あのドイツの企業が、と思わせる世界最大手の自動車メーカー、フォルクスワーゲン(VW)の不祥事でした。排ガス規制を逃れるソフトウェアを搭載したという問題について、真正面から論評する資格も能力も私にはありませんが、先日のマガジン9編集会議でこの話題が持ち上がった際、別の視点から考えたことを述べたいと思います。
「企業の長期的な展望が重要な役割を果たさなくなってしまったため、ここ数年、株価の乱高下が激しくなった。企業は、自社の四半期報告からアナリストが期待するものを満たすことばかり考えている」
ドイツのスポーツカー・メーカーのポルシェの元社長、ヴェンデリン・ヴィーデキンク氏は2001年にドイツの経済誌でこう語っていました。
「ドイツでは株式会社の文化がそもそも違うのだから、全部を全部、米国のマネをすることはない」とも。
時は株主の利益を最重要視する英米流コーポレートガバナンス(企業統治)が優勢な風潮にあり、ステークホルダー(利害関係者)すべてに目を配るようなドイツや日本の企業風土は批判的に論じられがちでした。
だからこそ、ポルシェ社長の言葉は新鮮だったのです。しかも、その後、アメリカではエンロンやワールドコムの粉飾決算スキャンダルが起きています。さすがはモノづくり大国の経営者と私は感心したものです。
しかしながら、自信に満ち溢れていたヴィーデキンクには落とし穴が待っていました。2006年に彼は自社よりも16倍も企業規模の大きいVWの買収に乗り出したのです。その強気の姿勢はVW経営幹部や株主であるニーダーザクセン州の反発を買い、買収は失敗。その後、VWがポルシェを傘下に置くことになります。
それ以降、VWは急速な拡大路線を進んでいくのですが、その過程の中で株価の上昇によって短期的に資金を調達しようとする傾向が経営陣のなかで強まったのではないか。私には、同社の不正がその延長線上に起きたように思えて仕方がないのです(といって、それを論証する術を私はもっていないのですが)。8月にスズキ自動車がVWとの資本提携を解消した背景にも、経営手法の違いがあったのではないか、と勘繰ってしまいます。
先日、イタリアでは普通のオリーブオイルを高品質の「エキストラヴァージン」と10社が偽って売っていたという疑惑が発覚したそうです。職人の誇りの高いかの国でもこうしたことが起こる(日本でも旭化成建材の杭偽装が360件も確認されました)。
資本主義を支えるべきモラルが低下すると何が起こるのか。このこととシリアでの米ロ仏による空爆が何らかの回路でつながっているのではないかとまで妄想が広がる日々です。
(芳地隆之)