先に何が起こるのか、それを想像するのは、あまり愉快なことではありません。

(芳地隆之)

 

  

←「マガジン9」トップページへ   このページのアタマへ↑

マガジン9

最新10title : 今週の「マガジン9」

Featuring Top 10/195 of 今週の「マガジン9」

マガ9のコンテンツ

カテゴリー