今週の「マガジン9」

 これも特定秘密の対象ですか? と嫌味のひとつでも言いたくなるような、日本年金機構による情報漏えい後の対応の鈍さでした。2007年に発覚した公的年金保険料の納付記録漏れ問題(消えた年金)以降も、この組織の体質は変わっていないのではないかと思わざるをえません。

 変わらないといえば、当時の第一次安倍内閣時の首相の言葉が思い出されます。

 「(消えた年金記録について)最後のお1人にいたるまできちんと年金をお支払いしていくことを約束いたします」

 責任の所在も明らかにされていない状況で、いともたやすく「約束」してしまう、その安直さに私は驚きを禁じえませんでした。

 消えた年金問題が打撃となって退陣した安倍首相ですが、「再チャレンジ」で返り咲いた後も、オリンピック招致のための最終プレゼンテーションの場で「汚染水による影響は福島第一原発の港湾内で完全にブロックされている」と演説し、現在、議論になっている新安保法制に関しては「アメリカの戦争に巻き込まれることは絶対ない」と発言するなど、根拠なき断定の傾向はいまも続いています。

 こうした言葉の使い方は、本サイトのコラム「風塵だより」の鈴木耕さんが「安倍話法」として分析しています。心理学の研修対象としては興味深いかもしれません。しかし、相手は一国の首相です。国民の命がかかっています。

 ところがこの「命」という言葉も首相は実に軽く扱う。

 原発の再稼働や集団的自衛権の行使の理由は、「国民の生活、財産、命を守るため」と。しかし、年金という「国民の生活、財産、命」に密接に関連することについてはとたんに歯切れが悪くなるのです。

 安倍首相は国民の日々の生活にあまり関心がないのではないか。
 「アベノミクス」もそうですが、首相の言葉は、実態のよくわからない抽象的な物言いが多い。その方が楽だし、言葉に責任をとらなくても済むからでしょう。

 しかし、景気や安全保障だけで国は回っていきません。

 大仰なスローガンよりも国民に寄り添った言葉を、原発再稼働しなくては、日米同盟の強化なくては、日本は大変なことになってしまうといった脅しではなく、未来に拓けた希望ある言葉をーー。

 多くの国民がそれを聞きたがっていると思います。

(芳地隆之)

 

  

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